其の漆拾弐 煤取節供
かつて、神ン野は語った。
強い妖気は、己より弱い妖気を捻じ伏せる。弱い妖気を込めた術は、己より強い妖気を込めた術に競り負ける。
それは、妖怪の戦いにおいて絶対の真理として機能する。
妖術とは即ち、術を目の当たりにした敵に恐怖を抱かせる為の能力である。
その為に妖怪たちは、多様な発想とアプローチを以て妖術を練り上げ、より「恐ろしさ」を磨き上げていった。
けれど、こうは思わないだろうか。
「妖術ゥ、《油一匁》ェェェェェッ!!」
より“強い力”を発揮する単純な妖術と、あくまで“弱い力”で運用される奇怪な妖術。
如何に手練手管を仕込もうとも──果たして、恐ろしいのはどちらだろうか?
「不、味……!? これ、逃げ場がどこにも──ッ」
「姫様、こちらですわ!」
姫華たちを襲ったモノの正体は、大量の油だった。
それは昨晩、九十九が目の当たりにしたものとまったく同質の術。
己の体に妖気がある限り、魔の瓢箪から無限に湧き出してくる邪悪な油。
「呑み込めェッ! 関係無ェ奴が巻き込まれようがどうでもいい! どうせここをぶち壊しちまえば、あっしの勝ちまであと1歩なんだからなァッ!!」
癇癪を拗らせたアブラスマシは、とうとう辛坊堪らずに妖術を行使した。
視界に映る他者を認識できなくなった現状、全方位を無差別に攻撃すれば、自分が生み出したガキツキどもさえ巻き込んでしまうというのに。
実際は既に全滅しているのだが──ともかく、今の彼が思っている事はただ1つ。
ガキツキなどという雑魚の群れなぞ、巻き込んでしまったところでどうでもいい。
要は、最後に自分だけが勝てばいいのだから。
──ドッ……パァンッ!!
それは図らずして、前回の『ぷれいやあ』であるフデ・ショウジョウが振るった術と似通っていた。
つまるところ、質量と勢いを伴った液体を大量にぶちかませば、大体の物体は破砕できるのだ。
その証明として、解き放たれた大量の油は神社へと続く階段に叩きつけられ、石の段を粉々に破壊する。
それだけではない。360度に放たれたそれらは、近くにあるモノというモノを手当たり次第に呑み込み、或いは砕いていった。
信号機をへし折り、ゴクリと呑み込んで。
古びた廃屋を砕き、ゴクリと呑み込んで。
石灯籠を断ち割り、ゴクリと呑み込んで。
あらゆるモノを内側に取り込み奪い去る妖気の油が、津波のように荒れ狂い、辺り一帯から全てを劫奪した。
そう、全てを。
例えば、それは──己よりも少なく弱い妖気によって構築された、認識を“ごまかす”術のカーテンさえ例外ではないのだ。
「……おっ? なんだなんだ、ちゃーんと視界がくっきり映るじゃないか! やっぱりあっしの知恵は正しかった。こういうのはな、ぜーんぶサッパリぶっ壊しちまうのが一番“すまあと”で“いんてりじぇんす”なんだよな!」
如何に“良縁”によるブーストがあろうとも、彼我が持つ妖気の量という、絶対的な差を覆す事は叶わない。
押し寄せる油──途方も無い妖気の塊に打ち負かされたイナリの妖気は、たちまちに敗れ去った。
引き裂かれた幻影の膜は彼方に消えて、元通りの景色がアブラスマシの視界に還ってくる。
同時に、蝕まれていた思考力も復帰したらしく、いやにスッキリした様子で快哉を上げた。
「あ……ぶなかった。ありがとう、お千代さん」
「いえいえ、姫様も咄嗟に反応してくださって助かりましたわ。そこのキツネは捨ててくださっても構いませんけれど」
「減らず口ばっか叩きやがってよ、このスズメは……」
その様子を、中空から見下ろしている人間1人に妖怪2体。
反射的に灯籠の上のイナリを抱きかかえた姫華は、お千代のちっちゃな足で服を掴んでもらい、こうして3人揃って空に離脱する事ができていた。
