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怨念遺伝  作者: FUJIHIROSHI
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第16話 急遽

「いや、だから怒ったんじゃなくって」

 松宮は腹を抱えて、悪い悪いと左手を突き出し「嘘に決まってる。何かあったら伊予乃氏にはちゃんと説明するよ。ただ、君も驚いたように、ご両親も驚いていたろう。人ってさ、突然のショックには冷静な判断が出来なくなるもんだ」

 ふー、と笑うのをおさえて「だからさ、おかげで廃村のことを話してくれたろ」


「マチは別に関係ないですけど……まあ、確かに、そのおかげかどうかは分からないですけど、廃村のことを話してはくれましたよね。そんなことを考えてたんですか」

 どういうことだろう、と多少なりともドキドキした自分が馬鹿だったと思い、少し嫌味っぽく返してしまう斗南だった。


 笑い疲れたのか安心したのか、松宮は目をトロンとさせて、再び仰向けになった。

 つぶやくように言う「お父さん、優しそうだな。お母さんも……羨ましいよ。良い家族って感じ」「え? うちがですか?」

「うん。私の家はさ、兄弟はいないし、母親はとっくに他界していて、父親しかいないんだ……それも、実の娘を性的な目で見る、大学の教授様さ」

 え? と、斗南は顔をひきつらせて、ゆっくりと振り返った。松宮は仰向けのまま目を閉じていた。

「ああ、いや、そんなことより……話は戻るが、お父さんの話から、少し気になったことは……あった。それを……あとで調べようとは思……」


 話が途切れた。松宮は、すぅすぅと寝息を立てはじめた。

 斗南は立ち上がり、松宮に寄る。眠気で、口をすべらせたのか、家族のことは初めて聞いた。

 平然といつも通りに見える松宮も、やはり無理をしていたのだろう。すっかり疲れ切っていたようだ。


 眼鏡をかけたままの松宮を見て、斗南は眼鏡をそっと外した。

 あ、と斗南は目をぱちくりとしながら目を逸らした。

 両手を頭の後ろにやったまま仰向けになっている松宮の胸が強調されていて、目のやり場にこまった。


「寝れないですよ……」斗南がぼそりと言った。

 そのまま床に座り、そのベッドに背を預けて目を閉じた。



 しばらくして携帯の着信音が静寂を破った。

 慌てて机から携帯を取るが、画面に表示されたのは番号のみで、見覚えもない。

 後ろのベッドでは、同じように飛び起きた松宮が「どうした? 何だ? あ、あ、目がよく見えない、まさかあの女か?」

 慌てている松宮に眼鏡を渡す。

「ああ、そうか、外してたっけ」そのあいだも呼び出し音は鳴り続けている。


 出るかどうか迷う斗南の後ろからのぞき込み、「どうした? 大丈夫だよ出ても、それは豪切氏の自宅の番号だ」と松宮は言った。


 電話に出た斗南の耳に、挨拶も抜きに豪切の、二人の身を案ずる声が入ってきた。

 渡したペンダントは対になっていて、その片割れの札の色がどうしたとか、念のためだとか、早口の説明はほとんど理解できなかったが、その声から痛心つうしんと安堵は伝わった。

 そして予定を繰り上げて、いますぐにそちらに向かえに行くから準備を整えておいてくれと豪切は言った。




 午後九時を回り、斗南家に着いた桜紗の白いミニバンの助手席には松宮が、その真後ろの後部座席に座っている豪切の隣に斗南が乗り込んだ。

 先ほどシートはずぶ濡れの斗南たちが汚してしまっていたが、すっかり綺麗に片付けられていた。


 後ろにはやはり、加賀島と紫桜の乗る黒のセダンが待機していた。

 紫桜と加賀島はもちろん、豪切も桜紗同様、体にピタリとしている袴のような服装で、色だけが違う。

 紫桜と加賀島は上下ともに浅黄色あさきいろだが、豪切のそれは白と紫でコーディネートされている。


「ペンダントは外してないだろうね」確認して桜紗がカーナビを〇〇県の適当な場所に設定し車を出した。


 この白いミニバンの車体の四隅には、伊予乃に叩きつけたお札や斗南たちの着けているペンダントに似た金属板が溶接され、六魂神道の祭神さいじんの名が書かれている。

 車内に下げられた天然の木で作られた芳香剤も木札だ。

 もはや、走る結界である。

 これは後を追走してくる加賀島たちの車も同じだった。


「急かしてしまったな」

 すまなそうな顔の豪切に、斗南は、いいえと答えただけだった。

「もう絆創膏はいいのか? 傷、残らないといいな」

 豪切の鼻背びはいにテープは無く、頬と鼻の赤いスジのような傷を見て松宮が言った。「問題無い」と応えた豪切に、松宮はさらに「なにかあったのか?」


 一拍おいて、豪切がそれに答えた。

 学校に残った二人とは別のチームが真泊家に行き、つい先ほどそのチームから連絡があり、真泊真が()()()()で倒れ、意識不明の状態で病院に運ばれたということだった。

「真泊くんが? ま、真泊くんまで……」

 車内の空気はより重くなり、斗南はぶるぶると震え、頭を抱え打ちひしがれている。


 御守りの効果が無かったのか、着けていなかったのかは分からないが、斗南たちの安否を確認し、出発を早めたということだった。


「命に別状はないんだな? どうして真泊氏が襲われたことが分かったんだ?」

 当然、松宮は疑問を持った。

「発見された時、真泊殿は心停止状態だったようだが、すぐに息を吹き返して、いまは意識は無いが状態は安定しているようだ。運ばれた病院に、うちの人間を張り込ませているよ」そう説明し、豪切は視線を外に移して続けた。

「その渡したペンダントに、守りの効果を与えるためにお札を一枚使うんだが、それはそのままペアになるんだ。もしペンダントの方で霊障が起きた場合、ペアである札が黒く色を変える。だから真泊殿に何かあったんだと、うちの人間を行かせたんだ……一応、変色に気づいた兄様がすぐさま念唱を送って対応はしたんだが……」

 豪切の表情は暗く、ただボーっと流れる景色を見ていた。


 金曜の夜とあって人通りの多い街並みを抜け、国道を走っていた一行を乗せた車と、それを追走する加賀島たちの車が、いよいよ廃村に向けて高速道路に入った。

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