Good morning Prisoners①
香龍飯店の朝は早い。
毎日早朝の四時には起床し、五時半には一日の作業が始められるように支度をしなければならないからだ。二人しかいない現場では一人の分担作業が多い。その為、どうしても早くから仕事を始めなければならない。
今日も新しい一日の始まりを告げる目覚まし時計の音が鳴り響く。
「……んだよ、もう朝か」
デュランはいつも通り枕元に置いてあるはずの目覚まし時計を手探りで探す。が、手は空を切るばかりで一向に目覚まし時計に触れることはなかった。
「ああ? 落っことしたか?」
寝ぼけ眼を擦りながら首を少し上げて辺りを見渡す。そこは寝室ではなくリビングだった。その瞬間、デュランは昨日のことを思い出し、力尽きたかのようにボスンと枕に頭を落とした。
「あー、そうだった……あのガキに寝床を貸したんだった」
額に腕を乗せ、天井を眺めながら昨日の出来事を振り返る。まったく、妙なことになったものだ。何故、自分が見知らぬ子供の面倒など――
「――って、さっきからジリジリうっせェんだよ!」
依然鳴り続ける不快な音に腹を立てたデュランは枕を鷲掴み、横のテーブルの上に置いてあった目覚まし時計へと思いっきりぶつける。目覚まし時計は床に落ち、衝撃で電池が外れてそのまま沈黙した。
「で……だ。なんでこいつはここにいるんだよ」
デュランは僅かに上半身だけを起こし、自分の腹の上で呑気に寝息を立てている少女に目をやる。昨日、ウィリアムが拾ってきた少女のアイラだ。昨夜ウィリアムがパジャマにと貸したワイシャツがまるでサイズが合っていない大きめのワンピースのようだ。
「ったく、部屋を譲ってやった意味がねえだろ」
デュランは指先でアイラの頬を軽く叩く。
「おいコラ。どこで寝てやがんだ」
「うう……ぅん?」
アイラは薄ら目を開け、まだ眠そうに体を起こす。
「……ぁぇ?」
デュランの腹の上に馬乗りになり、不思議そうな顔をしながら辺りをキョロキョロ見渡す。どうやら、寝惚けて部屋を出たままここまで来たらしい。
「目が覚めたならどいてくれ。まだ寝てていいから、寝るなら部屋のベッドで寝てくれ」
寝癖でウェーブがかった金髪が更にくしゃくしゃになっているアイラは、デュランの腹の上で依然と眠たそうにふらふらと揺れている。下になっているデュランの声はまったく聞えていないようだ。
ブロックを抜いたばかりの、今にも崩れそうなジェンガみたいにふらふら揺れていたアイラの動きがピタリと止まる。ようやく眼下のデュランに気づいたようで、彼の目をじっと見つめてこう言った。
「……おしっこ」




