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第三話:絶望

「・・・おい・・・おい起きろ!」


 その声で俺は目を覚ます。反射的に自分の右目を触る。痛みはないがやはり俺の視界は半分真っ暗だった。


 続いて辺りを見渡す。観覧車だ。俺の目の前には大きな観覧車があった。その近くにはメリーゴーランドやジェットコースター。間違いない、ここは遊園地だ。小さい頃、よく青崎や綾野川と遊びに行った場所。何でこんな所に俺はいるんだ。


「よし、覚醒したな? そのままじっとしていろ。場所を変える」


 直ぐ側にあるガス灯に取り付けられたスピーカーから声が流れる。そしていつの間にか俺は観覧車のボックス席にいた。もう一人の乗客と共に。


「え~と、まずは自己紹介からかな。初めまして、ボクの名は麗月。まあ今はどうでも良いか」


 全身白ずくめの彼は麗月と名乗った。背は俺と同じ位だが、黒い眼帯で顔の左半分をほとんど隠しているせいで顔はよく解らない。


「ここは何処なんだ? あの世にしては随分ときらびやかなところだな」

「もちろん、ここはあの世じゃないよ。ここはボクの領域。お前とボクだけが入れる特別な場所さ。まあ、急ごしらえでかなり脆いんだけど」


 麗月の言う通り、周囲のところどころに綻びがある。こんな状況でも何故か冷静になれた俺に麗月は話を続ける。


「こんな状況でよく冷静になれるな。死にかけてるんだぞ? もっと騒いだらどうなんだ? お前の命を繋いでいるのはボクだが、逆にお前の命を奪おうとしているのもボクなんだぞ。お前達を襲った男はお前と青崎の片目に呪いをかけた。人間ではどうすることも出来ない強力な呪いだ。今すぐボクと契約しなければ三分後、お前は必ず死ぬ。だから選べ、ボクと契約して寿命を延ばすか、このまま死んでいくかを」


 契約やら呪いやら訳の解らない単語が出てきたが、要するに目の前にいる麗月と契約しなければ俺は死んでしまうらしい。青崎と綾野川の無事を確認する為には他に道はない。というか、三分で死ぬってカップラーメンかよ。


「解ったよ。それでその何だっけ? 契約? っていうのはどうやってやるんだ?」

「お前が契約を了承する意志があれば出来るが、まだ契約の内容を言ってな―――」


 その時、聞き覚えのあるBGMが響き渡る。それに続いて放送が流れる。


『当遊園地はまもなく閉園で御座います。繰り返します。当遊園地は――』


 俺達が乗るボックス席が頂点に着いた瞬間、観覧車の回転が止まる。窓を覗くと先程までギラギラと眩しかった景色が少しずつ光を失っていく。


「おい麗月。一体どうなってる?」

「先刻も言ったろ、制限時間があるって、良いか? 十秒後にお前の意識が戻るから後は自分でなんとかしろよ」


 パズルのピースが散らばっていくように世界が崩壊していく。終いには俺が立つ足場さえも崩壊し、体が重力に引っ張られて落下する。そして地面に激突する寸前、また意識が飛んだ。




 ◆◇◆◇◆




 気付くと俺はベットの上だった。重い上半身を起こす。キョロキョロと辺りを見回すと、ここが病院だとゆうことが解った。


 不意に俺の机の上にある鏡に目がいく。メッセージが書いてある付箋が端に貼り付けられている。


 ―――おめでとう。これで自分をよく見てみると良い。


 俺は自分の右目を触る。厳重に包帯が巻かれているのか硬い感触があった。テープの繋ぎ目を指で探り当て、ゆっくりと包帯を取っていく。


 映ったのは失った筈の右側の視界だった。後遺症なんかが残っていたらどうしようかと思っていたが、安心して胸を撫で下ろす。だが、鏡に映る自分の右目の異常にすぐに気付いた。俺の右目は血のように真っ赤に染まっており、黒目の代わりに謎の紋様が浮かび上がっている。俺は自分の目に恐怖を覚えるが、同時に麗月が言っていたあの発言を思い出すと、少し冷静になれた。


 黒い紋様は時間が立つにつれて形を変えて、じわじわと目の周りの皮膚を侵食している。痛みはないがそこだけ水に浸かっているかのようにひんやりとした冷たさを感じる。


 その時、急にドアが開く音がした。俺はベットから体を起こしてそちらに視線を向ける。


「無事だったんだな。青崎」


 そこには身を案じていた青崎の姿があった。だが、どこかの様子がおかしい。いつも済ました顔で何かあればからかってくる青崎が、今はとても深刻な顔をしていた。無理もないか、流石の青崎もあの騒動の後で笑える筈がない。


 その時、俺は安堵していた。青崎が無事なら綾野川もきっと無事だと、自分で勝手に解釈していた。


「どうしたんだよザッキー。そんな暗い顔して、お前らしくないぜ? ああ、そうだ。綾野川は何処だ。凄いだろこの右目。あいつ見たらきっと――」

「綾野川の意識が戻らないんだよ!」


 今まで聞いたことのないような震えた声で青崎は叫んだ。その声で俺はようやく理解した。自分はどうしようもない奴だと。 親友の考えていることすら解らないどうしようもない奴だと。


