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第四話:呪滅軍と呪滅塾

 東京都、呪滅塾本部―――。


「どういうつもりだんだ! 有馬は!」


 部屋の中で怒号が響き渡る。ここは呪滅軍に入る人材を育成する為に創設された塾、不滅塾。およそ数百人という小規模で政府公認の合法組織。今はここ、呪滅軍幹部特別会議室にて、呪滅軍の運命を左右する重大な報告がなされた。


 ここ数千年、開眼が確認されなかった滅呪の眼。呪眼がただの一般人が開眼してしまった。あらゆる呪力を無効化するというその力を一般人が手にしたとあって、軍は騒然としている。たった五人だが幹部がこうして集まるのも、実に数百年ぶりらしい。それだけならまだ良い、だが、問題はその後にある。


 呪滅軍本部に数千年前から伝わっている軍部規定の一つに、呪眼を開眼した者が現れた場合、即刻その者を処刑するという規定がある。それをあろうことか呪滅軍幹部の一人、有馬翔太がそれ破ってしまった。


 中央に置かれた円卓の席に座る五人の幹部達。呪滅軍最強である彼等が頭を抱える程、事態は深刻な状況に陥っていた。


「世阿弥! 聞けばその一般人に最初に接触したのはお前らしいじゃないか、責任を負う義務はお前にもあると思うがどうだ? 各々!」


 中辻清十郎。幹部の中で最古参の幹部。この場の誰よりも伝統を重んじており、融通の聞かない頭でっかちだ。プライドも高い故、呪眼が一般人の子供に開眼したのが許せないのだろう。


「まあ待って下さいよ清十郎さん。世阿弥さんも素直に召集に応じて下さったんですから、その前に私はその少年達が開眼に至った経緯が知りたいです」


 中辻を宥める神楽坂歌子かぐらざかうたこは軍の中でも少人数の女性であり、最年少で幹部となった天才美少女である。そんなまだ青い幹部の言うことを中辻は当然、耳を貸すわけがなく、怒りの矛先は世阿弥に向かう。


「でしゃばってくるな神楽坂。最年少で幹部に立てられたからと言って図に乗るなよ。お前如きの力など、我等の中では取るに足らぬ力よ。解ったら大人しく――――」

「でもよ~」


 場違いな軽い声が中辻の声を遮る。その声の主はさらに続ける。


「実力で発言力が決まるって話だったら、この場で一番強い人って世阿弥のじいさんだよな?」


 そう言って穏やかな笑顔で鳴女錬山なるめれんざんは世阿弥を指差す。これでこの会議の主導権が中辻から世阿弥に移動した。


「なんだと! 鳴女、我より世阿弥の方が勝っているとでも言いたいのか!」

「だって実際そうでしょ」

「この若造が~!」


 これでは会議というよりはまるで喧嘩だ。それもかなり低レベルのだ。このままではらちがあかない、まだ何も発言していない者はそもそもやる気がないという感じだ。世阿弥は先程から一人で鼻歌を歌っているだけで何も話さない、むしろこの状況を楽しんでいる雰囲気だ。


 ―――この腹黒ジジイめ。


 似鳥蒼士にどりそうしはそんな世阿弥の心情が読み取れても何も発言していない。何故なら、似鳥が言わなくてもこの場を仕切る人物は既に決まっている。


「皆、静かにしろ。会議の議題から随分と脱線しているぞ。今は呪眼を開眼した少年二人を今後どう扱うかの決議の筈だ」


 やっと存在感を示した呪滅軍軍長。六渡寺雄一ろくどうじゆういち 現役時代は世阿弥以上の強さを発揮したと言われている六渡寺の貫禄は、紛れもなく軍長の座に相応しい。六渡寺の鶴の一声で先程まで騒いでいた幹部達が静まり返った。


「似鳥、お主の意見を聞きたいのだがどうだ?」


 全員の視線が似鳥に集中する。恐らく、有馬の運搬を手引きしたのが自分だと疑っているのだろうが、俺からすればこの場で怪しいのは考える間もなく世阿弥だ。呪眼を確認したその日は、世阿弥と有馬の担当場所が最も近かった。何より、あの脳筋がこんな大層なことを思い付くとは思えない。


「・・・そうですね。今この場に揃っている者だけで決めるには事が大き過ぎます。ここにいない四人の意見も交えるべきかと」

「・・・そうか」


 我ながら現実味のないこと言ったものだ。この数千年、幹部達が集まらなかったのは単純に仲が悪いからだ。現に今この場にいない四人は他の幹部の顔など見たくもないという身勝手な理由で出席していない。だからと言って集まったこの五人が仲良しかというとそうではない。皆、其々の思惑がある。


