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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
児童誘拐殺人事件 篇
50/194

アイラのおでかけ②

『もちろん知ってるよ。ある意味、このエデンで最強の存在と言っても過言じゃねぇからな!』


 エデンで生きている奴らにアイラのことを聞けば、ほぼ全員がこう答える。


 虎皇会のメイファン、ジェイルタウンのデュラン。そしてエデン署の氷室詠司。エデン三大巨頭の内二名から庇護を受けているというだけで誰もが一目置く存在。例え道の真ん中でチンピラどもが武器を手にし、いがみ合っていたとしてもアイラが来れば即座に武器を捨てて道を開ける。万が一何かの拍子でアイラに危害が加えられれば、それが故意であろうとなかろうと余命宣告が下されることを誰もが知っているからだ。


 アイラが一人で出歩くようになった一週間前までは何人もの悪党が背後から忍び寄り、汚い手で彼女に触れようとした。しかし、その全ては未然に終わっている。いきなりその場に倒れる者。或いはどこからともなく現れた黒服の屈強な男たちに口を塞がれ、羽交い締めにされ暗がりへと連れ去られる者。言わずもがな、これらの害虫駆除は虎皇会の手によるものである。決してアイラに悟られないよう、それらはひっそりと。そして迅速に行うよう徹底されてはいるが、側から見ている者たちへの配慮は一切無い。〝この娘に手を出すなら、次はお前がこうなる〟という明確な警告を意味していた。


 要人の安寧と他者への威嚇を同時に提供する虎皇会流のシークレットサービスも近寄るもの全てを排除するわけではない。いくつか例外はあるが、アイラの場合においては特例が一つ加えられている。


「よー、アイラじゃねぇか!」


「アイラちゃん、今日もお仕事手伝ってよ!」


 アイラに駆け寄る同年代くらいの子供が数名。この街で逞しく生活しているストリートチルドレンたちだ。彼らはアイラに触れても虎の爪牙にかかることはない。


〝子供同士の交流には手を出すべからず〟


 それが例え喧嘩であったとしても大人はこれに関与すべきでは無いとの理念からメイファンが配下に課したアイラ警護における特別ルール。基本的には子供たちのコミュニティを尊重せよとの指示が出されていた。もちろん行き過ぎた暴力や凶器などの使用に関しては例外だが、もしも今ここでアイラが子供たちと取っ組み合いになり怪我をしたとしても虎皇会は一切手を出さないことになっている。


 しかし、そんなことは杞憂に過ぎない。感情の起伏こそ乏しいが協調性は人並みに持ち合わせており、また他者への気遣いもよく出来るタイプ。気立良く容姿端麗のアイラは同世代の子供たちからとても慕われている様子であった。


「靴を磨かせてよおじさん!」


「お花いりませんかー?」


「空き缶はこっちのカゴで、空き瓶はこっちのカゴに入れて」


 ここに暮らす身寄りのない孤児たちは、皆様々な労働で日銭を稼ぐ。


 靴磨きやクズ拾いは男の子が。花売りは女の子がそれぞれ担当している。そして、繁華街に店を構える商人の殆どは子供たちのサービスを喜んで受け、対価として細やかな小銭を支払う。なぜなら、子供たちの労働に協力する店のショバ代、みかじめ料を格安にすると虎皇会が通達しているからだ。商人たちからしてみれば、破格過ぎるこの条件を拒否する理由はない。故に皆挙って子供たちを快く受け入れるのである。


 エデンでもこの繁華街付近は虎皇会のお膝元。子供好きのメイファンの目が届きやすいため、エデンの中でも孤児たちは比較的安全に暮らせるのだ。


 アイラも他の子どもたちに混ざって花を売る。労働の後の僅かな時間も労働に勤しむ。何と健気なことだろうか。しかし当のアイラからすれば今のところ同世代と触れ合える唯一の時間であり、昔孤児院で一度だけ参加したハロウィンパーティーのようで楽しいと感じていた。