もし数秒、回避の決断が遅れていたら。
直下をグルグルと流動する黄土色に背筋が薄ら寒くなった矢先、ようやく自分たちの存在に気付いたらしいアブラスマシと目が合った。
「見ィつけたァ……! 馬鹿面晒して空中に逃げるなんてさぁ、あっしに狙ってくれって言ってるのかァ? ヒバチの野郎に勝るとも劣らない間抜けっぷりをありがとよ!」
「ヤバい、見つかった! お千代さん、私を離して代わりにイナリさんを……っ!」
「無茶言わないでくださいまし!? 姫様を見捨てて逃げるなどという恥晒しを──」
「言ってる場合でやすか! 来やすよっ!」
がっしと脇の内に抱え込んだ瓢箪から、油の弾丸が緋を吹いた。
妖気混じりの油は妖しく淡い紅色にほんのりと染まり、散弾銃のように強襲をかけてくる。
その1つ1つが出力と威力に一切の遜色無き妖術であるなど、説明せずとも分かる事だ。
油の塊に絡め取られれば最後。
道具であればその存在を呑み込まれ、泡沫の如く消滅する宿命が確定する。
生物であっても、高質量の液体を真正面から喰らって無事で済む訳が無い。
「かっ、回避~! 回避しますわ~!?」
「わての方でも、どうにか“ごまかし”てみやす! お前さんは嬢ちゃんを落とさない事だけに集中してくださいやし!」
「わ、私はどうすれば……!?」
「嬢ちゃんは自分の妖気に集中! 呪いを行使する“いめえじ”を絶やさないようにするんでさ!」
「わ……かった! って──きゃあぁあっ!?」
顔面の横すれすれを、油弾が通り過ぎる。
恐ろしいほどに至近距離を掠めたそれは、ただの一瞬で、姫華におぞましくも濃密な妖気の匂いを感じさせた。
至極当然の話だが、ヒョウタン・アブラスマシの妖術はその程度で終わらない。
次から次へ、無機物を喰らい尽くす油の弾幕が中空の3人組を襲撃した。
その隙間を縫って飛翔するべく、意を決したお千代は翼に意識を巡らせる。
終わりのない射撃。絶え間ない砲撃。限りない油の包囲網。
シューティングゲームもかくやという弾雨の中を、夜雀のちっちゃな翼がはためいていく。
「ちょこまかちょこまかと……! いい加減、堕ちろってんだ!」
「ご生憎様ですがねぇ、わたくしとて油塗れになって“ふらいどちきん”と果てるのはご勘弁ですのよ!」
これほどの妖術弾幕を浴びせてなお、飛行する彼らを撃ち落とせないのには訳がある。
如何に飛行能力に優れたお千代と言えど、避けきれない攻撃は存在する。如何に癇癪持ちのアブラスマシと言えど、これだけ撃てばいつかは攻撃が命中する。
それらが重なり合って、油弾がお千代や姫華、或いは彼女が抱えているイナリを打ち据えた事もあった。
しかし、である。
(クソッ、まただ……! 今のもまやかし、また“ごまかされた”ってか!)
命中した瞬間、彼らの姿は泡沫に消える。
彼方へ消え去りゆく油に貫かれて消失したそれの正体は、当然ながらイナリが“ごまかし”の術によって構築したデコイである。
敵に自分たちの居場所を誤認させ、命中精度を著しく低下させる。
振るえる妖気にも限界はあるが、それでも自分たちが被弾する可能性を減らし、そこに至るまでの猶予を可能な限り引き伸ばすには十分だ。
(クソッ、クソクソクソッ! どうしてあっしが苦戦する!? ヤタガラスならまだしも、あんな木っ端妖怪どもに、ただ呪いの才能があるってだけの娘っ子が相手だぞ!? あっしは頭を使った、“とりっきい”で“みすてりあす”な『げえむ』をだなァ……!)
だから、アブラスマシは苛立ちを溜め込む。だから、癇癪がぶり返す。
自分を知恵者だと思い込んだ乱暴者は、自分の思い通りにならない現状にフラストレーションを増幅させていく。
(いや、待てよ……! もしかしたら、これなら──!)
