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第六話:呪脳

 波乱に満ちたホームルームを終えた俺たちは最初の授業の為にグランドに連れて来られた。外から見て見れば校舎は勿論のこと、グランドも異常に広い。


「さて、初日ですが君たちにはテストを受けて貰います」

「テストって、また入塾テストの時みたいな術式把握テストですか?」


 天海の質問に八門先生は首を横に振る。


「あれは悪魔で術式の評価をする為のもの。これからやるテストは術式を使う個人の能力を測ります。いかに術式が強くとも、使う本人がポンコツでは話にならない。つくづくあのテストは合理性の欠片もない、だから()()()()()()()子も入塾できてしまう」


 八門先生はもう先程のような無表情な人間ではなかった。ただ真っ直ぐと俺たちを貫くような視線を浴びせている。


 その変わり様に俺たちが動揺している中、八門先生は背広のポケットから一枚の札を取り出す。


「これは皆さん知っての通り、周囲の呪力を吸い寄せる呪符です。これを使ってできた『呪脳』を祓う。それが今回のテストの概要です」


 呪力は人間の悪感情をエネルギーに変えたもの。呪滅士はそれを使って『呪脳』という呪力の暴走によって発生した化け物を祓う。有馬から聞いてはいたが、実際に見るのは初めてだ。


「・・・如月君。『呪脳』を・・・呪術を楽観視してはいけません。この道は君が思っているよりもずっと血潮まみれの残酷な道。それをしかと目に焼き付けてください」


 呪眼を通して見ると、八門先生の呪符を持つ手に呪力が籠められる。徐々に漆黒に染まっていく呪符を地面に落とすと、()()はゆっくりと形を成していった。


 背筋にゾッとした悪寒が走る。まるですぐ側に死が立っているようだった。


「呪滅士は『呪脳』を祓う存在。この程度で怖じ気付いていては呪滅士になる前に死にますよ?」


 蛙を思わせる姿。普通と違う点は俺たちよりも春かに巨大で、目が六つあるということ。そしてその蛙の周囲には溢れ出た呪力が渦巻いている。


 甘くないことは解っていた。綾野川を救う為なら何でもやる覚悟だった。だが、心の何処かには綻びがある。絶対の決意などない、ほんの些細なことでそれは揺らいでしまう。


「――――何を突っ立っている?」


 その一言が俺の頭に響く。それはいつかの夢に出てきた麗月の声だった。


「見るんだ。その目で現実を、お前の願いを叶える為にはあの化け物どもを駆逐しなければならない」


 ――――解ってる。解ってるんだ。でも、どうしても思い出してしまうんだ。あの日、何も出来なかった自分を。


「ならば尚更だ。あの程度に打ち勝てないのであれば所詮、お前は只の敗者だ。戦え、この世は勝者が全て。自らの我を通したいなら、お前の選択は一つだ」


 俺の脳裏には今もあの光景がフラッシュバックしている。体は確かに動いた。単純な力の差で俺はねじ伏せられた。俺は知る必要がある。呪いとは何なのか、俺たちが呪われた理由を――――。


 呪眼のコントロールはまだまだ未熟。だが、大体の呪力の流れは読めるようになってきた。呪力を消せる範囲は右目に写る視界の範囲に限る。それは対象を右目に入れてしまえば良いだけの話。


 ひんやりとした冷たさを右目に感じながら、残った左目で状況を確認する。各々、バラバラに散らばって状況を伺っている。青崎はまだ俺の隣にいたが、既に何か言う必要はない。青崎の左目には俺と同様に呪眼を持っている。有馬は呪眼は二つが揃って初めてその真価を発揮する。だから、俺たちは二人でないと駄目なんだ。


「青崎ー!」


 二人同時に呪眼を発動させることにより、互いに呪力を消せない範囲をカバーする。


 目の前にいる呪脳に照準を合わせて、呪眼の出力を全開にする。すると呪脳は呻き声のような声をあげ、ボロボロと体の部位が崩れていく。


 そんな呪脳の最後の悪足掻き。まだ完全に消しきれていない口の部分から長い舌がうねりながら俺に迫ってくる。直ぐには見えない、当たる――――。


「はーい悪いけどそれ禁止!」


 一ヶ谷の穏やかな声がすると、舌は俺に触れる僅か数センチのところで止まっていた。そして鎌が旋回しながら呪脳に迫り、細切れにした。


「あーあ、如月君と青崎君に美味しいとこ奪われちゃった」

「あのクソ共、俺の術式まで消しやがって、殺す!」

「気持ちは解るけど抑えて、京介は良くも悪くも術式に頼り過ぎるからこうなるんだよ」

「あーウゼえ!」


 どうやら呪眼の視界に赤座の鎌が入ってしまったようだ。腹正しそうにこちらを睨む赤座を一ヶ谷が宥める。


 天海はというと、何もすることもなくその場に立ち尽くし、こちらの様子を見ているようだった。




 ◇◆◇◆◇




 大方、クラスの実力は八門の予想通りであった。


 赤座京介君の術式『虐呪の鎌』


 一ヶ谷和也君の術式『傀儡』


 そして、如月悠真君と青崎壮真の『呪眼』


 天海君の術式はまだ未確認だが、今年の一年生は粒が揃っている。しかし、同時に何かしらの問題を抱えている。これを解決しない限りは彼等に成長は訪れない。世阿弥さんも厄介な生徒を押し付けてきたものだ。