 それから青崎は俺を綾野川がいる病室へ連れて行ってくれた。そこには、いつもの明るい笑顔を振り撒いていた綾野川が静かにベットで眠っていた。頭が真っ白になって、膝から崩れ落ちた。だってそうだろう、何も出来なかったんだ。俺は、俺達は守れなかったんだ。大切な親友を。


「悠真。寝ている間、変な奴と話さなかったか?」

「・・・ああ、話した」

「そいつが言ったんだよ。この呪いは俺達に呪いをかけた奴が死ななきゃ解けないって」

「・・・だから?」

「だから・・・」


 ふと、右目に痛みが走った。あまりの痛さに俺は顔を埋めると何かが風を切った。


「――――お前等、なに勝手に出歩いてんだ」


 目を合わせるだけで背筋が凍った。俺達の後ろにいる青年の目は其ほどの力があった。目力だけではない、周りにある空気が彼の一つ一つの僅かな動作で震える。


 風を切る音が耳元で聞こえたと思えば、いつの間にか青年の拳は俺と青崎の顔の間にあった。


「さっさと自分の部屋に戻れ、自分の立場解ってんのかア? お前等二人は呪滅軍が身柄を拘束してる。身の程をわきまえやがれ」

「ちょっ、誰ですか貴方。急に殴りかかってくるなんて」


 青年は青崎の言葉に過剰に反応し、青崎の方を見る。これは不味いと俺の体が訴えている。


「お前、先刻のといい。見えてんのか? 俺の拳がア!」


 何故か反射的に青年と青崎の間に割って入る。今度は完全に彼の拳を捉えた。だが、これは速過ぎ―――。


 放たれた拳が起動を変え、俺と青崎の首を掴むとそのまま壁に叩き付けられた。衝撃を流して受けてもかなりの衝撃を受けた。細い腕の何処からそんな力が出るのか、身動きが取れない。


「・・・お前等さア、ここ抜け出してどうするつもりだよ? 自慢じゃねえが俺達の網は広くて深い。大人しくここで処刑されるの待ってろよ」


 その二文字を聞いて、俺は動揺した。だが、どのみちこのままではいけないことは確かだ。


「・・・俺達が処刑されるってどういうことですか? 俺達、何もしてませんよ」

「俺だって好きでこんなことやってる訳じゃねえ、上に言われてんだよ。呪眼が開眼してるのを確認しだい殺せってよ。上に使われるのはムカつくが仕事はやらねえとな」


 青年の額に青筋が浮かんでいる。余程、上の者が嫌いなのだろう。だが、状況は変わっていない、このままでは呪いを解く前に理不尽に殺されてしまう。一体、どうすれば。


「あのジジイに聞いた。災難だったな。俺達がもっと早く来ていたら、お前等は呪いなんてかかってなかったかも知れない。本当にすまないと思ってる。安心しろ、あの千華とかいう女にかかった呪いは俺が必ず解く。まあ、こんなの言い訳にしか聞こえねえか・・・」


 呪い。今日で何回その言葉を聞いただろうか、たった一瞬で俺達の未来を奪った。皮肉にも俺と青崎はその呪いで生かされ、綾野川は眠ったままでいる。俺達はどうすれば良いのだろうか、このまま、全てを呪われたままで良いのだろうか。


 『いいや、良い筈がないだろう。呪われたのなら呪い返せ、お前にはその力がある』


 麗月の声が頭に届く。


 『お前には俺が力をやった。後はお前しだいだ悠真。呪え、それしかお前に道はない。さあ!』




 ◆◇◆◇◆




 呪眼。数ある呪術の中で最上位と言われている呪滅の眼。だが、長い歴史の中でも開眼に至った者は過去に数人。現在では作り話ではないかと噂される程、その存在は色褪せてしまっている。


 だからそんな筈がないのだ。有馬の目の前にいるこの二人の少年が呪眼の力。呪力の無効化を使えるなどあり得ないのだ。だが、そうでなければ説明がつかない。先程迄、二人を掴んで止めておく為に使った呪力が消えているのだ。加えて、少年達の抗う力がどんどん上がり、俺が彼等の首を掴んでいた腕が引き剥がされてしまった。しかもこれは――――。


「おいおい、これで素の力かよ」


 呪術で身体強化なしでこの力。二人合わせてとはいえ、称賛に値する。それにこの根性、死なせるにはとても惜しい人材だ。


「―――解った。解ったから放せ、降参だ」


 そう言ってやっと興奮から冷めたのか、二人は俺の手首を乱暴に放す。


「・・・そうまでして何故、お前等はその女を助けたいんだ?」


 二人は驚いたような顔をして、目を合わせる。そしてこう言った。


「「親友だからに決まってるだろ!!」」


 真っ直ぐな声だった。嘘と怨念の世界で生きてきた有馬にとって、それは貴重なものだった。


 こいつ等にかかっているのは最上級の呪い。この時代で解呪まで至る人間なんてまずいないだろう。でも、こいつ等は何か違うのかも知れない。


「なあ、お前―――」


 気が付くと二人は床に仰向けで倒れていた。まだ呪眼の性能に体が追い付いてないのだろう。起こそうとするが突如、素晴らしいアイデアが頭に浮かんだ。


「・・・ちょっと待てよ。このまま持ってったらあのジジイに・・・」




























































こんにちは、柊です。第三話 『絶望』が完成したので投稿させて頂きます。ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。感想、評価も書いて下さると励みになります。まだまだ未熟者なので読みにくい部分もあると思いますが温かい目で見守って下さると嬉しいです。

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