其の漆拾捌 3本足のヤタガラス
重たい闇に覆われた夜空を、紅い流星が駆け抜ける。
悪しき妖怪たちによって引き込まれた暗夜を上塗りするように、真っ赤な軌跡が幾筋も刻み込まれ、確かな熱と光をその場に残す。
空を彩る灼炎たちは真っ直ぐに、或いは複雑な弧を描きながら、自分たちが穿つべき敵へと狙いを定めていた。
「猪口才なァ……ッ! 豆鉄砲を何発撃ったところで、オレサマには当たらねェんだよォ!!」
灼炎の弾幕──即ち炎の弾丸たちが狙うのは当然、ヒバチ・ヒトウバンだ。
変幻自在の軌道を描くそれらに追い詰められ、彼は頭上で発火させた炭火の弾幕を応報として射出する。
炸裂音ののち、放出された炭火弾は正確に弾丸へと追突し、互いに砕き合って対消滅。
この戦闘で何度も何度も嫌というほど見てきた粉塵が大量に空を埋め尽くし──その中の1つを抉り飛ばしながら、まだ残っていた1発の弾丸が飛来する。
「っ!? クソッタレめッ!」
ここまで接近されては、術による迎撃も間に合うまい。
身を捻って回避を試みるが、それ自体は成功したものの、熱く焼けた礫は鼻先を掠めて飛んでいった。
弾丸が突き破っていった箇所を起点として、煙はたちまちに晴れ渡る。
煙の向こう側で爛々と輝く月をバックに、火縄銃を左手だけで構えた少年こそが、八咫村 九十九である。
「攻守逆転、だね。ここからは、僕たちのターンだ。覚悟しろ」
月光に照らされた彼の出で立ちからは、先ほどまでの焦燥感など微塵も見られない。
首にはためくマフラー状の装束が、彼こそ妖怪リトル・ヤタガラスであると雄弁に誇示しているかのよう。
(防戦一方、だと!? このオレサマがだぞ? さっきまであのクソカラスを一方的にぶちのめしていた、このオレサマが……!?)
地脈の修復。『現代堂』に有利な流れへと改竄されていた状況を、元に戻す。
たったそれだけの事で、優位は呆気なく逆転した。ヒトウバンはこれまでほどの出力で妖術を振るえず、対する九十九はコンディションが目に見えて向上している。
同時に、たったそれだけの事を成す為に、彼ら“八咫派”は時間を稼ぎ続けていたのだ。
わざわざ戦わなくてもいいヒョウタン・アブラスマシを足止めし、わざわざ守らなくてもいい神社を庇う為に防戦に回り、わざわざしなくてもいい消耗をしてまで戦況を遅延させた。
そのロジックを、彼ら『現代堂』は理解できない。
それこそが、勝敗を分ける彼我の差であると認識できないままに。
「烏合の衆どもが、抗いやがって……! 黙って消し炭になる程度の事もできねェのかァ!?」
「それをさせない為の僕たちだ。もう迷わない。例え体が黒焦げになっても、腕がへし折れても……僕は、恐怖に支配されないと決めたんだ!」
「下等生物の分際で偉そうにィ! 妖術《炭火焼災》ッ、さっさと焼け焦げちまえよォッ!!」
苛立ちを募らせながら頭部に妖気を集中させ、今度はヒトウバンの側から攻撃を仕掛ける。
これまでに幾度も放たれた炭火の弾幕だが、実のところ1発たりとも同じ軌道を描いた事は無かった。
果たして九十九以上に自在な弾道を操作できる熱と質量の雨は、紛う事無く脅威に値するだろう。
これを打ち破る為に最適な手段は、いたってシンプル。
こちらが持つ妖気の質で、あちらが持つ妖気の質を上回ればいい。
「フッ──!」
マフラーを翼のように翻し、弾幕に向かって急降下を決行する。
体を細く尖らせて滑空する様は、まさしく眼下の獲物を狙う鳥そのものだ。
靴裏から迸る火炎が、ブースターの役割を果たして少年の体を更に加速させる。
「何を──」
「僕が上にいて、お前が下にいる。これまでと違って、流れ弾や打ち漏らしに気に配る必要が無い以上──こういう手も取れるんだ!」
回避の予備動作すら取らず、愚直に弾幕へと突撃する。
そうして炭火弾の群れに突入する寸前、九十九は体を全力で捻り、螺旋を描くように回転。
すると彼の首に巻かれたマフラーもまた、捻りを加えられて勢いよく回転し、その布地に炎の妖気を纏わせて──
──BOMB!