「今日も助かったよ。これ、お前の取り分な」


 一通り仕事が落ち着いた頃、リーダー格と思しき男の子はアイラに五百ドラム硬貨一枚を差し出した。日本だと缶ジュース一本買える位の価値である。アイラはそれを受け取ると、彼らに手を振ってまた一人で繁華街な奥へと進んで行った。


 次にアイラが立ち寄ったのは、とある酒場。跡をつけていたウィリアムはギョッとした。アイラが何の迷いもなく似つかわしくない場所に入っていったことだけではない。この酒場はエデンの中でも特に血の気が多く、危険な連中が溜まり場にしていることでも有名な店だった。当時のウィリアムはそうとは知らずデュランと共に訪れ、入店早々に無数の銃口に囲まれた苦い思い出が詰まった場所でもある。


 正直、二度と入りたくない所でもあるがアイラを放っておくわけにはいかない。「何事もありませんように」と半ば祈りながらウィリアムはおそるおそる入り口のドアの隙間から中の様子を伺うことにした。しかしウィリアムの祈りとは反対に店内は今にも血の雨が降ってもおかしくないほど緊迫した状況が繰り広げられていたのだ。


「なんだとテメェ! もういっぺん言ってみやがれ!」


「おぉ、何度でも言ってやるよ。お前みてーな田舎モン丸出しの若造は酒なんかじゃなくミルクでも頼んでろってんだ!」


 カウンターでモメている二人の男。一人は眼帯をした白髭の男。何かあるとガンマン気取りで二丁のルガー・ヴァケロをブッ放すことから「クレイジー・ルガー」と呼ばれる、ここいらでは有名な賞金稼ぎである。


 もう一人の「若造」と呼ばれた男の方もどうやら同じく賞金稼ぎのようだったが見覚えのない顔であったため、おそらく高額賞金首が集うここエデンへビッグドリームを夢見てどこぞから流れてきた新参者だろうということをウィリアムは察した。


 正直、小物二人の小競り合いなどはどうでもいい。問題なのは、クレイジー・ルガーの挑発に乗った若造がウェストロッジ社の新型オートマチック銃を抜いたということ。それによってクレイジー・ルガーの方も相棒二丁をホルスターから抜いたことだ。その結果、いざこざを気にも留めず無防備にも二人のイカレたガンマンの間に割って入ったアイラに三つの銃口が向いた形になってしまったのだ。

 

「ああ? なんだお嬢ちゃん。ここはガキの来るところじゃねェぞ」


 若造が突然割り込んできたアイラを睨んで凄む。虎皇会のバッジを付けたアイラを見てこんな態度を取れるのもこの街の流儀――つまり、虎皇会の怖さを知らぬ新参者ならではの愚行。


「もしかして、テメェの代わりにミルクでも買いに来たんじゃねぇのか? ギャハハハ!」


 それに対してクレイジー・ルガーも嘲笑交じりの皮肉で返す。今の瞬間も周りの客の中に紛れた虎皇会の構成員たちが目を光らせており、すぐにも飛び出せるよう臨戦態勢を敷いている。二人が引き金を引くよりも早く彼らを仕留めるだろう。クレイジー・ルガーはそれを承知の上でこの状況を楽しんでいるのだ。クレイジーの名は伊達ではない。


 普段ならば撃ち合いだろうが社交ダンスだろうが勝手にすればいい。しかし、今はマズイ。


 若造の方は怒りで肩を震わせており、今にも指をかけた銃の引き金を引いてしまわんばかりだ。


「ご、ご注文は?」


 そんな緊迫した空気に居たたまれなくなったのか、アイラの前に立っていたバーテンは何をトチ狂ったか普通に注文を取る始末。そこに決定打を打ち込んだのは他ならぬアイラ本人だった。


「ミルク一つ」


 ブチン、と何かがキレる音が聞こえたような気がした。

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