 最古の呪術『呪眼』 報告によれば如月君と青崎君の呪眼は意図的に開眼させられたという、そのようなことが出来るのは呪滅軍の中でも一握りしか存在しない。なのにまだ犯人を弾き出せないということは、呪滅軍に所属しない外部の呪滅士かあるいは・・・。


 世阿弥さんは彼等を保護し、あわよくば戦力にしようとしているのだろうが、それは欲張り過ぎだ。この呪滅塾は安全そうに見えて安全ではない。少なくとも、敵を見誤っている今ではいずれは呪滅軍そのものが崩壊することになる。


 ――――世阿弥さん、私は私のやり方でいかせて貰います。


 呪滅軍の敵は人間ではない、本当の敵は『呪脳』だ。そうでなければならないのだ。



 ◇◆◇◆◇



 初日の授業を終えた俺たちに最初に浮上した疑問。それは寝床の問題だ。八門先生の話によれば、この塾には寮はなく、授業以外は塾から出ることすら出来ないらしい。となると答えは一つだ。


「君たちにはこの教室で寝泊まりして貰います」

「「「「は?」」」」


 しばらく沈黙が続いた後、天海が口を開く。


「嫌です。この人たちと同じ部屋で寝るなんて耐えられません」

「俺も、こんな奴等と寝るなんて御免だ」


 八門先生は重いため息をつくとこうこう続けた。


「呪滅士は一人で戦うだけではありません。時には仲間と共闘して祓わねばならない場面もある。君たちに特に欠けているもは協調性です。それを養う為にも、全員、仲良くするように」


 八門先生はそう言い残して、教室から去っていった。


 八門先生が去った教室には先程よりも重い空気が充満していた。俺たちは全員、今日初めて会ったばかりなのだから、躊躇うのも無理はない。


 最初に行動を起こした天海は、教室から出て行こうとドアに手を掛ける。


「おい、どこ行くんだよ」


 青崎の呼び止めに、天海はドアに掛けた手を止めてこう言い放つ。


「・・・私は何処か適当な場所で寝る。あなたたちと一緒に寝る訳にもいかないし、それに私はあなたたちとは違う」


 最後の一言が気に触れたのか、赤座の鎌が空中に展開されて回転しながら天海に向かって飛んでいく。しかし、彼女の顔に当たる寸前で鎌は真っ二つに斬られて、鎌は消える。


「・・・てめえ、先刻の授業も術式見せてなかったな」

「自分の術式は不用意に見せるものじゃない。逆に貴方は戦い方が術式に頼り過ぎている。そんなだからそこの二人に消されるんですよ」

「ああ! なんだとてめえ!」


 二人の呪力が膨れ上がっているのが解る。これ以上揉め事が大きくなる前にどうにかしなければ、三分後にはこの教室は戦場になっているだろう。万が一に備えて呪眼を発動させようとしたその時、赤座と天海の間に一ヶ谷が割って入る。


「ハイハイ、二人とも喧嘩は辞めようよ。先生も言ってたろ、これは親睦を深めるチャンスだ。今日は朝まで語り合おうよ」

「うるせえ、俺は仲良しごっこする為にこの塾に入った訳じゃねえ」

「同意見です。語り合う相手が欲しいなら人形とどうぞ」


 お互いの考えが合致したのが気に食わないのか、天海は鼻を鳴らして教室から出て行った。


「・・・なんだかんだで意気合ってるよな? あの二人」

「・・・それは言うな」


 余計な面倒が増える前に俺はさっさと寝ようとしたが、また新たな問題が浮上する。


「――――布団って何処だろう」


 先程、天海が八門先生に布団の場所を聞いていたことを思い出す。


「なあ青崎、ちょっと一緒に来てくれないか?」

「天海のとこだろ、行く訳ないだろ」

「そう言わずに頼むよ。それかお前、布団のある場所知ってるのか?」

「・・・知らん」


 天井を見上げる俺と青崎。赤座と一ヶ谷は動く気配すらしない。俺たちに残され選択肢は一つ。


「――――じゃんけんだ」


 結果、男の真剣勝負に破れた俺一人で、天海を探すことになってしまった。

































こんにちは、柊です。第六話『呪脳』が完成したので投稿させて頂きます。投稿が不規則になり申し訳有りません。受験生故、勉強の方を優先させて頂いております。月一話投稿を目指しますので応援宜しくお願いします。ここまで読んで頂き有り難うございました。

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