1話 絶望の渦
夕方、マンションの10階、握った鉄製の柵が冷たい。
こうして上から眺めていると嫌でも下校中の中学生が目に入る。なぜ彼ら彼女らはあんなにも元気そうに騒がしくにぎやかにとても楽しげにしていられるのだろう。全く正反対だな。これからに絶望してコレを決心した、僕と。
何が違ったんだろうか。
どこが分岐点だったのだろうか。
どうしていたら、あるいは何をしなかったら、ああなれたんだろうか。
僕にはきっとわからないし、もう終わるんだからをわざわざ深く考える必要なんてない。僕は無意味な思考を振り切って柵に足をかける。それから柵に座ってぼんやりと心が静かになるのを待つ。
まさか、こんなやつがいると思いもしない彼ら彼女らは僕を見つけることはない。そのはずなのにくるくる回る後輩の女の子と目があった気がしてせっかく落ち着いてきた胸がまた高鳴り始める。そんな体に僕は彼女とはもう終わっただろうが、と吐き捨てる。でも、身体は正直で結局彼女たちがすぎるまで僕は待っていた。
それで結局、誰も僕の視界に入らなくなってからようやく僕は翔んだ。その一瞬僕は何もかもから自由になれた気がして頭が真っ白になってその直後思い出が頭をよぎる。ああ、これが走馬灯というやつなんだな。僕は妙に冷静に思考する。ふと涙が流れる。駆け巡る思い出がその儚さと明るい感情を持って僕の心を刺したんだろう。
そうして、僕は死んだ。この絶望の渦から開放された。はずだった。