長い長いマフラーが一瞬の内に薙ぎ払い、炭火全てを殴打・一斉起爆させた。
どれだけ至近距離で、どれだけ大量に爆炎を浴びようとも、妖怪ヤタガラスは熱や炎で傷付かない。
業火のど真ん中を突破して更に降下を続けた彼の左手は、またもや火縄銃の銃身を握り、銃床を武器とする構えを見せていた。
「至近白兵は得手だろうけど、そっちに対応している間、術を使う余裕なんて無いだろ? ましてや、地脈の妖気がそっちの味方をしないこの状況では──!」
炎を纏わせた銃床で、何度めかの殺撃を繰り出す。
それをヒトウバンが寸でのところで躱し、大きく開けた口を向けての噛み付きで反撃。
超至近距離から襲い来る無数の牙を、自身の体を仰け反らせて回避した直後、素早く元の形に持ち替えた火縄銃の銃口を突きつけた。
──BANG!
こめかみを狙った炎の銃撃は、高度を下げる事で対処された。
そうして視線を下に向けた瞬間、見えるのはヒトウバンの頭部──正確には、頭上にぽっかりと空いた穴と、その内部で火花を弾けさせる大量の炭火。
やっている事は九十九と同じだ。銃口を至近距離から突きつけているのと、何も変わらない。
「舐めンじゃねェぞォッ!」
放たれた灼熱の噴煙を、後方へアーチを描くように跳ね跳んで切り抜ける。
だが、そのせいで彼我の間に距離が生まれてしまった。空中でバックステップを踏んだ際、一瞬だけ生じた無防備を、敵がおめおめと見逃してくれる訳が無い。
「ブッ飛べェ──ッ!!」
「かっ……!?」
火鉢の九十九神として持つ陶器の重量と硬度に、生命体として持つ筋肉の密度、そして炎の妖気による加速と熱が追加された体当たり。
それそのものが砲弾と言っても差し支えないぶちかましが、少年の土手っ腹に見事なクリーンヒットをお見舞いした。
メキ、というナニカが潰れる、或いは折れるような幻聴を覚える。
喉から込み上げる血を堪らえようとした直後、更なる力を捩じ込まれた事で、九十九の体は大きく下方へと吹っ飛ばされた。
──ズッ、ドォン!
超スピードで叩き落された彼の体は、とうとう地上に墜落する。
これまで戦端を開いていた金鳥神社の上空周辺から遥かに距離と高度を離し、落下した先は繁華街……の跡地。
そこは昨日の夜、ヒトウバンの術によって火の海に変貌し、尽く燃やし尽くされた灰燼の廃墟だった。
墜落と同時に粉塵が巻き起こり、黒ずんだナニカの欠片やコンクリートの破片が砂埃と混じって舞い踊る。
小さなクレーター紛いの陥没を形成しながら、九十九はその中心部で血反吐を吐き出した。
「げ、ほっ……!? げほ、ぐっ……ま、だ……!」
「いいやァ、これで終わりに決まってんだろォ!?」
どうにか起き上がろうとしたその時、見上げた先の空から生首の異形が迫り来ているのが見て取れた。
叩き落されただけで倒せたとは判断せず、追撃とトドメを狙って来たのだろう。
その頭上には、これまで放ってきた中でも最大級の妖気と熱量が集束し、限界まで術の出力と精度を練り上げられている。
「トドメだッ──妖ォ術ゥ!! 《炭火焼災・盆櫓》ァァァァァアアアアア──ッ!!!」
無尽蔵。
そう形容してもなんら違和感が無いほどに大量──否、無数の炭火が咆哮を上げた。
1つ1つが纏う炎も、それまでとは火力が比にならない。ただ放たれただけで、通り過ぎた後の空気が焦げて黒ずむほどの熱量を帯びている。
字義通り、空を埋め尽くす物量の灼熱火山弾。それらは広範囲に撒き散らされるのではなく、九十九ただ1人を滅却する為だけに、彼のいる1点へと集中して飛来する。
いくら炎で傷付かないとはいえ、直撃によるダメージや衝撃は少なからず受けるもの。
況やそれが数百にも及ぶ圧倒的物量ともあれば、流石のヤタガラスとて無事で済む訳が無い。
