虎城強襲
デュランが虎皇会事務所のビルに辿り着くと、既に死体の山が築かれていた。
黒いスーツ姿で倒れている組員たちは皆トルメンタ同様に無数のナイフで刺されており、エントランスから真っ赤なカーペットが敷かれているかのように血溜まりが出来てきた。そこを真っ直ぐエレベーターまで続く女性物と思われる足跡が二つ。おそらく、メイファンと凶星のものだろう。エレベーターは最上階で止まっており、メイファンらは支部長室にいるらしい。
せっかちなデュランはエレベーターを待たずにいつも通り階段を駆け上る。
「メイファン! 無事か!」
最上階まで一気に駆け上がったデュランは恒例行事のように部屋のドアを蹴破ろうと駆け寄る勢いをそのままに飛び蹴りを放つ。
すると、デュランの予想に反して内側からドアは開かれ、本来ドアにぶつけられるはずだった蹴りのエネルギーは行き場を失い空振り。勢いをそのままに床を転がりながら入室する羽目になってしまった。
「いい加減入る度にドアを壊すのをやめなさいな、デュラン」
足音、大声でデュランの接近を察知したメイファンはドアを蹴り破られるより先んじてドアを開いた。呆れ顔のメイファンは倒れているデュランの顔を覗き込んでいる。
「痛っててて。よ、よう。無事だったかメイファン」
「まぁ、今のところはね」
メイファンは立ち上がると、いつも自分が使用しているプレジデントデスクの方へと目をやる。そこにはアスガルド聖教徒の装いをした人間がデスクの上に座っていた。
「わぁ、びっくりしたぁ! その人、あんたの部下っスか?」
ピンク色の髪をした小娘。
とても虎皇会の組員を皆殺しにした実力者とは思えない。しかし、右肩に施された勲章を見てデュランはその考えを改めざるを得なかった。
「テメェ、獅子十字隊か」
「ありゃ? これまたびっくりっス。この街でうちらのことを知ってる人がいるだなんて。アシュリーか氷室さんと面識あったりします?」
「どっちも知り合いだ。そんで、昔俺もアスガルド聖騎士団にいたからな。この短剣の刃でピンと来たぜ」
そう言うと、デュランはポケットからトルメンタの遺体に刺さっていた刃を取り出しマルグリットの前に投げ捨てる。
「あー! あなたもしかしてデュランさんっスか!? アシュリーがよく話してましたよ。あとたまにシュンも!」
「シュン……? 誰だそりゃ?」
「誰って、獅子十字隊第四席の〝情熱の迅麗〟っスよ。今は彼女が給仕部隊の隊長をしてるっス。シュン、あなたに会いたがってましたよ」
「あぁ、思い出した。あの小娘、確かそんな名前だったわ。そうか、あいつもレオンクロスに入ったのか。しかも給仕部隊を仕切るまでになってるたぁ驚きだな。アシュリーに聞く手間が省けたぜ。まぁ、あいつの拳法よりもっとアイラ向きの武術を見つけたからもう用はねーけどな」
まだデュランがアスガルド聖騎士団に所属していた頃、師のリウロンと共に料理と拳法を学んだ妹弟子。デュランとは違い、主に詠春拳を叩き込まれていたのを思い出した。
「ちょっとデュラン。あなたどっちの味方なのよ」
メイファンに小突かれ、本来の目的を思い出す。
「っと、いけねぇ。おい、ピンク頭。トルメンタ殺したの、お前か?」
「そうっスよ」
一切の否定もせず。さも当然というナメた態度にデュランの額に青筋が走る。しかし聞かねばならないことがあるため、まだ手は出さない。
「なぜ殺した?」
「うちだってホントは殺す気は無かったんスよ? 本来はアイラって金髪のガキンチョを攫うだけだったんスけどあまりにも抵抗するもんで。しかもあの人、言ったんスよ。『ミケーネは既に逮捕され、刑務所で何者かに殺された』って。わざわざミケーネを殺す為にこんな掃き溜めみたいな街に来たのに、全てが無駄だったと分かった瞬間何にも考えられなくなっちゃって。気づいたら殺しちゃってました。てへっ」
「……そんなくだらねぇ理由の為に。しかもテメェ、うちのアイラを攫おうとしただぁ!?」
デュランの怒りは爆発寸前。それを見ても臆することなくマルグリットはデスクの側に置いていた小包を床へと落とした。中から転がり出てきた首が一つ。ディエゴのものであった。
「文句があるならこの人に言ってくださいよぉ。うちはただそうしろって命令されてただけなんスから」
マルグリットはそう言うと、飴玉を一つ取り出し口に放り込む。とことん舐め腐った態度にデュランの怒りは沸点を超えた。怒りで徐々に体温が上がっていくデュランの歩みを止めたのはメイファンだった。
「デュラン。悪いけどここは私たち虎皇会に譲ってくれないかしら」
「冗談だろ? アイツはトルメンタを殺してアイラにまで手を出そうとしたんだぞ? この手でキッチリ落とし前つけさせねーとこっちも怒りが収まらねーんだよ」
「こっちも何十人も組員を殺されてるの。マフィアの世界じゃメンツが何より大事なのよ。分かるでしょ? それにここはうちのシマよ。邪魔するならあなたであろうが容赦しないわ」
睨むデュランの目を真っ直ぐ睨み返すメイファン。普段は閉じられている鋭い目は師のリウロンにやはり似ている。その視線に睨まれると、流石のデュランも逆らうことが出来なかった。
「チッ、わーったよ。その代わり、ヤバそうだったらすぐ割り込むからな」
「それは心配無用よ。凶星!」
メイファンが名を呼ぶと、メイファンの足元から伸びる影からずるりと這い出るように黒尽くめの衣装に身を包んだ凶星が現れた。
「相変わらずどうやってんだ、それ」
デュランの疑問に振り向いた凶星は不気味な笑顔で答える。
「本当ニ影ノ中ニ入ッテイル訳ジャナイヨ。手品ミタイナモノデ、ソウ見エテルダケネ」
「そっ、そうか……」
「それじゃあ凶星。後は頼んだわよ」
メイファンはそう言うと、デュランの手を引き部屋を出て行った。
「おい、ちょっと待てよ! アイツら二人だけにすんのかよ!」
「そうよ。あなたも巻き込まれて死にたくたいでしょ?」
メイファンはそう言うと、謎のリモコンを取り出してボタンを押した。すると、部屋の中からガシャンガシャンという機械音がいくつも聞こえ、最後に先程出てきたドアの前を塞ぐように分厚い防火シャッターが目の前に降りてきた。
「室内の窓も全てこれと同じ材質のシャッターで塞いであるわ。これで誰も出れないし誰も入れない。オマケに換気口の外側も同様のシャッターで塞がれてるから長引けばいずれ室内の酸素は尽きるでしょうね」
「何しようってんだよ、お前」
デュランの問いかけにメイファンは目を見開いて答えた。
「凶星必勝の陣、蠱毒演舞の始まりよ」




