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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
109/195

ライガンVSエドウィン②

 ライガンは拳を掴んだままエドの身体を振り回すと、力一杯マットに叩きつけた。


「まだまだ終わらねぇぞ!」


 掴み取ったエドの拳を握ったままライガンはマットや金網、コーナーポストなど様々な場所へ向けて全力でエドをリング上のあらゆる場所へにぶつけていく。まるでエドという人間をハンマーのように。ジェイルタウンでデュランに次ぐ怪力の持ち主であるライガンの繰り出す力任せの拘束攻撃に成すがままのエド。連続叩きつけが一旦止まり、ライガンに拳を握られたまま宙吊りになっているエドはピクリとも動かない。


「フン、死にやがったか。バングブラザーズに喧嘩を売って生きていられるヤツなんざ——」


 ライガンの吐いた言葉は喉の途中で詰まった。

 何故なら、同じ目線に吊り下げていたエドが鋭い眼光でこちらを睨んでいたからだ。慌てて追撃しようとするがもう遅い。エドの鋭いアッパーがライガンの太い腕を穿つ。分厚い脂肪と筋肉に覆われているライガンだが、放たれた打撃のダメージはそれらを通り越して骨へと届いた。直後、派手な音が会場内に響く。


「ぐわぁぁぁ!?」


 堪らずライガンは掴んでいたエドを放してしまった。見ると、殴られたライガンの前腕は紫色に腫れ上がっている。橈骨、尺骨が二本とも折られたようだった。


「テメーがブンブン振り回したせいで髪が乱れたじゃねーか。正直ナメてたよ。こっからは六割の力で戦ってやるから覚悟しろ」


 手櫛で髪を整えていたエドがライガンの前から姿を消した。


「なっ、どこ行きやがった!?」


「ここだよウスノロ」


 声は真下から聞こえた。

 ライガンは目線を下げると既にパンチを放たんと拳を振りかぶっているエドがそこにいた。恐るべき速さのフットワーク。だが、ボディならいくら打たれようと倒れない自信があったライガンは敢えて相手に打たせて再度その隙を捕えようと狙っていた。だが、打ち込まれた拳の威力は先程と比べ物にならないほど強烈なものだった。まるで皮膚、肉を通り抜けて内臓を直接殴られているかのよう。脅威のタフネスを誇るライガンもこれには堪らず嘔吐した。


「表面上での打撃が効かねーなら、中身に届く威力でブッ叩いてやるよ!」


 形勢逆転。エドの猛ラッシュに防戦一方のライガン。遂にはコーナーポストに追いやられた巨体は自分より頭二つ以上小さなボクサーのサンドバッグになっていた。マシンガンでもブッ放しているかのような速く重たいパンチな猛襲。余りにも一方的な試合展開にイカれた観客たちも言葉を失っていた。勝負は既に着いている。しかし、ライガン本人が負けを認めるか倒れるかしない限り試合は止まらない。エドのパンチでコーナーポストに押し付けられている為、巨漢は倒れるに倒れられないのだ。ライガンは既に白目を剥いており意識を失っている様子。試合が開始して約三分経った辺りでようやくエドのラッシュは止まり、ライガンはマットに倒れた。


「ワンラウンドKOが俺の信条なもんでな。本当はまだまだ殴り足りねーが、これで勘弁してやるよデカブツ」


 ここでようやく試合終了のゴングが鳴り響く。静寂に包まれていた会場だったが拳を振り上げたエドを讃える割んばかりの歓声。文句なしの勝利にエドはリングを降りて会場を悠々と去っていく。倒れたライガンは六人がかりで巨大なタンカーに乗せられ運ばれていく。リングドクターの元へ向かうのだろう。