「死ねェッ、リトル・ヤタガラァァァァァァァァァァスっ!!!」
降り注ぐ。降り注ぐ。降り注ぐ。
破滅の星が、煉獄の雨が、破壊の礫が。
後の事などどうでもいい。たった1人だけを滅ぼせればそれでいい。
そんな憤怒と執念と憎悪をたらふくに込めた、絶対殺戮の炭火弾。
破滅をもたらす流星雨を前に、九十九は立ち尽くしていた。
……いや、決してそう表現するべきでは無いだろう。
九十九は自らへ迫る炭火の雨でも、その彼方からこちらを睨むヒバチ・ヒトウバンでもなく、まったく別のモノを見ていた。
その目に映る、灼熱の幻像──火炎が象った巨鳥のヴィジョン。
【夜ヲ、恐レルナ】
それは、八咫烏だった。3本の足を持ち、雄々しく翼を広げる太陽の化身。
ただ1人の少年にしか見えない幻影は、自らを唯一認識できる彼へと向けて、嘴をゆっくりと動かした。
【夜ハ、何時如何ナル時モ“ソコ”ニ在ル。ドレダケ否定シヨウトモ、『昼』ト『夜』ハ表裏一体ナノダ。決シテ、滅ボスベキモノデハナイ】
「……」
【故ニ、夜ヲ恐レルナ。昼ヲ愛スルノト同ジヨウニ、夜モ愛セ。真ニ憎ムベキハ、『夜』ヲ御旗ニ『昼』ヲ滅ボソウトスル者タチダト心得ヨ。ソレガ、“昼ト夜ノ狭間ニ立ッテ生キル者”ノ宿命デアル】
「……うん。ちゃんと、分かってる」
左手を伸ばし、己の胸をそっと掴む。
右腕の痛みなど、とうの昔に忘却していた。
「やっと分かったんだ。恐怖は、否定すべきものじゃない。恐怖に振り回されて、“やるべき事”を見失ってしまう事こそを否定すべきだったんだ。僕はもう、夜も、この血に流れる力も恐れない。僕の中の恐怖さえも武器に変えて、戦っていく」
【……美事】
大きく、翼が広げられた。
構成する要素全てが炎に置換された、真っ赤に燃える業火の翼。
虚構の火の粉を巻き上げて、八咫烏は高らかな咆哮を上げる。
まるで、リトル・ヤタガラスという新たな妖怪を祝福するかのように。
【──Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!!!】
その直後、九十九の立っていた地点に、無数の炭火弾が襲いかかった。
絶え間なく断続的に降り注ぐ狂熱のシャワーが、周辺の地形ごと徹底的に打ち砕き、焼き尽くす。
この猛攻を耐えられる存在なぞ、この世にどれだけ存在するだろうか。
「……やったか? やったんだな!? とうとうブッ殺せたんだな、オレサマはァ!!」
破壊と炎上の限りを尽くした炎の弾幕が止んだ後、そこには何も残っていなかった。
辛うじて残っていた瓦礫や黒焦げの廃材も、爆撃の嵐には耐え切れず、粉微塵と化して空気中に消え去っている。
先ほど叩き落された際にできたクレーターでさえ、粉々に破壊され切った地形と混じり合い、その残滓すら残せていない。
リトル・ヤタガラスは死んだ。確実に滅殺する事ができた。
その確信を抱き、ヒトウバンはけたたましく、勝利の喜びに雄叫びを荒らげた。
「ゲヒャッ──ゲーッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!! 勝ったァッ!! 遂に勝ったぞォッ!! これでッ、『げえむくりあ』の栄光を手にするのはこのオレサ──」
叫声は、そこで止まった。
見えたのだ。見えて、しまったのだ。
初め、ヒバチ・ヒトウバンがそれを見逃した事を、誰も責める事はできない。
それは全面が綺麗な黒一色に染まっていて、薄暗い夜の闇の中で見事に溶け込んでいた。
粉塵と火の粉が舞い散る中で、それを遠目から正確に見通し、その正体を認識する事は困難を極めるだろう。
それは、黒い球体だった。
やや楕円を描いた卵型で、人1人がすっぽり収まるほどの大きさに見えた。
