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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
117/195

蠱毒演舞①

 完全に閉じ込められ、隔離——否、監禁された室内で二人きり。

 

 一人は違法薬物をキメている聖騎士。

 一人は暗殺を生業にしている一族の末裔。


 互いに見知らぬ二人だが、共通している点が二つある。

 一つは互いに〝イカレている〟こと。そしてもう一つは互いに互いを〝倒すべき相手〟であると認識していること。


 防火シャッターの向こうで何が行われているのか知る術がなく、落ち着かない様子のデュランを他所にメイファンは何やらスマートフォンを操作している。


「はい、繋がった。これで中の様子が見れるわよ。気になるなら一緒に見る?」


「あん? なんだこりゃ。お前、部屋ん中にカメラ仕掛けてあんのかよ」


「防犯のために一応ね。ただ最近は専らライブ配信専門になってるけど」


「ライブ配信?」


 デュランの問いにメイファンは画面右上に表示されている数字を指差す。


「これ、今現在私たち同様にこの部屋の様子を見ている物好きたちの人数よ」


「一、十、百、千……一万人以上が見てるってことか!?」


「虎皇会に弓を引いたおバカさんと凶星を戦わせる拷問処刑ライブ。これがなかなか金になるのよ。スプラッターでしか興奮しなくなったアブない趣味趣向の持ち主が集うダークウェブ限定配信なんだけどこれが好評でね。私には全く理解出来ないけど。あなたはこういうの見て興奮する?」


「するわきゃねーだろ気色ワリィ」


「あ、さっそくピンクちゃんが仕掛けるみたい」


 カメラの向こうで互いに無言で睨み合っていた二人だったが、先に動いたのはマルグリットの方。デュランが持ってきて床に投げ捨てたナイフを拾うと、凶星の顔面に目掛けて思い切り投げ放った。


 凶星は避けることはせず、左の掌をナイフの前に突き出した。掴み取る気満々のようだったが、ナイフは掌を貫通し左目へ突き刺さる。


「はい、左目もーらい。次はどこ狙おっかなー」


 マルグリットは体内から数本のナイフを取り出し、次の一本を持ち構える。しかし、目の前の女は左掌、左目を刺されたにも拘らず至って平然としていた。それどころか、刺さったナイフごと左の眼球を取り出したのだ。


「残念。左目ハ姐御ニアゲタバカリヨ。コレ、義眼ネ。コノ中ニ解毒薬入レテタカラモウ助カル術ハナイヨ。コノ蠱毒演舞カラハネ」


 凶星の息が徐々に荒くなっていく。

 傷を負うたび体内に蓄積した多種多様の猛毒のカクテルが気発したガスのように体内から漏れ出す。カメラの映像越しからでも分かるほど室内に紫色のモヤが漂っていた。


「うげっ、怪我して興奮してるよ。なんスかこの人、気持ち悪るっ。毒なんか怖くないけど、さっさと済ませた方が良さそうっスね」


 マルグリットはそう言うと、大量のナイフを凶星目掛けて投げ放つ。それに対して凶星は敢えてマルグリットへと間合いを詰めるべく突っ込んだ。身体の至るところにナイフが刺さっているがお構いなし。意外な相手の行動にマルグリットが一瞬怯んだ。その隙を逃さなかった凶星。マルグリットの両肩を掴み、満面の笑みを向ける。


「捕マエタァ」


「ひぃっ! なぁーんちゃって」


 凶星の奇襲に怯えた表情を見せたマルグリットだったが、彼女もまた次の瞬間意外な行動に出た。


「んちゅ」


 なんと凶星の頭を掴み、その唇に自身の唇を重ねたのだ。それだけでなく、舌を絡ませねぶるような濃厚な口付け。全身に猛毒を持つ凶星の体液は高濃度の毒液そのもの。唾液も然りだ。時間にして数秒程度だったが、重なっていた唇が離れた。マルグリットの唇が糸を引いている。すると、マルグリットはガクガクと震え出し口、鼻、目、耳、顔中の穴からドクドクと滝のように血がとめどなく流れ始めのだ。なかなかショッキングな光景に視聴者たちのボルテージは最高潮。


 その後、マルグリットは痙攣しながら倒れるとやがてピクリとも動かなくなってしまった。


 出血毒、神経毒、ありとあらゆる毒を摂取すればこうなることは必然。あっけない決着に室外で傍観していたメイファンは退屈な表情をしていたが、すぐにその顔色が変わった。


「凶星? どうしたの凶星!?」


 いつもなら戦闘が終わればカメラに向かって合図をする取り決めだった。しかし凶星は依然と直立したまま動かない。


 室内のスピーカーから聞こえきたメイファンの声に応えることなく、凶星もまたうつ伏せに倒れてしまったのだ。倒れた凶星の口から転がり出てきたもの。それはマルグリットが舐めていた飴玉だった。


「なにあの飴。まさか毒? いやありえないわ。凶星を倒せる毒なんてあるわけ——」


 転がった飴を拾う指。それを再び口に戻したのはなんと先程まで死んでいたはずのマルグリットだったのだ。


「この飴ちゃん、大量のフェンタニルが含有してるんでコレを舐めてるうちの吐息を吸っただけでもブっ倒れる代物なんスよ。声が聞こえるってことは見てるんでしょー? 勝ったんだから解放してくれませんかねー? じゃないと部屋ごと爆破しなきゃならなくなるんでそっちも困るでしょー?」


 まさかの展開にも動揺することなく、メイファンはマルグリットに質問する。


「凶星の毒でも死なないなんて、あなた不死身?」


「そうっス。正確には死にはしますが、すぐ生き返ります。うちの純潔の加護ってそういう能力なんで」


 それを聞いたメイファンはデュランに問う。


「デュラン、あなたアスガルド聖騎士団にいたのよね? あの子が言ってること本当なの?」


「純潔……聞いたことはあるな。処女である限り何度死んでも蘇るトンデモ加護の話を。但し女限定だからレオンクロスが全員男だった世代じゃ必然的に使い手がいないからかなり珍しい種類の加護だったはずだぜ」


 デュランの説明を聞いたメイファンは再び室内のスピーカーへ向けて声を放つ。


「ですって。よかったわね凶星。好きなだけ遊べるわよ、その玩具」


「はぁ? なにいってんスか?」


 その直後、強烈な殺気を感じ背後を振り向くマルグリット。そこには、先程仕留めたはずの相手が嫌な笑みを浮かべて立っていた。


「ヤット見ツケタ……壊レナイ玩具。モット遊ビニ付キ合ッテ。試シタイコトガ山ホドアルカラ」

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