「六渡寺様。他の者の意見など聞く必要はありません。この件は私に任せて頂けないでしょうか。規定に従い、呪眼を持つ一般人を即刻、処刑します」


 なんだかんだと呪滅軍では古参の者に権力が集中している。それにより、この場で中辻の決定を覆せる幹部はいない。だがそれは、一人を除けばの話だ。


「すまないが中辻殿。儂から一つ提案があるのだが」


 遂に世阿弥が口を開いた。幹部ですら一目置いている実力者。中辻は鬱陶しそうに世阿弥を見る。


「なんだ世阿弥! 儂のすることに何か文句でもあるのか! 軍の規定は絶対だ」

「だが折角見つけた呪眼だ。このまま手放すのは勿体無い、その力も見てみたいが何より呪眼は其々の片目にしかない。呪眼は二つ揃って初めて完全な物となるのは中辻殿も御存知だろう? だからここはしばらく様子を伺った方が得策だと思うのだがな」

「何を呑気な! 呪眼がもし暴走すればどうなるか――――」

「だがもし呪眼を制御出来れば、こちらの大きな戦力となる。それに、いざとなれば儂が切り殺す迄のこと」


 中辻は悔しそうに奥歯を噛み締めている。中辻も世阿弥の力は解っている。世阿弥なら未知数の呪眼ですら御せる確率が高い。ここは世阿弥に賛同した方が得策だな。


「僕は世阿弥様に賛成です」

「私もです。そもそも、呪眼を開眼した者を処刑するという規定の意味が解りませんしね」

「だよな~。古い考えに従う義理はねえ」


 これで残りの幹部が反対しても、自分と神楽坂、鳴女が賛成しているから判決が覆ることはない。完全に世阿弥の勝ちだ。


「決まったな。呪滅軍軍長、六渡寺雄一が命じる。呪眼の少年二人を呪滅塾に入塾させよ。但し、極秘にだ。そして、この件は世阿弥に一任する」

「なっ六渡寺様それは―――」

「これは命令だ。中辻!」


 こうして、会議の結果は呪眼保持者の二人を呪滅塾に入塾させるという、予想外の結果となった。





 ◇◆◇◆◇





 ドアの開く音で俺は目が覚めると、目の前の景色に仰天した。


 椅子に鎖で繋がれた俺達のいる部屋の壁や床一面に札が貼り付けられていた。窓もないこの部屋のドアの前にはいつの間にか二人の人物がいた。


「おーやっと起きたかてめエら。自己紹介がまだだったなア、俺は有馬翔太。こっちの奴は似鳥蒼士だ。さあ、まずは鎖切ってと」


 有馬と名乗った俺達と一戦交えた男は、俺と青崎に巻かれた鎖を意図も簡単に引きちぎった。安堵感と同時に体の感覚が鈍くなっていることに気付いた。


「有馬・・・さん。ここは何処ですか?」

「ここかア、ここは世界一趣味が悪い場所。封印室だ。呪滅軍が危険と思ったものを容赦なくここに叩き込む。呪力を弱体化してな、まア、お前等にはあんま意味ねエけどな」


 俺達が案内された部屋は、固く厳重な扉に守られていた。


 俺達二人だけで入れというので、少し緊張していると有馬が「早く入りやがれ!」といって俺達を足で蹴って無理やり入らされた。彼は加減を知らないようだ。背骨がじんじんと痛む。


 背中を擦りながら立ち上がると、そこには見覚えのある老爺が立派な椅子に腰掛けていた。


「おお、来たか。如月、青崎。改めて自己紹介させて貰おう、儂は世阿弥。一応、呪滅軍の幹部をやっておる」


 ジュメツグン? 何やら聞き慣れない単語が出てきて、俺と青崎は思わず首をかしげる。


「呪滅軍というのはその名の通り、呪いを祓う集団の集まりです。人から生まれる悪感情は時として呪いとなり、具現化して人々を喰らう。それを滅するのが僕達、呪滅軍の仕事です。そしてここは、呪滅の術を生徒に学ばせ、呪滅軍の補強とする為に創設された教育機関。呪滅塾です」


