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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
100/194

ディエゴの策略

「おいおい、一発で仕留めるんじゃねーのかよ。射撃は得意なんだろ? それともアレか? 禁断症状が出始めて照準がブレちまったか?」


 禁断症状。その言葉で氷室は全てを悟った。


「トニー……お前、こいつらの薬に手を出してたのか……」


 睨む氷室の目を見れないでいるトニー。

 目線を伏せながらも銃口はしっかりと氷室へ向けられている。だが、銃を構えているその手は小刻みに震えていた。


 それが罪の意識からなのか、ディエゴの言うとおり禁断症状からなのか。今となってはそんなことは氷室の中では最早問題にすらならない程どうでもいい。


 何故この男に限って。

 エデン署の中でもお人好しで誰隔てることなく接する気の良い正義漢がそんな愚かな選択をしたのか。

 

「なぁ、エイジ。今度うちに三人目が産まれるって言ったな」


 その疑問は、トニー自らの口から語られた。


「その子はな、俺の子じゃねぇんだよ」


 トニー曰く、数年前から非閉塞性無精子症を患っていたという。ただ、既に二人の子宝に恵まれていたこと。加えて、家族を心配させまいとしたこと。自己が下したその二つの選択が完全に裏目に出た。優し過ぎた男の哀れな末路。今の今まで誰にも話さずにいたことを気丈と見るか、弱さと見るかは人それぞれだろうが少なくともトニーという男を知る氷室にとって、肩に風穴が空いた自分よりも悲痛な顔をしており、心の傷に随分苦しんでいるように見えた。


「……浮気するようなカミさんにゃ見えなかったがな」


 つまりはそういうことなのだ。

 気の毒過ぎていくら無神経な氷室でさえもかける言葉が見つからない。


 そんな男だからこそ、一人で抱え込み最悪な現実逃避手段を選んだのだろう。だからこそ許せなかった。肩の痛みを忘れるほどの怒り。氷室は立ち上がると右手でトニーの胸ぐらを掴んだ。


「なにカッコつけて一人で抱え込んでんだよ! お前の人望なら相談に乗ってくれる奴なんざいくらでもいただろうが! 仮に誰もいなけりゃ、それこそ俺でも……くそッ! 馬鹿野郎が!」


 いつも冷静な氷室にしては珍しく熱くなっている。そんな姿が可笑しかったのか。否、氷のように冷たいと揶揄されるこの男が自分のために激昂している。そこまでさせてしまった己への嘲笑だろう。トニーは悲しそうな瞳を氷室に向け、ただ一言呟いた。


「もし相談してたら、何か変わったのかよ……」


 直後、トニーの身体に変化が現れた。

 左眼が真っ赤に染まり、皮膚の色が徐々に紫色へ。全身の筋肉がうねるように肥大化し、見る見るうちに異形の化物へと姿を変えていったのだ。


「どうやら始まったようだな。トニーに渡していたのは巷で流した混じりモンだらけの安物じゃなく、高純度のサンタ・ムエルテだ。それに含有する魔力によってハンパじゃねぇ多幸感を得られるが、代償も伴う。それを副作用と呼ぶか進化と捉えるかは使用者の価値観次第だがね。いずれにせよそうなっちまったらもう長くはない。そいつの役目は今日で終わりだ。俺の計画で一番邪魔だったアンタという存在を除外するためのな。そんじゃ、後は友人同士楽しい夜を過ごしてくれや。アディオス、アミーゴ」


 ディエゴはそう言い残し、工場を去って行った。


 表には既に多くの車が集まっており、我らが首領の帰還を出迎えた。


「ご苦労様でした、ドン・ディエゴ。新生カルテル総勢三百名。既に集結しております」


 ディエゴの側近と思しき男がベンツの後部座席のドアを開ける。ディエゴがそれに乗り込むと、集まっていた車は一斉にハイウェイへ向けて走り出した。


「クククッ、これで一番厄介なアイスエイジを封じることが出来る。次は戦力をジワジワ削いでやった虎皇会を潰す。俺の絵図は完璧だ」


 車内で嬉しそうにそう呟くディエゴに側近は問いかける。


「しかしトニーの奴は本当にあのアイスエイジを始末出来るでしょうか?」


「ヤツは今、バケモン狩り専門の愛刀を没収されている。それ無しじゃいくらアイスエイジとはいえ今のトニーを仕留めるのは厳しいだろうよ。だが、本音を言えば俺としては氷室に勝って欲しいところだな」


「何故ですか?」


「ああなっちまった中毒者のデータは少ない。今までは理性を失ったあげく散々暴れ回った末、半日と経たずに塵となって消えてくれたが今回もそうなる保証はない。だったらいっそアイスエイジに確実に処理して貰いたいってのが正直なところだ。それにもしアルメニアで唯一の友人を自分の手で殺したとあればいくら氷の心臓を持つと揶揄されるヤツとはいえ、心に大きな傷が出来るはずだ。しばらく大人しくなるだろうよ」


「なるほど。流石はドン・ディエゴ。〝エスコバルの頭脳〟と呼ばれて——ぎゃああああ!!?」


 側近の男の太腿に深々と刺さる一本のナイフ。突き刺したのは隣に座っていたディエゴ。凄まじい形相で側近を睨み、呟く。


「エスコバルの名を出すんじゃねぇよ。次は殺すぞ」


(今のカルテルを治めているのはこの俺だ。かつてのドンの威光など微塵も残さねぇ。ここまでは計画通り。更に欲を言えば、アイスエイジが〝あの化物〟を処分してくれれば尚良いんだがな……)


 新生ディアブロ・カルテル一行が向かう先は魔の都エデン。この夜、旧支配者の本格的な侵攻が開始された。

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