ライガンVSエドウィン①
真っ先に仕掛けたのはライガンの方。
巨拳を振り上げ、エドに向かって殴りかかる。普段は巨大な鎖付き鉄球を得物とするが、今回は素手での勝負。しかし逃げ場のないリング上であれば得物の有無などランガンにとっては問題ではなかった。
鎖付き鉄球を使用するのは、銃火器を扱う相手に対応するため。それと同時に逃走する相手の逃げ道の先にある建物や壁などを破壊し瓦礫で逃走経路の遮断。或いは鎖自体で捕縛するために用いるのが殆どで、武器というより戦いの補助の役割が大きい。ライガンの持ち味は、鎖付き鉄球ではなくそれを操る巨躯から生み出される並外れた腕力にこそある。単純な力比べならデュランが来るまでジェイルタウン内でナンバーワン。その鉄拳はコンクリートを軽々と貫き、カナダにいた頃は自身と同じくらいの大きさのヒグマと対峙しパンチ一発で首をへし折ったこともあるという。
そんなライガンのパンチが直撃すれば人間など一撃で戦闘不能になるのは必然。現にムエタイチャンプもそれでやられているのだ。但し、それは当たればの話。
「そんな大振りが当たるかよ」
エドは隙だらけのライガンのパンチが当たるより早く自身の右拳をライガンの顔面に叩き込む。
鼻を強打し、倒れる巨体。
華麗なカウンターに対して割れんばかりの歓声と、ライガンに賭けていた者達からの悲鳴が会場の熱気を更に盛り上げる。
『エドウィン選手の鋭いカウンターが決まったー! その動きはまるで三十年前に実在した前人未到の全試合ワンラウンドKO勝ちで世界三階級王者に輝いたにも拘らず国際指名手配に至る凶行を犯したプロボクサー、エドウィン・マクレガー本人の生き写しかのよう! もし彼が今もまだ生きているとしたら年齢は五十代をとうに過ぎているでしょう。しかし彼が本人かどうかや過去の経歴などここでは一切関係ありません! 何故ならここでは強いものこそが正義であり強さこそが栄光を手にする鍵! 伝説に値するその見事なパンチを受けたライガン選手はこのままダウンしてしまうのかー!?』
「本人だって言っても信じねーだろうなァ。後々面倒になるからそっくりさん扱いでも構わねーけどよ。後はデュランが勝ち上がってくるのを待って……あ?」
勝利を確信していたエドの予想に反し、大の字で倒れていたライガンはゆっくりと起き上がるとファイティングポーズを取る。まだやれるという意思を示したのだ。ここでは負けを認めさせるか相手が起き上がらない限り試合を止めるものはいない。極論、試合中に相手を殺しても構わないことになっている。参加者は皆、試合中に命を落とす可能性があると記載された同意書と契約書にサインをしている。乱入したライガンは別だが、正規の参加者であるエドやデュランもその書類全てにサインをしてここに来ている。
選手の大半が高額な賞金に目が眩み、自分は問題ないと高を括った軽率な判断で命を落とす。それこそ観客たちの楽しみでもあった。
人の命が散りゆく様。人の財産が散りゆく様。
自分以外の者が何かを失っていく〝ホンモノの散り様〟を見ないと優越感を味わえないほどの私腹を肥やし過ぎた弊害よる飢えや渇きを抱えた亡者の集まる場所。ここは楽園の名を冠する都市で最も地獄と呼ぶに相応しい場所の一つであることは疑いようもない事実。
邪神を崇めるレーヴァテインの幹部、エドにとってもここは非常に過ごし易い場所なのだろう。死と闘争の空気、人々の醜い欲望、有りとあらゆる負のオーラが会場内を満たしている。
エドは楽しそうに笑った。
「おいおい、まだ遊んでくれるってか。最高だ。最高の夜じゃねーか。しかもまだメインディッシュ前ってんだからたまんねェ。こんなに楽しいのはいつぶりだ? いっそここに住所変更したいくらいだぜ」
「そんなにここが気に入ったなら永久にここに縛りつけてやるよ。てめぇの墓標としてな!」
再びライガンはエドに向かって殴りかかる。
馬鹿の一つ覚えのように先程と全く同じ大振りのモーションで。エドも先程と同じタイミング、同じ箇所へとカウンターパンチを打ち込む。しかし、先程と違うのは再度その一撃を受けてもライガンが倒れなかったことだった。
「二度も同じ手は効かねぇ!!」
カウンターを決められても止まらない巨拳。
攻撃を受ける覚悟をしたライガンの動きを止めるのはデュランでさえ難儀する。脂肪の塊に内包された筋肉。本気になったライガンの身体にダメージは通り辛い。体格に見合うパワー。そしてタフネスを備えているのがこのライガン・バングである。
再度カウンターを受けて沈むだろうと予想していたエドは急きょウィービングでライガンの反撃を躱し、左に避けた際にレバーブローを一発打ち込みつつライガンの背後へと回る。
肝臓付近に打ち込まれたエドの強烈な一撃を受けて尚、倒れることなくエドを追って振り向くライガン。再度大振りの構えを取ると性懲りも無くエドに向かって再度右ストレートを放つ。
「何回やっても当たらねぇってことをいい加減学べよデカブツ。馬鹿は死ななきゃ治らねーらしいから次の一撃で俺様が治してやるよ!」
再度放たれるエドの鋭いカウンター。
しかし、その拳はライガンの顔面を打ち抜く寸前で巨大な掌に掴み止められた。
「墓標に書いといてやるよ〝馬鹿を治せなかった馬鹿野郎ここに眠る〟ってな」