だから、こんな手段に出る。
「なんだ……? 急に弾幕が止まりやしたが……」
「ふぅ……やっとのですの? では、ここからもう1度反撃に──」
「へっへっへ……最初っからこうすりゃよかったんだ。やっぱり、あっしは頭がいい。その辺の凡百どもとは大違いだ」
瓢箪から湧き出る油を止めて、栓をする。
そのまま瓢箪は腰に下げて、パンと音を立てつつ合掌。
彼の目の前には、今なおドロドログズグズと足元でうねり、一切合切を舐め取りながら這いずり回る大量の油があった。
先ほど、片っ端から薙ぎ払う為に撃ち出して、獲物が空中に逃げたが為に放置されていた黄土色の波濤。
潤沢かつ芳醇な妖気で満たされたそれらを一瞥して──手の内で、印を組む。
「魂持たざる人形よ、邪気を食む憑き物なりて、成るは物の怪、魑魅魍魎……!」
そうして唱えられた呪文は、開戦前にも聞いたもの。
即ち、道具の概念を上書き汚染するガキツキ生成の術《物気付喪》だ。
「またガキツキを……? でも、なんで今更……」
「へへっ、まだこれからさ……! 繋ぎ繋いで大掃除、塵も積もれば山となる!」
詠唱と共に、アブラスマシの足元に広がる油全てが一斉に光を放つ。
それは、術者の意思に妖気が反応した証。妖術の完成によって、これらの油がガキツキへと変換されるのだろう。
だから問題は──光っている範囲が、あまりにも広過ぎる事にあった。
開戦前に行使された際は、油弾が包み込んだ石ころや草木1つ1つに術が適用され、ガキツキの群れを生み出した。
けれども、今回はどうだろうか。
無数の油弾などではない。解き放たれた波濤は、その全てで1つの油と見做される。
信号機、乗用車、看板、廃屋、灯籠、石段、エトセトラエトセトラ。そこら中にあったあらゆる“道具”を呑み下し、油の海は未だ健在だ。
もしも──これらの道具全てを内包した油が、1つの道具として術の対象に捕捉されたならば?
「儀式妖術──《物気付喪・煤取節供》ゥッ!」
──ぐにゅり
油の海が、盛り上がった。
辺り一面を覆い尽くし浸し切っていた油が、ただ1点に集中する。
吸い込んで、吸い込んで、取り込んで、取り込んで。
内側に含んだ道具の諸々を侵蝕して、溶解して、吸収して。
その存在全てを凌辱して否定して解体して分解して消化して劫奪して。
無数の道具と、大量の妖気と、潤沢な油。
それらが一体化して、1つの妖怪となった瞬間。
「見ろォ! これこそあっしの切り札、その名も“タザイガキツキ”だァッ!」
「エッ──エギャハァァアアァァァアアァァアアアァアァァアアアァァァァアアァァアアアアッ!!!」
そこに君臨したのは、巨大な1体のガキツキだった。
体長は10mに相当し、筋骨隆々、強靭かつ頑健な肉体を持っている事は傍目から見ても明らかだ。
ガキツキたちの身につけている外套をいくつも縫い合わせて作ったかのような腰巻き以外に、その体を隠すモノは無い。
ギラギラと歪んだ光を放つ眼差しと、不自然に歪曲した下顎の牙が、矮小な獲物を食い潰し滅ぼさんと殺意を放っている。
多財餓鬼。
どれだけ財貨を得ても決して満たされない魔性の名を持つそれは、赤ん坊の泣き声を捻じ曲げたような叫声を上げた。
「なに、あれ……!? あれもガキツキ……なの?」
その声が確かに震えている事は、誰が聞いても明らかだった。
目の前で起き上がり、産声に似た不快な雄叫びを上げた巨体の存在が、あまりにも信じられなかったのだ。
「いやいやいや、冗談でやしょう!? あんなガキツキ、見た事ありやせん! どんだけこの土地の妖気を捻じ曲げてるんでやすか、『現代堂』の連中は!」
「それよりも……これは、ちょっと不味いですわよ!」
姫華とイナリを掴んで飛びながら、お千代は悲鳴にも等しい声を漏らした。
ジロリ、と目が合う。あの恐るべき、そしておぞましき巨体の異形──タザイガキツキの胡乱な瞳が、自分たちを捉えたのだ。