 先程まで無口だった似鳥という男は、淡々と俺と青崎に説明してくれた。有馬より似鳥の方がよほど頭が良さそうだ。


「解りやすい説明有り難う似鳥君」

「いえいえ」

「さて、有馬から聞いているとは思うが、君達の片目は呪いを受けている。儂らはその眼のことを呪眼と呼んでいる。その力は一般人である君達には強大過ぎる。だから、君達をこの呪滅塾に入塾させたいのだが、どうだろうか?」


 急な話で少し整理が追い付かないが、俺達のこの片目は呪眼というらしい。そして、どうやら俺達はこの呪滅塾に入塾しろと言っているようだ。


「入塾するっていうのは強制か?」


 青崎は疑わしげに目を細めている。世阿弥の話をあまり信用していないようだ。もちろん、俺も完全に割り切れた訳ではない。でも、この世阿弥という老爺は何故か信用して良いような気がしている。


「無論、強制ではない。君達には申し訳ないと思っておる。儂らの勝手な権力争いに巻き込んでしまって、でもこれは君達を守る為でもあるんだ。もし、君達が入塾を断り、ここから外に出れば必ず殺される。儂らが相手しているのはそういう奴等なんだ。逆に、入塾して貰えれば儂らが必ず君達を守る。だから、どうか考えてはくれないか?」


 病院で有馬と戦った時、有馬は俺達を殺さないよう手加減をしていた。もし、世阿弥らが俺と青崎を殺そうとしたなら、あの場で殺せた筈だ。それに、ただ普通に探しただけでは俺達を襲った男は見つからない、綾野川を救う方法も解らない。この呪滅塾で、呪滅軍で探した方が近道に違いない。


「青崎、俺は入るよ。この塾に」

「良いのか? 俺からすればこいつ等もあの男の仲間かも知れないぜ?」

「だとしても好都合だろ、探す手間が省ける」


 青崎はやれやれとため息をつく。どうやら、青崎も既に決心がついていたようだ。


「よし、では君達はこれから有馬君について行きなさい。必要な物はあらかた用意している。あと少しで授業が始まるから、早く他の生徒に挨拶して来ると良い。有馬君、宜しく頼むよ」

「ヘイヘイ、任されました。ホラ行くぞ!」


 そう言って有馬に背を押されながら、俺と青崎はこの部屋を後にした。ただ、世阿弥の後ろにあるものがなんなのか、少し気になっていた。




 ◇◆◇◆◇




 ―――パッとしない奴等だな。


 クールな表情を維持しつつ、似鳥は内心そう思っていた。


 伝説の呪眼を開眼した一般人は一体どんな輩なのだろうと思っていたのだが、とんだ期待外れだ。どう感覚を研ぎ澄ましても彼等本体からは呪力を全く感じない。確かに呪眼からは強大な呪力を感じられるが、所詮は一般人。ただの偶然かとかなりがっかりとしていたその時、世阿弥からただならぬ呪力を感じた。


 ただこの部屋内に呪力を張り巡らしているだけ、だがこの量は並の呪いなら難なく祓えるレベルだ。その濃い呪力に似鳥、そして隣にいる有馬も思わず後退りたくなる位であった。だが、問題の呪眼の少年達はそれに応じず、まるで何事もないように世阿弥の話を聞いていた。


 ここで似鳥は気付く。何故、自分が呼ばれたのかを。幹部の中でも派閥に興味を持たない似鳥は、その時の空気に合わせて世阿弥側についたが、中辻の動きを見てから危険と思えば寝返ろうと思っていた。世阿弥はこれを似鳥に見せつける為、この場に呼んだ。


 ――――全く、寝返る隙は与えない、ということか。


 こんなのを見せられたら寝返る訳にはいかない。何故なら見てしまったからだ。やはり呪眼は伝説通り、怪物級の性能だ。


 有馬と少年二人が部屋を出た後、似鳥は世阿弥に問う。


「世阿弥さん、あの二人使って何を企んでるんですか?」

「・・・やっと君の本音を聞けたような気がするよ。君の表情はいつも作り物のようだったから、安心したよ」


 ――――やっぱり、こっちについて正解だったな。


 世阿弥の策士ぶりに、似鳥は思わず笑みを溢した。





































こんにちは、柊です。第四話『呪滅軍と呪滅塾』が完成したので投稿させて頂きます。呪滅軍の幹部達、其々の思惑の中で如月や青崎とどう絡んでくるかお楽しみに。そして、次回から遂に呪滅塾の生徒達が登場します。個性豊かな彼等にも御注目下さい。ここまで読んでいただきありがとうございました。

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