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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
87/194

意外な客②

 デュランと二人きりで向かい合って食事をする。思えばメイファンにとっては初めての経験だった。


 父の愛弟子で、恐ろしく腕っぷしが強く、粗暴で粗野だと思っていた男が綺麗に箸を使い非常に行儀良く食事をしている。意外な一面にメイファンはしばらくデュランの一挙一動をしげしげと見つめていた。


 視線を感じ、手を止めたデュランは食事もせずじっと自分を見つめているメイファンに話しかける。


「んだよ、俺の顔になんか付いてるか?」


「別に。目が二つに鼻が一つ。あと口が一つってとこかしら」


「くだらねぇ冗談言ってねぇで冷めるからサッサと食え。そんで要件を言え」

 

 出来ればもう少しこの時間が続いて欲しい。

 そう願ってしまうほど、メイファンの心は久方ぶりの安らぎを感じていた。


 あらかた食事も終わり、一息ついたところでメイファンは昨夜起こった出来事を口にした。

 

 この街で新たに出回っている麻薬の件や組員減少の件で本国から釘を刺しに幹部二名がやってきたこと。猶予は一ヶ月しかないということ。オマケに酒を頭からぶっかけられたこと。赤裸々にすべて語った。


「よく我慢したな、そんなことされてまで」


「祖父直属の部下だもの。立場的には一支部長の私なんかより上なんだから」


「マフィアも所詮縦社会か。なんだかんだお前も苦労してんだな。つーか、話ってもしかしてその愚痴を聞いて欲しいとかそういうことじゃねぇだろうな?」


「話がそこで終わってれば愚痴を聞いてもらうだけで済んだんだけどねぇ……」


 物憂げな顔で頬杖をついていたメイファンは、溜息を吐いて続きを口にした。


「その二人の幹部ね、テオドールを出た後すぐ殺されたのよ。正確には運転手と護衛として同乗していたうちの組員三人を含めてね」


「殺された? ならお前んとこのマゾ女がまた先走ったんじゃねぇのか? ボスのお前に酒ぶっかけた仕返しによ」

 

「それは無いわ。凶星には手を出さないよう命令していたし、毒殺ならまだしも何より手口がナイフによる滅多刺しだからほぼあり得ないわ」


「ナイフねぇ。ならミケーネんとこの残党じゃねーの? あいつ軍用格闘術使ってたしナイフの扱いなら手慣れてんだろ。部下にもそれを仕込んでいたんじゃねぇの?」


「私も始めはそう考えたわ。でも別の場所でイタ公の死体もあがってんのよ。しかも、うちの人間以上に〝念入り〟に刻まれていたらしいわ。だから単なる殺し屋の可能性も薄いわ。犯人のやり口から見ても相当怨みが無ければあそこまで出来ないもの。しかも、うちの連中もイタ公も銃でしっかり応戦していたわ。薬莢が辺りに散らばっていたって話だし。この点から分かる手掛かりがあるとするなら犯人は〝銃を持った人間複数人相手に刃物だけで立ち回れる化け物〟ってことよ」


「ならレーヴァテインの奴らだろ。あいつらは正真正銘のバケモンだ。銃なんかじゃまず仕留められねぇ」


「私もその線が可能性として二番目に高いと思ってるわ。そこであなたに力を貸して欲しいのよ」


「料理人に化け物退治を依頼するってか? 何で俺がそこまでしなきゃなんねーんだよ」


「そこまでは望まないわ。何より落とし前は私たちの手でつけさせたいし」


「じゃあ一体俺に何して欲しいんだよ」


 メイファンは右手の親指を自身の背後へ向ける。指差す先にあるのはエデンでも屈指のハイクラス向け高層ホテル。各国のVIP御用達でカジノやスポーツ施設、高級ブランドの支店が連なるショッピングモールまで併設されている場所であり、エデンの名所の一つ。そしてそこのオーナーこそ、今まさにその建物を指差している女である。


「あのホテルの地下には闘技場があって、不定期ではあるけど賭け試合を行なっているの。これがなかなか人気でね。近々アラブの大富豪が宿泊する予約が入っているから久々に賭場を開こうかなって考えてるの」


「まさかお前、俺にそれの選手として出ろってか?」


「そのまさかよ」


「断る」


 あっさり断るデュラン。だがメイファンは譲らない。


「なんでよ。優勝すれば億万長者よ? それに今回は無敗のチャンプであるジェイクも出すわ。あなたジェイクと戦いたいって言ってたじゃない」


「今はキッチンカーでの商売で忙しいんだよ。無駄なことに体力を使いたくねーし、俺は料理人だ。一時は傭兵稼業で日銭を稼いでいたこともあったが、基本的には俺の手はメシ作って金を稼ぐためにあんだよ」


 ここまではメイファンの予想通り。

 デュランという人間は粗暴で喧嘩が強いが決してそれを自身の売りにしてはいない。何より厄介なのは金には決して靡かないという無欲さ。しかし、メイファンにはそんなデュランの欲を駆り立てる秘策があった。今こそそのジョーカーを切るタイミングであると悟ったメイファンはバッグから一冊の古めかしいノートを取り出した。


「もしあなたが優勝したら、コレをあげるわ」


「なっ!? おまっ、それ!」


 それを見たデュランは目を見開き驚いた表情を見せた。見覚えがある。間違いない。あのノートはデュランの師であり、メイファンの父である拳聖リウロンの料理の全てが記されたもの。所謂、門外不出の秘伝のレシピ集であった。

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