そして何よりも、先述のように美しい黒色を纏っている。それこそ、夜の闇に紛れ込む事ができる程度には。
明らかに、先ほどまで存在しなかった筈のモノ。
その正体に訝しみを向けた直後、それはゆっくりと紐解かれていった。
するすると、絡まった糸を解いていくかのように、少しずつ球体としての形状を失っていく。
果たしてそれの正体は、1本の長い線だった。それが弧を描き、重なり合う事で、内部が空洞のボール状に変形していたのだ。
球状の形態を解くにつれて、徐々に明らかになっていくその正体。
やがて完全に球体ではなくなった後、ゆらゆらと揺らめく長い線──否、漆黒のマフラーをたなびかせながら立っていた彼こそ。
「なんっ、で……なんでッ、まだ生きてるんだよォォォォォオオオオオッ!!??」
「──お前を倒して、この『げえむ』を終わらせる為だ!」
──八咫村 九十九。
己の心と、血と向き合い、自身が持つ妖怪の力を真の意味で受け入れた少年。
その決意と覚悟を、瀬戸に埋め込まれた“縁”の糸と、正常に戻された地脈の妖気が後押ししたのだ。
彼が首に巻いていた装束、認識阻害の力を宿した黒のマフラーは、これまでよりも2倍近く長くなっていた。
これでは最早、装束とは形容し難いだろう。尻尾とか、いっそ触手と表現した方が的確な気にすらなってくる。
そして、変化が起きたのは長さだけではない。
以前は風にたなびき、自然的に揺れていただけだったのが、今では明らかに物理法則を無視した動きを見せている。
軽くとぐろを巻き、鎌首をもたげたその挙動は、蛇かなにかのように感じられるだろう。
何よりも、先端が大きく変質していた。
今まではマフラーらしい布地を見せていた先端は、その形状と質を変え──
「ならッ……テメェが死ぬまでブッ殺してやるよォ!! 首を噛み千切って、頭ン中の脳みそをグッチャグチャに咀嚼してやらァッ!!」
怒り狂ったヒトウバンが、絶叫を伴って突撃してくる。
炎の妖気を後方に打ち放して加速した陶器の生命体は、牙をこれでもかと剥き出しにしている。
先の言葉通り、首に噛み付いてへし折るつもりなのだろう。
今にも接近してくる暴威に対して、九十九は目を見開き、その黒い眼光を露わにした。
「疾ッ──!」
マフラーが独りでに動き出した。
自らの意思で動いているかのように、巻いていたとぐろを即座に解き、ヒトウバンに向けて一直線に突き進む。
その先端は迫る熱気を反射して硬質な煌めきを見せ、5本の指をくっぱりと開いた。
そう、指である。
ヤタガラスとしての力を更に引き出した事で、妖気から編み出したマフラー型の装束は大きな変質を起こした。
即ち──黒く長く、術者の意思に応じて動く、3本目の腕へと。
「なっ──がぎっ!?」
5本の指は突撃してきたヒトウバンをキャッチすると、握り潰さんばかりの握力でアイアンクローをぶちかます。
ギリギリと肉に食い込む指先が異形の肌を圧迫し、深い傷跡を残していく。
やがて、それだけでは握り潰せないと判断した九十九は、マフラーを操ってヒトウバンをぶん投げた。
投石もかくやというほど綺麗なフォームで投げ飛ばされた生首は、しかし空中で減速をかけながら見事に体勢を整え直す。
(クソがッ……! ここは退却して……いや、こんなところで逃げちゃァ、『現代堂』の名が廃るだろうが!)
抗戦か、逃走か。
そんな2択が脳裏を過りながらも、再び敵に目線を向け──驚愕する。
そこには、両手で火縄銃を構える九十九の姿があった。
両手、と言っても、彼の右腕は折れたままだ。使い物にならないほどボロボロになったギプスが貼り付いていて、先ほどヒトウバンに噛み付かれた傷跡も残ったまま。
では、何を以て両手と呼ぶのか?
