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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
94/194

サンタ・ムエルテ①

 翌朝、氷室はマルグリットがやって来るよりも前にアパートの外へと出た。


 つい先程トニーから電話があり、出勤前に頼まれていた物を届けてくれたという。上まで運んでいる時間は無いから外に置いておいたとのことだった。おそらく夜遅くまで製作していたのだろう。遅刻ギリギリまで寝ていたようで、電話越しの声は欠伸混じりだった。


「ほー、これはなかなか」


 アパートの外には剣道の防具と竹刀を構えた人形のような物が一台。氷室がトニーに製作を依頼したものとは、剣道の練習で使う為の打ち込み台だった。


 見たところアルミフレームや鉄材を組み合わせて作ったらしく頑丈そうな仕上がりで、簡単な物と謙遜していた割には素人仕事にしてはなかなか手間をかけた一品であることが伺えた。


 下の子がちょうどアイラと同じ位の背丈だということで高さも丁度良い。しかも真ん中のレバー操作による高さ調整も出来るようになっており、子供の成長に合わせて使える工夫まで凝らしてあった。まさに子を持つ親ならではのアイディアである。


「あれ? 珍しいっスね。氷室さんがこの時間に外にいるなんて……ってか、なんスか? その人形」


 トニー会心の傑作をしげしげと眺めていると、マルグリットが話しかけてきた。時計を見ると、いつも彼女がやって来る時間ピッタリ。どうやら一時間近くも打ち込み台を眺めていたらしい。


「見りゃわかるだろ。お前の代役だ」


「うぇーい! やったー! じゃあもうサンドバッグやらなくていいんスね!」


「その代わり、お前本来の仕事を与えてやる」


 氷室はそう言うと、コートのポケットから昨日トニーから渡されたポリ袋を取り出した。


「こいつは最近この街で出回っている新型のドラッグだ。依存性や禁断症状が凶悪にも拘らず、麻薬特有の化合物が一切検知されないという極めて厄介な代物でな。昨日来ていた別部署の同僚から預かったものだ。レーヴァテイン絡みの物か調べろ」


「うげっ!? 調べろも何も……氷室さん、それ持ってて平気なんスか?」


「なにがだ?」


「その袋の中の小さい種みたいな粒、明らかに魔力が込められてますよ。ドス黒いオーラが袋越しから滲み出てますもん。あんまり手元に置いておかない方がいいっスよ、それ。魅入られますから」


 普段から妖刀をぶら下げていたせいか氷室には全く何も感じなかったが、聖職者であるマルグリットが言うなら間違いない。どうやらトニーのカンは当たったようだ。


「良かったらそれ、預かっときましょうか? 聖騎士のうちが持つ分には魔力の放出を抑えられますけど」


「このままトニーに返して奴に何かあったらマズイな。いいだろう。しばらく預かっておいてくれ。証拠の押収品だから絶対に無くすなよ」


「了解っス!」


 マルグリットは氷室からポリ袋を受け取ると早速今朝の報告をした。昨夜またしてもマフィアらしき男数名が殺害されたこと。エデンのライブハウスやクラブ数箇所で先程のドラッグを使用したと思しき若者数名が暴れたり昏睡したりと多くの混乱が生じたということ。昨日来ていた刑事が欠伸をしながら眠そうに目を擦っていたこと。そしてその刑事と立ち話をしていたダリアがトニーを気遣い、氷室の悪口を言っていたこと。


「なんかダリアさん、氷室さんのこと〝あんな人は死んだ方がいい〟とか言ってました」


「ご苦労。今までで一番良い仕事したよ、お前」


 謹慎が解けたら交通課にどう仕返しするか考えていたちょうどその時、アイラとトルメンタがやってきた。


「おはようございます。本日もお嬢様の稽古をよろしくお願いします」


 トルメンタに続いて氷室に頭を下げるアイラ。その両手にはバンテージが巻かれていた。


「今日はいいものを用意しておいた。剣道の稽古で使用される打ち込み台ってやつだ。知り合いの手製だがそこのピンク頭より頑丈で根性がある。とりあえず面打ち、胴打ち、小手打ちをそれぞれ十回三セット行なえ」


 アイラは小さく頷くと、トニーが作った打ち込み台を練習相手に氷室の指示通り黙々と打ち込みを行なう。本来ならきちんと声を張り上げるのが剣道の基本だが、氷室はその点はさほど重要視していない。気迫で攻撃を悟られるより黙って斬る方がよっぽど実践的だと考えているからだ。特にこの街では銃声程度ではビビらない輩も少なくない。威嚇や気合いで大声を上げているヒマがあるならとっとと斬れ。それが氷室の教えである。


「とりあえずアイラはしばらく自習させるとして、だ。アンタに少し話がある」


 氷室は刑事特有の表情でトルメンタに話かけた。元マフィアであるトルメンタも慣れた様子で臆することなく実に冷静に返した。


「お伺いしましょう、氷室刑事殿」

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