試食会②
次々とテーブルに運ばれてくる料理の数々。七品目を味見した辺りでウィリアムが満腹で倒れ、まだまだいけそうだったアイラは眠気に負け、結局その日の試食会はお開きになった。
二人が寝室に戻った後もデュランとトルメンタは明日に控えた出店に備えて夜遅くまで話し合い。結果、メニューはやはり最初に出した四品に決まったはずがその内の一品だけ明朝の土壇場で変更となる。
理由は朝食にやってきたアイラの行動にあった。絶賛胃もたれ中の青ざめた顔でエスプレッソだけ飲んでいるウィリアムの隣で昨晩の残りをモリモリ食べているアイラ。見ているだけで満腹感が押し寄せてくる若者の食べっぷりに感心していると、ウィリアムはあることに気づいた。途中からアイラは滷肉飯の肉をソフトバゲットに挟んで食べていたのだ。
「これ、とっても美味しい」
イタリア出身のアイラは米よりもパンが好きらしい。加えて柔らかく煮込まれた肉の甘辛いタレをパンが吸ってよりしっとりと食べやすくなっている。その様子を見たデュランは厨房へ急ぎ、白吉饃と呼ばれる白パンを作成。それの真ん中に切れ込みを入れ、滷肉飯の肉のみをそこに挟んでアイラに差し出す。焼きたてでサクサクカリカリ食感のおやきに近いバンズに醤油ベースの甘辛いタレと肉汁が染み込み何とも美味。肉夾饃と呼ばれる中華式ハンバーガー。食感や見た目は日本のおやきに近い。
肉夾饃にかぶりついたアイラはデュランを見つめ、口をもぐもぐしながら右手をサムズアップ。
健啖なアイラの舌を信じ、滷肉飯の代わりに肉夾饃がレギュラーメニューに加わったのだった。
朝食を終えた四人は早速手配していたキッチンカーに資材を積み込んでいく。屋敷の雑務と留守番のためにトルメンタだけを残してデュラン、ウィリアム、アイラの三人はエデンの中心地にあるセントラルストリートへ向かった。
時刻は丁度昼前。
キッチンカーの周りには多くの人だかりが出来ていた。
ある者は美味しそうな匂いに誘われて。
またある者は可愛い売り子の少女を見るため。見た目だけなら美形の部類に入るウィリアムに会いに女性客も多くやってきている。
客層はざっと見た限りだとブルーカラーの工事関係者が四割。エデン市民が約六割といったところ。恐ろしくて近寄れないジェイルタウンの名店と呼ばれる香龍飯店が一時的とはいえこのエデンに出張販売を行なっていると噂を聞きつけて物好きたちが集まって来ているのだ。美青年、美少女が接客し、キッチンカーの中でジェイルタウン最強の男が調理する。初めての販売形式だったが三人の連携は完璧であった。
昼飯時のピークを過ぎ、客足も疎らになった頃にようやく車の中からデュランが出てきた。
「取り敢えずひと段落か。初日にしちゃあ上々だな」
「お腹空いた」
「アイラも空腹みたいだし、僕らもそろそろお昼にしようか」
一旦キッチンカーにクローズの看板を出そうとしていたタイミングで声をかけてきた者がいた。
「もう閉めるのか?」
振り返ると意外な客が二人。
虎皇会女帝の右腕、ジェイクと凶星がそこにいた。
「律儀な奴らだな。わざわざ客が引くのを待ってやがったのか」
「俺たちが真っ昼間から近づいたらカタギさんたちの迷惑になる。それにあまり人が大勢いる場では出来ない話でな」
「なんだか知らねーが、面倒事を抱えてるって雰囲気だな。メシ食いながらで良けりゃ聞いてやるよ。但し、テメーらも何か頼めよ?」
「助かる。俺はキューバサンドとオレンジチキン、アイスコーヒーを貰おうか。凶星、お前は?」
「担担麺。辣油、豆板醤、花椒山盛リデ」
二人分の会計を済ませたジェイクたちと丸テーブルを囲んで食事をするデュラン達。
「お二人が訪ねてくるなんて珍しいですね。って言うか凶星さん。目は大丈夫なんですか?」
ウィリアムの質問に対し凶星は答える。
「アァ、コレ義眼ヨ。流石ノ闇医者モ視力ハ戻セナカッタミタイネ。デモコレハコレデ便利ヨ。義眼ノ中ニ解毒薬ガ仕込ンデアルカラ、ウッカリ味方ヲ毒殺シカケテモ一人ナラ助ケラレルネ」
「おいおい、勘弁しろよ。メシ食いながら毒だのなんだの物騒な話すんのは」
「聞カレタカラ答エタダケヨ」
「やめろ凶星。なら俺も食事が終わったら本題に入るとしよう」
凶星を制するジェイクの言葉に、やはり〝そういう関係〟の話を持ってきたのだとデュランとウィリアムは悟った。




