第18話 昔話
「呪われた……? 村か」言って桜紗はすぐに話題を変える「ところで二人は飯食ったかい?」
「いえ」「いやまだ」斗南と松宮の返事に、「この先にあるサービスエリアで休憩がてら、飯でも食いながらその話を聞こうか、後ろの二人にも情報を共有しておきたいからね」と追走している加賀島たちの車を、バックミラーでちらりと見て桜紗は言った。
「店はやってないだろうが何かしらあるだろう、料金はこちらで持つから好きなだけ食ってくれ」
サービスエリア内にはフードコートがあり、テーブル席が並んでいる。全ての店が閉店してはいるものの、食事は出来るし寒さを凌ぐことができた。
「思ったより寒いな」
と豪切が言った。「そんな格好してるからじゃないか? 私は暑いくらいだよ」と松宮が言いながら、着ているダウンジャケットのファスナーを下げた。
「自分こそ、結局帰らずに制服のままじゃないか。そのダウンは斗南殿のだろう」
「ああ。防寒を忘れてたんで助かったよ」と松宮。
「もっと寒くなりそうですよ」
斗南が言い、自動販売機で買ってきた焼きそばや、たこ焼きをテーブルに並べている。
桜紗たちも同じようにラーメンなど、いろいろ買い込み、隣の席に並べて座る。
「かなりの量だな」と松宮。
「自販機でこれだけ買うと、食事を食う前に時間ばかり食ってしまうよ。いくら食っても腹は満たされないけどな、なあ松宮さん」と桜紗は言ったが、松宮は「長いうえにつまらない」と一言。
そして、いちいち私に振らないでくれ、と。
「まあ、とりあえず兄様、しえたちを紹介してはどうだろう」
と豪切が促した。
桜紗はうなだれたまま右手を二人の方にやり加賀島五三と染桜しえを紹介し、今回の件には『儀式』が必要になるだろうから二人を同行させたと言っただけだった。
そんな桜紗のおざなりな説明に豪切が付け足したのは、紫桜は物に残留した念を『視る』ことの出来る霊能者で、加賀島は霊能者の補佐役であること。
桜紗の下につく彼らは、必ず霊能者、補佐役の二人一組で行動するということだった。
斗南は紫桜たちに、この状況は自分のせいだと謝罪し「よろしくお願いします」と。
二人はゆっくりと会釈し、「お気になさらずに。我々は仕事をしているだけ、なにがあろうとあなたが気に病むことはありません」紫桜のその言葉に松宮が
たこ焼きを頬張りながら顔を上げた。
「仕事? 呪われた身内のためじゃなかったか? もし仕事であるならば報酬が必要なのでは?」
桜紗は松宮の問いに「もちろん『仕事』ではないよ。しえは、いちいち言うことがかたいんだ。ま、我々もプロだからそれなりの報酬はいただくが、それはなにも金銭だけじゃない。気にしなくていい」
桜紗は松宮のたこ焼きをひとつつまみ、口に放り込むとニヤリと笑い、斗南に例の話をするように促した。
斗南はなんだか昔話のような、物語のような話だと前置き、『呪われた村』の話を始めた。
ある日その小さな村に母娘二人が現れた。
二人とも憔悴しており、頭からぼろ布に身を包んではいたが、長い白髪がばさりと垂れていた。
村人はその容姿に驚きながらも、もともと女子供の少ない村であったこともあり、二人を暖かく迎え入れた。
なによりも二人は美しく、すぐにそれは村中に知れ渡った。
原因は不明だが、母娘ともに白髪ということもあり、忌み嫌われ村を追われて逃げてきたということだったが、艶やかなその白髪は二人の美しさを際立たせていた。
ほどなく、母親もその娘もそれぞれが村の男と恋に落ちるのだが、それを機に二人の女をめぐり、村中を巻き込む大きな騒動が起きた。
結果、娘は生きながらに焼かれ、母親は生き埋めにされた。
狂い、呪いの言葉を発して。
それからというもの、村人の中から成人を迎える前に髪が白くなり、痩せ、まるで老人のようになって生き絶える者が現れた。
これをその母親の呪いだとし、その村では呪詛祓いの儀式が行われるようになった。
その村の名は『ひみご村』
話を聞き終えた豪切が桜紗に視線を移すと、それに気づいた桜紗はゆっくりと首を横に振り「まさに昔話だな」と言った。
「父さんがその話を聞いた時も、爺ちゃんは真実なのかどうかは分からないが、子供の頃とにかく毎日のようにお母さんに聞かされた」と言っていたみたいです。
松宮は首を縦に振り『ひみご村』はネット検索には引っかからなかったことを伝えた。
豪切はひたいに手を当てて言う。
「んー、その呪詛祓いの儀式とはどういうものなんだろうか?」
「それもはっきりとは分からないみたいですが、父が教えられたのは『呪いを受けたものは殺されるのが倣いだが、この先、身内に呪いを受けた者が現れたら殺さずに守りなさい』と言われていたみたいです」
斗南は答え、祖父の過去については、斗南の父親自身それまで聞いたことがなく、初めて聞かされたのがその昔話と、母親とは施設で暮らしていたこと。その母親もいつのまにかいなくなっていた、ということだけだった。斗南はそれ以上は分からないというように口を一文字に結び、続きを松宮に託した。
斗南の祖父が生まれたのは昭和初期、九十年近く前の話で、昔話はさらにどれくらい前の話なのかも分かっていない。
その話を斗南の父親は成人になって初めて聞かされ、すぐあとに祖父は自殺している。
斗南の父親からこれ以上の情報はなく、話自体の信憑性もないことを松宮は頭をかきながら付け足し、携帯の画面に目を落としていたが「ただ……きっとそういうことが本当にあったんだろうとは思う」と言った。
「では、斗南くんの夢に出る母親が連れている子供がお爺さん、ということか……? 年ごろは分かるかい?」
斗南は桜紗の問いに四、五歳か、小学一年生くらいと答えた。
桜紗は掛け声とともにパンッと手を打ち、
「これから確かめに行こうじゃないか」