 試合の一部始終を見ていたウィリアムが戦慄していると、不意に部屋のドアがノックされる音が聞こえた。


「デュラン様、もうすぐ第二試合ですのでご準備の程、よろしくお願いします」


 出番を知らせる合図。ウィリアムは急いでデュランを起こした。


「んだよ、もう出番かよ。かったりーな」


「それどころじゃないんだよ。さっき一回戦をテレビで観てたんだけどさ!」


 呑気に顔を洗っているデュランにウィリアムは先程の試合を事細かに話した。


「エドってボクサーはアレか。レーヴァテインの奴か。アイツが出てるとなるとかなり面倒だな。つーか、ライガンが出てたのは意外だな。あいつらも金に困ってんのかねぇ」


 エデンに仮住まいを始めてからジェイルタウンでの事情を一切知らない二人はあれこれ話ながら試合会場へ向かう。会場の入り口に辿り着くと、ちょうどライガンが乗ったタンカーが医務室へと向かうところだった。


「おーおー、また派手にやられてんなァ。ライガンのやつ」


 顔面はボコボコに腫れ上がり、体中血だらけ。ライガンをあそこまで重傷を追う様を見るのは実のところ二人は初めてである。流石のデュランでもあそこまで痛めつけることはした事がなかった。


「あれぇ? 今日は二人も出るのかい?」


 ふと背後から聞き覚えのある声が聞こえ振り返るデュランとウィリアム。そこにいたのはジェイルタウンでただ一人の医者である闇医者グレッグだったのだ。


「グレッグ!? なんで君までここにいるのさ。まさか君も出場するの?」


 ウィリアムの問いにグレッグはヘラヘラと笑いながら答える。


「まさか。俺はただ単にリングドクターとして今日一日虎皇会に雇われてるだけ。地下試合がある日はメイファンさんがいつも依頼してくれるんだよ。報酬もかなり貰えるから色々とオイシイしいんだよね」


「そ、そうなんだ。にしてもライガン大丈夫かな? 治せそう?」


「ただでさえ頑丈だからこんくらいの傷なら余裕だよ。弟のココや手下たちはもっと酷かったけど、俺の手で全員治したし」


「えっ、バングブラザーズが潰されたってこと?」


「あぁ、そっか。二人がジェイルタウンを離れた後だから知らないのか。先日さっきのボクサーがデュランを訪ねてジェイルタウンに来たんだけど、その時彼がバング一味の殆どを半殺しにしちゃったんだよね。今回ライガンが出場したのも彼に対するリベンジだったみたいよ? まぁ、結果は見ての通りなんだけどね」

 

 飄々と答えるグレッグ。ウィリアムは少し考える様子を見せた。


「なるほど。どうやってライガンが虎皇会の厳重な警備を突破してここに潜入したのかずっと謎だったんだけど……グレッグ、君の手引きか」


 グレッグは黙ったまま、依然とへらへら笑っている。医師免許を持たず独学で医術を学んだこの男の腕前は〝死神を退ける〟と称されるほど高く、人を治すことだけを至上の悦びとしている。しかし、ただそれだけなら人が彼を闇医者と呼び畏怖することはない。


 治療という行為には前提として患者という存在が必要不可欠。故にグレッグは常に患者を求めている。だからこそ、この男は常に争いが絶えないジェイルタウンに住んでいるのだ。そして彼が吹っ掛ける高い治療費は時としてジェイルタウンに住むならず者たちへ支払われる。彼の愉悦を満たす為の患者を故意に生産する為に。治療のためなら患者や怪我人を無理矢理にでも作る。ジェイルタウンでも上位に入るサイコ野郎の一人がこのグレッグという男の本質である。


 また、リングドクターであれば当然出場する選手の情報を把握している。氏名だけでなく治療の際に輸血に用いる血液型までも。選手名簿にエドウィンの名を見つけたグレッグはその件をライガンに報告。メイファンのお気に入りであるグレッグならばライガンを地下闘技場に招き入れるのも容易い。おかげで第一試合からライガンが破壊したムエタイ選手とたった今し方倒されたライガン本人の治療が出来るという訳だ。


 ウィリアムの言わんとしたこれらの背景を察したデュランがグレッグを睨む。


「人のシュミにとやかく言えるほど偉くはねーけどよ、やっぱテメーは相当イカレてるぜ」


「クククッ、褒め言葉として受け取っておくよ」


「トコトン腐ってやがるな。だから俺はお前が嫌いなんだよ。けど癪だがお前の医術の腕は確かだ。グレッグ、ライガンの処置は頼んだぞ」


 デュランはそれだけ伝えると試合場の入り口へと進んで行った。

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