その答えこそ、新たな力を帯びたマフラーにあった。
「段々分かってきた……。理屈や言葉じゃなくて、本能とでも呼ぶべきところで。この力の使い方を……!」
──マフラーの先端が、火縄銃を握っている。
より正確な表現をするならば、マフラーの先端に形成された指が、火縄銃の右手で持つべき箇所(今回の場合はグリップと引き金部分)を握っているのだ。
長い中途部分はとぐろを巻き、首元で緩めに巻き直される事で、銃を構える際に不具合が無いよう長さを調整されている。
当然、無事な左手は銃身に添えられていた。
これで、片手だけで扱う時よりも、精度や威力は格段に向上する。
後は、マフラーの指部分で引き金を引けばいい。
──BANG! BANG! BANG!
立て続けに連射された銃弾が、幾筋もの軌跡を緋で刻む。
その速度、出力はこれまでよりも高いものだ。空気中の塵を焦がしながら、寸分違わず敵妖怪へと殺到する。
「炎の妖気を込めた弾丸に、腕みてェに動く首巻き、鉄砲を扱う能力……どっ、どんだけ術を使いやがる!? テメェ一体、何の妖怪なんだよォッ!?」
混乱を極めた思考の中で、それでも欠けない戦意が頭上から炭火を迸らせる。
吹き出た炭弾は炎の弾丸を迎撃するが、代わりに至近距離で炸裂した爆風がヒトウバンを巻き込んだ。
「……凄い。あれだけの怪我をしてるのに、あれだけ生き生きと戦えるんだ……」
そんな彼らの戦闘を、ようやく追いついた仲間たちが驚きと共に目撃する。
特に姫華は、九十九が敗北する瞬間を目の当たりにしていたからこそ、意気消沈ぶりを振り払った彼の姿にすっかり目を奪われていた。
今の彼に、敗北後の焦燥感も痛々しさも無い。
生気と闘志に溢れた、半妖狩人の姿だけがそこにはあった。
それこそ、1人の少女の心を救ったヒーローの出で立ちに他ならない。
「私は、九十九が戦ってるトコを見るのはこれが初めてだけど……あいつ、あんな戦い方をしてたの? 首元のアレ、なんかおかしな改造手術を受けたとかじゃないでしょうね」
「いや……ありゃあ、わてらも知らない術で御座いやす。ご当主様が教えたのは、あくまで認識阻害の術。あのような効果があるなど……」
「何言うてんねん。あんなん術でもなんでもあらへん。それどころか、八咫村のやったらできて当たり前の事やんけ」
そう口を挟んだのは瀬戸だ。
胸元にぐったりしたままのお千代を抱え、その翼を撫でてやりながら、自分はサングラス越しに戦闘を眺めている。
「できて当たり前……って事は、課長はなんか知ってるんです?」
「そら、普通に考えたら分かる事やがな。むしろ、今までアレができてへんかったんがおかしいくらいや」
彼に促されるようにして、他の面々も戦闘中の九十九たちへと目を向け直す。
そこには、防戦ばかりで徐々に追い詰められていくヒバチ・ヒトウバンと、彼を機動力や射撃を活かして追い込んでいく九十九の姿があった。
彼の首に巻かれたマフラーは、彼の意思に従って自在に動き、火縄銃を的確な所作と共に扱っていた。
その様を見て、瀬戸はしたり顔で笑みをひとつ。
それは嘲りや含みのあるモノではなく、どちらかと言えば「肩の荷が下りた」とでも言いたげな笑顔だった。
「考えてもみいな。八咫村のは、自分の血に眠るヤタガラスの力を引き出しとんねんで? 仮にもヤタガラス名乗るんやったら、3本目の足が無かったら逆におかしいやないか」
視線の先を飛翔する九十九は、その“3本目の足”で、今まさにヒトウバンを殴り飛ばすところだった。
サングラスの奥に潜む眼差しが、ゆっくりと目を細める。
彼の目に映る九十九は、雄々しく武勇を振るう勝利のカラスのように見えていた。
特撮ヒーロー特有の強化アイテム回……ってコト!?




