表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私が専業主婦なのはお前のためじゃない

作者: 天野惹句(あまのじゃっく)

・このお話はフィクションです。ファンタジーではありません^^

・ツィッターで共働き女性が呟いていた、同僚の奥さんが専業主婦なのに休みを代わってくれないという愚痴から妄想しました。

 妻がキレた。

 今年に入って何度目かの予定のキャンセルに仕方のないことだとは言え滅茶苦茶キレた。

「また、なのね」

「ああ。また、だ」

 俺は慰めの言葉もかけられず、ただ判決を待つ罪人のように小柄な妻を見る。

「またあの人?」

「子供の具合が悪いらしい」

「月に一度、必ず具合が悪くなったり子供の用事が入るのね。私、日記に付けてるのよ」

「……」

「貴方の仕事を理解しているし、貴方が悪いわけじゃないのも判ってる。強いて言うならそんなことを許している上司さんが無能だなと思うけど、仕事のできない人間ってのはどこの会社にもいるし、自分が害を被らなければどうでもいいって人間も腐るほどいる。私が社長ならその女は首にするし、何よりも貴方の休みがなくなったことが腹立たしい」

 平坦な声はどこまでも続いた。


 ことの発端は今年に入ってから同じ部署になった同僚である。彼女は夫婦共働きの子供二人を持つ母親だ。

 俺の部署は仕事の都合上月に一回から二回くらいの割合で土日出勤がある。もちろん女性は免除という特別待遇を受けているので彼女が出勤することはないのだが、問題が起きたのは俺の振り替え休日であった。


 最初は偶然かな、と思った。

 たまたま俺が振休の日に子供の具合が悪いから休ませてほしいと上司に言ったのだ。もちろん休ませたが、俺の部署での仕事は役割ごとに違っていて、俺がメインでやっていることを彼女がサブでやっている状態だった。彼女が休むとなれば俺が出勤するしかない。

 週末まで含めれば8連勤かよ、と悪態を吐きたくなったが子供の病気じゃ仕方がないと諦めた。


 だがそこから何度も同じことが続いた。

 ある時は子供の学校の用事が、ある時は子供の病院がといったように俺の振休の三回に一回は何かと用事があって休むのだ。

 しかも正社員だから休日手当以外は俺と同じ給料を貰っている女を見ていると、後ろから殴りたくなってくる。共働きなら夫にも子育てをやらせろよ。なんでお前ばっかり休んでんだよ。ふざけんな。


 それに振り替え休日に妻との予定を入れていた俺が代替出勤を拒むと、女はこう言った。

「奥さん、専業主婦なんでしょ? なら貴方が出勤しても困りませんよね。私はその日じゃないと駄目なのよ。もう予定が入ってるの。子供の用事だって言ってるじゃない。私は共働きなのよ!!」


 まだ子供が小学生だから育児が大変なのはよく判る。

 うちの子は少しだけ障害を持っていて、近くにフォローしてくれる実家もないことから妻は専業主婦になった。ありがたいことに妻が専業主婦でもなんとか暮らしていけるくらいの給料は貰っているのでやっていけるが、育児と家事を一手に引き受ける妻と二人きりで出かけることのできる貴重な休みを何度も潰されれば俺だって腹が立つ。


 他の同僚には同情され、飲みの席でこう言われた。

「お前が休みだと全部の仕事を自分がすることになるだろ。それが嫌なんじゃないか?」


 というような話を日ごろから妻に愚痴っていたのだが、さすがに結婚記念日のランチに行こうとしていたところを邪魔されれば、普段は温厚な彼女でも我慢できなかったらしい。

 ちなみに今日の用事は小学校に行くと昨日(・・)言っていた。


「その人の子供って〇×小学校よね。今は流行り病もあるから親でも学校への訪問は止められてるし、同じ小学校に通っている子の親御さんから聞いた限り予定は何も入っていないわよ。それなのに学校に呼び出されるなんてよほどの緊急事態(・・・・)なんでしょうね。前日から判るくらいの」


 妻の情報収集能力の高さに(おのの)きつつ俺は頷くだけだ。

 それでも妻は許してくれて、出勤をする俺のために弁当を作って持たせてくれた。彼女と可愛い子供たちがいなければ俺はやっていけないだろうし、彼女たちを守るためのこれからも頑張って働こうと心に誓った。









 が、やはり妻は怒っていた。

 本来振り替え休日だった日の次の日、お昼前に妻が忘れ物を届けに来たのだ。お弁当とコーヒーの入ったマグを持ってきた妻は俺の席の近くにいた女に軽く会釈をした。

「いつも主人がお世話になっております」

 そんな妻に小さく会釈を返すだけの自称社会人女。妻はそのままにこやかに笑いながら女と俺にだけ聞こえる声でこう言った。

「私が専業主婦なのはお前に夫を貸し出すためじゃない。昨日のランチは美味しかったですか?」

 そういって差し出した携帯の画面には男性とランチをしているらしい女の姿が写っていた。

 一瞬で青ざめる女。

「それでは失礼します。それじゃあね」

 女と俺にそれぞれあいさつすると、妻は上機嫌で会社から出て行った。


 その日、家に帰ってから写真の話をした。

「たまたまよ。現金を扱うから仕方なくPTAの役員で集まった友人が見かけたんだって。悪いことはできないわね~」

「今日一日青い顔してたぞ」

「まぁ嘘がバレれば恥ずかしく思うんじゃない?」

「これで少しは懲りてくれればいいけど」

「ねぇ。あの人の旦那さんって見たことある?」

 食事を終えてテレビを見ていた俺に後片付けを終えた妻が何気なく聞いてきた。

「いや、他業種だって聞いたことがあるけど知らないし興味もない」

「ふーん」

 そこに風呂から上がってきた子供たちが合流していつもの夜は更けていった。


 共働きがダメとか、専業主婦がダメとか、そういう問題ではありません。

 子供を盾にすると会社ってなにも言えなくなるよね……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても共感できます 私が独身なのは、残業できないあなたの代わりをするためじゃない! と言えたらと思っていました。
[良い点] 奥様カッコいい! Σb( `・ω・´)グッ 専業主婦なめんじゃねぇ!的な! ヽ(〃´∀`〃)ノ
[一言] 実際こういう人の善意に追け込んで悪い事する人がいるから、共働き害悪みたいに言う人が発生する。 お父さんお母さんさんは人を育てるって大変な事なのに、悪事を働く人のせいで普通に頑張ってる人が損を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