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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
92/194

剣道指南④

 その日の夜、デュランとウィリアムが仕事を終えて帰宅。一足先に稽古を終えて戻っていたアイラとトルメンタが二人を出迎えた。


「お帰りなさいませ。如何でしたか? 本日の売れ行きは」


「上々だ。コーヒーを多めに持って行ったのが正解だったな。飛ぶように売れたぜ」


「それは良かった。明日の分も既に用意してありますので、明朝にでもキッチンカーに積み込みましょう」


「いつも悪いな、トルメンタ。んで、アイラの初稽古はどうだった?」


「お嬢様は飲み込みが早くていらっしゃるようで、氷室刑事も筋がいいと褒めていらっしゃいましたよ。毎日でも通って良いとのことでしたので、明日にもまた伺うお約束を致しました。ご本人も真面目に取り組んでおられ、表情こそいつも通りでしたがおそらく楽しんでいらっしゃったかと」


「へぇー、そうなんだ。アイラ、剣道は楽しかったかい?」


 ウィリアムの問いかけにこくりと頷くと同時に鳴る豪快な腹の音。運動してすっかり腹ペコのようだ。実に子供らしい反応だった。


「腹の虫で返事たぁ正直で良いじゃねーか。よーし待ってろ。早速夕飯の支度をしてやる。体を動かしたんだ。いつも以上に食うだろ。手伝え、トルメンタ」


「畏まりました、デュラン様」


 その日の夕食はいつもより品数が多く、並べられた数々の料理の大半はアイラ一人で平らげたのだった。


 翌日も同じ時間にトルメンタの送迎でアイラは氷室のアパートに行くと、氷室ともう一人。珍妙な被り物と甲冑モドキ、手甲を装備した背の低い何者かがそこにいた。


「おはようございます、氷室刑事。本日もお嬢様の稽古、よろしくお願い致します。ところで、そちらの方は?」


 降車し、頭を下げて挨拶をするトルメンタに対し、氷室は煙草の煙を吐きながら答える。


「アイラ専用のサンドバッグみたいなもんだ。気にすんな」


「サンドバッグ!? ひどくないっスかその言い方! いきなりこんなダサい格好させておいてそりゃないっスよ氷室さ〜ん!」


 剣道の防具を身に纏っているのは聖騎士のマルグリット。昨日の稽古が終わった後、防具ともう一本の竹刀は氷室が通販で買い揃えた物だ。氷室とアイラとでは身長差があり過ぎる。しかしマルグリット程度であればギリギリ面は届かずとも、小手や胴は打ち込める。それを何の相談もなしに急に今朝言われたマルグリットは半ば無理矢理アイラの相手をするための防具を装着するはめになったのだった。


「今日は実際に打ち込み稽古を行なってもらう。昨日教えたモンを遠慮なくコイツに叩き込め。あとマルグリット。てめーは絶対に反撃するな。万一怪我でもさせたらお前間違いなく殺されるぞ。こいつの保護者に」


「えぇ〜、ホントにサンドバッグじゃないっスかぁ〜。一応うち、聖騎士なんスけど……あとこの面とかいう被り物、視界が見辛いっス」


「文句垂れてると舌噛むぞ。やれ、アイラ」


 アイラは頷くと、マルグリットに向かって胴打ちを仕掛ける。しかし、アイラの竹刀の鋒は胴より少し上。マルグリットの脇の下付近に直撃した。


「あいたっ! ちょっ、ちょっとタンマ!」


 いきなり防具で守られていない隙間を叩かれ仰反るマルグリット。しかし氷室はストップをかけることは無かった。


「次は小手だ。昨日教えた通り間髪入れず打ち込め」


 アイラは怯んでいるマルグリットの小手へ目掛けて竹刀を振り下ろす。またしても竹刀は小手で覆われている前腕より少し上の素肌に直撃。子供の力とはいえ、アザが残るほどには痛む。小手を受けた衝撃と痛みで竹刀を落としてしまったマルグリットは慌てて竹刀を拾おうと前屈みになったその時、氷室から次の指示が飛ぶ。


「向こうから脳天を差し出してきたぞ。面を打ち込め」


 アイラは目の前に突き出されたマルグリットの頭頂部目掛けて容赦なく竹刀を打ち下ろす。


「痛ったーい! ギブギブ! もう無理っスよ〜!」


 度重なる子供の攻撃に耐えかねて、マルグリットは逃げるように氷室の後ろへと隠れた。


「お前が逃げたら稽古にならんだろうが」


「あの子めちゃくちゃっスよー。防具の隙間ばっかり当ててくるんで多分あっちこっちアザになっちゃってますって。それにうち、自慢じゃないっスけどレオンクロス内で剣術の腕はダントツ最下位なんスよ。こういう役ならアシュリーの方が適任ですって〜」


 泣き言に混じって精鋭聖騎士にあるまじき発言を漏らしたマルグリットに失望の溜息を吐きつつ、マルグリットから竹刀を取り上げ、氷室自ら竹刀を構えてアイラの前に対峙した。


「今日は少し実践的な稽古をつけてやる。俺には一切の遠慮はいらん。どっからでも打って来い」


 ただ竹刀を手にしただけ。

 しかし、その佇まいだけで一流の剣士であることは素人目から見ても一目瞭然。居合による戦闘を専門とする氷室の中段構えは、それほどまでに堂に入っていた。

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