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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
104/194

ふたりの朝練

 氷室がトニーを斬ったその日の早朝、エスコバル邸ではウィリアムとトルメンタがキッチンカーに本日販売分の食材等を積み込んでいた。


 いつもなら一番働いているデュランの姿は見えない。


 穏やかな気温。涼やかな風と木々のざわめき。鳥の声。


 デュランは広い庭園の一画で站樁(たんとう)と呼ばれる中国武術式のトレーニングを行っていた。


 一定の構え、姿勢のまま気を整えることを絶えず意識しその場で静止し続けるという極めてシンプルな鍛錬法だがこれを数時間続けるのは極めて全身の筋肉に負荷をかける。上半身裸のデュランの皮膚からは大量の発汗が見受けられ、かれこれ二時間近くこの站樁を行なっていた。同じ姿勢を静止したまま保つ。ただそれだけのことだが、全身の筋肉を駆使するため持続時間が長ければ長いほど並の有酸素運動に比べても遥かにきつい。


 聖騎士時代は毎日やらされていたが独り立ちした今でもデュランは時折このトレーニングを行なうことがある。


 一つは師の夢を見た時、そしてもう一つは戦うことが決まっている日の朝。


 昨日、虎皇会からの使者より例の地下闘技場の招待状を受け取った。正式に選手登録が成されたというわけだ。今宵集まるのは現役、引退、プロ、アマチュア、更には裏表の世界を問わず虎皇会が各国から招いた選りすぐりの闘技者たち。


 加えて、その闘技場にて全戦全勝。今尚不敗を貫く王者であり、メイファンの右腕である元軍人のジェイクと戦える絶好の機会となればいくらデュランでも何の準備もなく挑む程愚かではない。


 久方ぶりのトレーニングに励んでいるデュランの耳に自然の音とはまるで別の耳障りな鈴の音が聞こえてきた。


 ちりん、ちりりん、りんりんりんりん。


 気が散るのは集中が足りない証拠。

 師が息災であったなら、そんな言葉と共に蹴りが飛んできただろう。幾度となく集中を切らさぬよう励むもやはり気になって仕方ない。


「だーめだこりゃ。やっぱ最近怠け過ぎてたか」


 努力はしたがヤニ切れも相まって集中力が完全に途切れたデュランは站樁を解いて目を開ける。


「んで、オメーはそこでなにやってんだ?」


 デュランのすぐ横には氷室から貰った鈴付きの脇差を手にしているアイラがいた。


「剣道のお稽古。毎日振ってるとこの鈴が鳴らなくなるんだって」

 

「は? マジかよ。俺にも出来んのか? 試しに一回貸してみ」


 興味津々でアイラから脇差を受け取り、氷室の真似をして居合っぽい動作をやってみる。鞘から抜くまでは良いが、上手く納刀が出来ない。鈴もさっきからりんりんと喧しく鳴りまくっている。料理以外の細かい動作が苦手なデュランはすぐに飽き、脇差をアイラに返した。


「アホくさ。まだガキだからってあの悪徳デカに騙されてんだよ。鈴鳴らさずに振るなんざ無理に決まってんだろ」


「でもおまわりさん、実際にやってた」


「マジか。キモいなアイツ。子供相手に何教えてんだよ。まぁ、お前はあいつみたいな剣の達人クラスにならなくて良いから、ほどほどに頑張れや……って、頑張るのは俺もか」


 面倒くさそうに頭をガリガリ掻いていると、出発の準備が出来たとウィリアムが知らせに来てくれた。


「さて、朝練はこれくらいにしてシャワーを浴びてくるとするか。アイラ、俺とウィリアムはしばらくしたら仕事行ってくる。夜から別の仕事があるから今日はちょいと早めに店終いをする予定だ。夕方からトルメンタとキッチンカーの撤収、頼んだぞ」


 こくりと頷いたアイラの頭をポンと撫で、デュランは汗を流しに屋敷へと戻って行く。


 ウィリアムは試合当日くらい休店日にしようと提案したのだが、デュランはそれを頑として断った。デュラン・フローズヴィトニルという男はあくまで料理人であり武闘家としての心構えや矜持など微塵も持ち合わせていないのだった。

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