意外な客①
翌日もエデンは暑いほどの晴天に恵まれた。
香龍飯店のキッチンカーでは、昨日同様昼時は客足が途切れることなく大盛況。特に今日はトルメンタ特性のアイスコーヒーが飛ぶ様に売れており、先程ウィリアムがトルメンタに補充を届ける様、スマートフォンで頼んだところである。
客足がある程度落ち着き始めた頃、そろそろ自分たちも昼食にしようとした矢先、一人の女性客がやってきた。
「肉夾饃とアイス烏龍茶のセット」
「はい、かしこまりまし——」
注文を受けたウィリアムが女性客の顔を確認した直後、言葉を詰まらせた。
目深帽を被り、サングラスをかけ、ファストファッションに身を包んでおり、長い黒髪を涼しげに後ろで束ねていたから初見では気づかなかったがウィリアムはこの女性を知っている。いや、知らない人間をこの街で探す方が難しいくらいだ。
「おい、ウィリアム。注文なんだって? 客来てんだろ……って、あぁ? んだよ、今日はお前かよ」
キッチンカーから顔を覗かせたデュランは客の顔を確認すると心底めんどくさそうに溜息を吐く。
「なんだとはご挨拶ね。こうして変装までして来てあげたんだから感謝されこそすれ、溜息を吐かれる筋合いは無いわ。そんな態度取るならこっちだってショバ代取るわよ」
サングラスを外し、憤慨気味でデュランに向かって文句を言い返したのはなんとメイファンだったのだ。
「お守り二人はこの間来たが、今日はお前一人だけか? 珍しいな。つーかなんだそのカタギみてーな地味なナリは。そっちの方が百倍珍しいか」
「代金は鉛玉でいいわね? 釣りはいらないわ」
メイファンはロングスカートのスリット部分に手を入れると、右太腿に装着していたホルスターから銃を抜いてデュランへと向けた。
「ちょっ!? こんなトコで発砲はマズイですよ! 万一ガス管にでも当たったらこの辺り一帯ドカンですって! デュランも早く謝って!」
嘲るデュランに殺る気に満ちたメイファン。この場をなんとか収めようとするウィリアム。一触即発の雰囲気を鎮めたのは、一人傍観していたアイラの一言だった。
「お姉さん。今日のお洋服、可愛い」
それを聞いたメイファンはすぐさま銃を納め、嬉々としてアイラを抱き抱える。安堵し本気で胸を撫で下ろすウィリアム。デュランは文句を言いながらも注文通り肉夾饃とアイス烏龍茶を用意してメイファンに差し出す。
「そんな格好までして一人で来たってコトは何か俺たちに用があんだろ? ジェイクたちが話してた麻薬絡みの話なら御免だぞ」
「そっちはうちの問題だから内々に処理するわ。出来ればあなたと二人で話がしたいのだけど」
メイファンはそう言うとアイラを降ろしてデュランを見つめる。何やら相応な頼み事があると察したデュランはウィリアムを一瞥する。
「さぁ、アイラ。僕らは先にお昼でも食べに行こうか。近くにジェラートの美味しいレストランがあるんだ」
空気を察したウィリアムは気を利かせてアイラを連れてレストランへ向かって行った。
「俺らもちょうどこれからメシだったから、食いながら聞いてやるよ。但し、聞くだけだからな」
「気を使わせたわね。これ、少ないけど取っておいて」
ウィリアムたちが去った後、メイファンは大金の詰まった財布から五万ドラム紙幣を五枚ほどカルトンの上に乗せる。
「いらねーよ。その代わり味の感想を聞かせろ。代金はそれでチャラだ」
「ホント商売っ気が無いわね。ウィリアムが居なかったらとっくに潰れてるわよ」
「ほっとけ。文句ならあの世に行った時にでもおやっさんに言うんだな」
「そうね。本人には言いたいことがたくさんあるから、そのついでに言っとくわ」
他愛無い会話をしながらクローズの札を出したデュランはメイファンと二人でキッチンカーの前にあるテラス席へと座った。