一刻も早く、離脱しなければならない。だって、そうだろう。
「あんなデッカい体を振り回されたんじゃ、わたくしたちだって無事では──ッ!?」
仮に、巨大な存在が、自分の巨大な腕を、巨大な筋肉が持つ膂力で振れば、果たしてどうなるだろうか。
どうして人は、巨大になればなるほど動きが鈍重になると思えるのだろうか。
「エギャハァァアアァアアアアァァァアァァアアアォォォオオオオォォオオオォオンッ!!」
轟。
それは最早、パンチですらなかった。薙ぎ払った訳でも、叩き潰した訳でもなかった。
ただただ純粋に、宙を舞うハエや蚊を叩き落とすかのように、無造作に手のひらを振っただけ。
たったのそれだけで、宙を飛びながら逃げていた3人はあっさりと捕捉され、あっさりと地面に叩きつけられた。
地雷の爆発もかくやというほどに着弾地点のアスファルトが粉砕され、もうもうと砂煙を吐き散らす。
追撃か、トドメか。如何なる目的にせよ、更なる攻撃を仕掛けるべく、タザイガキツキがもう1度腕を振り上げた時。
「……エギャアァハ?」
手のひらに付着していたのは、叩き潰した相手の血肉ではなかった。
べったりと肌に張り付き、ピリピリと痺れるナニカを染み込ませてくる……大量の、真っ黒い鳥の羽。
この程度の毒素に蝕まれる訳では無いが、何故このようなモノが張り付いているのかは不可解だった。
ロクに知性も理性も無い眼差しを、はたき落とした獲物たちが潰れ果てているだろう着弾地点まで下ろす。
直後、唐突に吹いた風によって掻き消された砂煙。
吹き飛ぶ砂塵の中に紛れた無数の黒い羽根、その向こう側に見えた光景は、タザイガキツキの想像の外にあるものだった。
「くっ、ぐぅ……嬢ちゃん、ご無事でやすか……?」
「う、うん。痛た……。お千代さんと、イナリさんのおかげで……どうにか」
「それは、重畳……ですが、これは……わたくしは、もう、“ぎぶあっぷ”、ですわね……」
姫華も、イナリも、お千代も、未だ生きていた。
3人ともボロボロの状態だが、それでも致命傷を負っている訳ではない。
タザイガキツキの掌底が振り下ろされる寸前、お千代は全力全開で妖気を振るい、生成できるだけの羽根を大量に展開しまくった。
自分たちが接触しても問題無いように、無毒な羽根を生み出して生み出して自分たちを覆うドームを作り、その表面には毒の羽根を纏わせて。
そこにイナリが“ごまかし”の術を被せ、敵に急所を外させると共に、羽根でガードしたという事実を認識させなくしたのだ。
結果、地面に叩きつけられた衝撃で大きなダメージを負ったものの、彼らは無事に耐え切る事ができていた。
しかしその代償として、お千代は最早限界だ。
振り絞れるだけの妖気によって術を行使した以上、回復期間を置かなければ彼女のポテンシャルはからっけつも同然である。
「お千代さんっ!? し、しっかりしてっ!」
「……! 不味い、嬢ちゃん! スズメを抱えて逃げてくださいやし!」
抱きかかえたイナリの叫びに顔を上げた瞬間、その焦ったような言葉の意味を悟った。
「エギャハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!」
あれほどの巨体であれば、たったの1歩ですら多大な距離を刻む事ができるのか。
その事実に対する驚愕と恐怖を噛み締めるよりも早く、タザイガキツキは倒れ伏した3人の目前まで迫り、またもや太く剛健な腕を振り抜いた。
「嬢ちゃんっ!! ここはわてが……」
「ダメッ! イナリさんも一緒にっ!」
自分たちを庇おうと前に出んとするイナリを拾い上げ、脇に抱えたお千代と一緒に胸の内へと抱き留める。
元々立ち上がりかけていた事もあって、2匹の召使いたちを抱えながら真横へ転がる事に成功した。
──ズドンンッ!!
