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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
82/194

新たな聖騎士②

 突如段ボールの中から勢いよく横ピースをしながら飛び出したマルグリットと名乗る少女によって交通課内に沈黙が流れた。


 唖然、呆然、思考停止。


 その場にいる全員の視線を悪い意味で独占していることを察した少女は、ゆっくりと段ボールから出ると先程のハイテンションとは打って変わって小さな声でただ一言「あっ……すみませんでした」とだけ呟く。


 この場を収めるのは自分しかいない。そう悟ったダリアは咳払いを一つし〝煮るなり焼くなりお好きにどうぞ〟とばかりに意気消沈気味のマルグリットに声をかけた。


「えーっと、マルグリットさん……でしたっけ? たいへん申し訳ないんだけどここは特殊犯罪捜査課ではなく交通課なの。あなたのバディは訳あって今は自宅で謹慎中。なので再来週まで会えませんよ」


「えっ、そうなんですか? じゃあうちはどうすれば……」


「加えてタイミングが悪いことに、ここの署長もバカンスでしばらくお休みですので私たちはあなたに仕事の指示を出す権限がありません。だからせっかくだけど今日のとこは一旦お引き取り願えるかしら」


 毅然とした態度で事情を説明するダリアの話に納得し、マルグリットはやや困惑を滲ませた笑みを浮かべて答える。


「そういうことなら仕方ありませんね。わかりました。では今日のところは失礼させて頂きます。お騒がせしてサーセンした」


「あっ、ちょっと待って」


 ションボリしながら退室しようとするマルグリットを呼び止めたダリア。ペンを手に取り一枚の便箋と、それとは別の小さなメモ用紙に何かを書き始めた。便箋はエデン署の封筒に入れ、メモと一緒にマルグリットへ手渡した。


「あなたのバディの住所です。もし本人に会えたらその封筒を渡してあげてください。それと、本格的な業務開始前の研修というわけじゃないですが一つあなたに頼みたいことがあります」


「なんスか?」


「これからあなたが会う人がきちんと謹慎を守っているか、監視していて欲しいんです」


「謹慎処分を守らないって有り得るんですか? 警官なんですよね? あ、ひょっとしてうちのバディになる人って結構ヤベー人だったりします?」


「はい、かなりヤバイです。どうか頑張ってください」


 真顔でそう告げたダリアに見送られながらパンキッシュな聖騎士は、とぼとぼと退室していった。


「ダリアさん、ダリアさん」


 マルグリットが去った後、彼女を運んできた総務課の女性職員がダリアに声を掛ける。


「まだなにか?」


「いえ、そうじゃなくて。段ボールの中身ってあの子しか入ってませんよね?」


「見たらわかるじゃない。空なんだから」


「さっきの子、身長も百五十センチ無いくらいで結構小柄じゃないですか。にも拘らず、台車に乗せるのに男性職員二人がかりでやっとだったんですよ? それも刑事課の中でも力持ちで有名なジェフさんとクリフさんに頼んで。女の子なんであまり体重のこと色々詮索したくは無いですけど、あの子多分体格に見合わずメチャクチャ重いですよ」


 体重という女性に関してかなりデリケートな話題である為、ヒソヒソ声で耳打ちされるダリア。確かに妙な話だ。マルグリットと名乗った少女の体格であればせいぜい四十キロ前後が一般的な標準体重だろう。見た目もスマートで大の男と言わずダリア一人でも僅かな時間であればおぶることは出来そうなものだった。解せないのはジェフとクリフォードの二名で持ち上げるのがやっとだったということ。


 ジェフは学生時代はアメフト部出身で、クリフォードは柔道の有段者でありいずれもエデン署内でも筋骨隆々の巨漢で有名な二名である。


 その彼らでやっと持ち上がる重さというのは見た目からは想像も出来ない。寧ろ、よく底が抜けなかったものだと段ボールに感心してしまうレベルである。


「今はそんなことより仕事に戻りましょう。やることをやらないで後からツケを支払うくらいなら勤務時間内にしっかり仕事を片付けて定時に帰る。他がどうかは知らないけど、少なくともそれが私のポリシーなの」


 よくわからない事象に関しては氷室に押し付けるに限る。自分の判断は間違っていなかったと再確認したダリアは速やかに自身の仕事へと戻った。

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