新たな聖騎士①
デュランたちの出店したキッチンカーで街中が賑わっている頃、エデン署の職員の大半は相も変わらず各々自由に行動していた。
噂を耳にして早めのランチに向かった者。
暇そうにデスクでニュースペーパーを広げる者。
仕事をしているフリしてパソコンで堂々とポルノ動画を閲覧している者。
それだけならまだしも、真昼間から缶ビール片手に賭けポーカーに興じる者までいる始末。普段以上に職員たちの怠惰ぶりが顕著なのには理由がある。
一つは署長のサマセットが長期休暇を取得して海外旅行へ行っていること。もう一つはエデン署内最恐の男、特殊犯罪捜査課の〝アイスエイジ〟こと氷室詠司が謹慎中であるということ。
氷室自身も決して真面目な職員とは言い難い。寧ろ署内随一のトラブルメイカーであり、ここでサボっている誰よりも職員として規範を蔑ろにしている。しかしながら彼が近くにいるだけで他の職員は萎縮し、少なくともここまで活き活きと。尚且つ堂々とサボることはない。
サマセット、アイスエイジ二名の不在がエデン署内にいる警官たちの怠惰ぶりに拍車をかけていた。
しかしそんな中でもまともに仕事をこなす職員は少なからずいる。その内の一人こそ、交通課のダリアであった。
所謂、民間企業で言うところの典型的な〝仕事が出来る女性〟であり、常に冷静沈着で卒なく業務をこなす。尚且つ毅然とした態度で男性職員にも一歩も引かない気の強さと、署長やあの氷室に対してでさえも対等な立場で接する彼女は女性職員たちから高く支持されている。
何か困り事や相談があれば他部署からも頼られることも多く、まだ二十代後半にも拘らずエデン署のお局的なポジションにいるのが彼女なのだ。
そんな彼女の元に総務部の女性職員が大きな段ボールが乗った台車を押してやってきた。
「ダリアさん、ちょっといいですか?」
「なに? また何か男性関係でトラブル?」
「ちっ、違いますよ! あの男とはキッパリ別れて——って、そうじゃなくてコレなんですけど……」
目線を段ボールに下げた女性職員。送り状を見ると差出人は不明。宛先はエデン署の特殊犯罪捜査課、氷室詠司と書かれている。
「今って氷室さん謹慎中じゃないですかぁ。冷蔵便で届いたからナマモノみたいだし、それにこれとっても重いし大きいからどうしたらいいか困っちゃってて」
総務部で受け取ったは良いが、氷室はしばらく不在。加えて男性職員二名がかりで台車に乗せて持って来たというくらい重い冷蔵品。このまま冷蔵庫に入るはずもないので兎にも角にも中を確認する必要がある。常識的に考えればそれくらい誰でも判断出来るのだが、受取人が氷室である手前、判断しあぐねていると言うのが大筋だろう。
大体の察しが付いたダリアは溜息一つ吐き、自身のデスクにあるペン立てからカッターナイフを一本取り出した。
「とりあえず中を確認しちゃいましょう。保存に関してはその後で考えればいいわ」
ダリアは何の迷いもなく段ボールにカッターの刃を近付ける。
すると、驚くことにそれよりも先に段ボールの内側からナイフの刃先が飛び出したのだ。
思わず手にしたカッターを手放し、互いにしがみつくダリアと総務部の女性職員。
内側から突き出たナイフの刃はゆっくりと進み、ひとりでに開封し始めている。
明らかな異常事態にパニック寸前の交通課内。恐怖と不安を吹き飛ばすように出て来たのは、ピンクのショートヘアに耳に大量のピアスを施したパンキッシュな少女。初対面ではあったが、修道服を改造したと思われるその服装にダリアは見覚えがあった。
「あなた……ひょっとしてアスガルド聖教の人?」
訝しげに尋ねるダリアに対し、背伸びをし終えた少女は明るくにこやかな笑顔でピースをしながら答えた。
「アスガルド聖騎士団。獅子十字隊第六席、マルグリット・ロアンナです。遅ればせながらアシュリー・キスミスの代理として本日付けで特殊犯罪捜査課に派遣されました。よろしくですっ」