ぽっかりと綺麗な形を象って、アスファルトに大きな手形が刻まれた。
先ほどまで自分たちがいた、今はぐしゃぐしゃのミンチと化した羽根の塊だけが残った景色を一瞥し、姫華の背筋にゾクリとしたモノが奔る。
「あれで……妖術でもなんでもない、ただの押し潰しだっていうの……!?」
咄嗟に避けなければ直撃していただろう、重量と質量をこれでもかと帯びた肉の塊。
ただの手のひらが、ただの叩きつけが、これほどまでに殺傷力を持つなんて知らなかった。
今回は避け切れた。
けれど、次以降も避け切れる、避け続けられるとは限らない。
それに加えて、いつまでも避け続けている訳にはいかない。逃げ続けていては、倒せるものも倒せないのだ。
グッと歯を食い縛り、左腕で2匹を抱えながら、右手で前方へと突き出す神楽鈴。
軽やかな音がシャリンと鳴り、極限状況に陥ったこの場において、姫華の人間性を微かに癒す。
「まだ、上手く固まってないけど……! でも、怯ませる程度のイメージなら今すぐにでも──」
「──おおっとォ、隙だらけだなァ!」
油弾が1つ、意識の隙間を引き裂いて接近する。
目の前に至るまでその事に気付けなかったのは不幸であり、着弾した油が手元を打ち据えるだけで済んだのは幸運だろう。
その上で、手に持っていた神楽鈴が油弾に絡め取られてしまった事は、まさしく不幸以外の何物でもなかった。
「あっ──!?」
ごくりと呑み下された神楽鈴は、油の中に閉じ込められたまま明後日の方向へと飛んでいった。
勢いを失う事なく、そのまま尖った瓦礫へと真正面からぶつかった結果……
──POW!
弾けて消えた油と共に、永遠にこの世から消滅した。
どれだけ手を伸ばしても、囚われたまま泡沫となったそれは還ってこない。
「へっへっへっへっへ……! 一瞬の隙を突くあっし、まさしく“いんてりじぇんす”だよなァ!」
「そん、な……」
愕然とする。思いつきのような一手に、状況を覆されてしまった事を。
いや、それだけではない。そもそもこの状況は、誰も意図していなかったのだ。
そんな状況がどうして引き起こされたかと言えば──
『私だって……背負うんだ』
瀬戸の言いつけを聞かず、九十九の負担を減らしたいが為に、交戦を選んだ自分たちのせいだ。
自分たちがガキツキを一掃し、敵を追い込んだ結果、癇癪を起こしたアブラスマシによって逆に窮地に追い込まれてしまった。
これでは、負担を減らすなどできやしない。むしろ、逆効果だろう。
このように巨大なガキツキなど、対処するには九十九でも無ければ難しいのだから。
「……私の、せい?」
ポツリと呟かれたのは、果たして悲鳴か。
力無き者が奮闘を選んだ結果がこれならば、この世界とはなんと残酷なのだろうか。
この世界は、力有る者にしか回せないのであれば。出しゃばった、身の程を弁えなかった罪過は、力有る者への更なる負担として現出するというのだろうか。
それならば、それならば。
自分たちが奮起した意味など、最初から。
「さァて、いい加減にムカムカしてんだよ。タザイガキツキ! とっとと潰してしまいなァ!」
「エギャハハハハハハハハハハハハッ!! エェェエエェェェエエエェェェエッ、ギャハハハハハハハハハッ!!」
嘲笑が轟き、剛腕が動く。
どうにか対処しなければ、あの巨体はたちまちにこちらを捻り潰すに違いない。
避ける? どこに? 耐える? どうやって? 切り抜ける? 私なんかが?
グルグルと悪循環に流転する思考の中で、姫華は胸の内のイナリとお千代を見た。
(せめて、2人だけでも)
上手く放り投げれば、逃がす事はできないか。
そんなアイデア未満のモノさえ、脳裏に過った瞬間。
──KA-BOOOOOM!!
上空で巻き起こった爆発と、けたたましい爆音と、吹き荒れる熱風。
それらが混在となって、この場にいた者たち全員の意識を空へと向けさせた。
唐突に明るくなった夜空に目を這わせ、少女の口は小さく震える。
「……九十九、くん……?」
「妖術、肥大蕃息の術!」 \いー!/
最近のスーパー戦隊は戦闘員も巨大化するパターンがあって善い。
スゴーミンとかゾーリ魔とか。ホントに最近か……?(一時的正気)




