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勇者様がいっぱい!  作者: 真白
魔王様人間界に行く
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魔王誕生

翌日、大魔王長直属主席魔導秘書官アールベルトの執務室へ使者が訪れる。魔導秘書官とは、魔界における要職で、魔王の治める領地の管理や他の魔王との連絡調整、時には武力衝突の先陣を切るなど文武に長けていなければ務まらない仕事である。大魔王長直属ともなればその実力は、並みの魔王を凌駕するのである。


「告。大魔王長直属主席魔導秘書官アールベルト様。魔王議事堂第三会議室へ参られたし。これは大魔王長ベラル様並びに大魔王サエル様・ダガル様の連名による正式な召喚でございます。それでは失礼。」


使者からの言葉を聴き、アールベルトは悪い予感しかしなかった。しかし正式な召喚と言うのであれば従わないわけにはいかない。仕事の割り振りを手早く済ませ、会議室へ行く準備を整える。


「まったく、この忙しい時に他の大魔王様まで巻き込んで一体何を遊んでいるのやら。今日こそはきちんと大魔王長としての職務のなんたるかを説いて差し上げなければ。」


アールベルトは正装に着替えながら呟く。ベラルのみの召喚であれば、職務用の姿で構わないのだが、他の大魔王までいるとなれば話は別である。手早く身支度を済ませると会議室へ向かう。


********************


会議室前に着くと中からは只ならぬ威圧感を感じる。室内に居るのはどうやら先の三人だけではないようだ。そんな事を考えつつ、大扉をノックする。


「大魔王長直属主席魔導秘書官アールベルト、召喚に応じてただ今は参りました。」


中に入り恭しく一礼して顔を上げる。予想していたとはいえ、先に述べた三人に加え、四人の大魔王が鎮座していた事に若干の驚きを覚える。


(これだけの大魔王が揃うとはただ事ではないな。それ程の情報が私の元に入らない筈ないのだが・・・)


そんな事を考えながらアールベルトは促されるままに中央に用意された席に着く。こうした場では、召喚された者には基本発言権はない。許しがあるまで声を出す事は許されないのである。しかし、しばらくの沈黙が続くが誰も発言しない。用があるのは召喚主である三名のうち階級が一番高いベラルの筈である。ベラルをじっと見つめていると、普段とは違う主の様子が見て取れる。


(余程悪い事が起こったのだろう。ベラル様の事だ、他の大魔王様達に迷惑をかけて、その尻拭いをしろと言う命令かもしれないな。)


などとやや失礼な事を考えつつ、要件が切り出されるのを待つ。


「大魔王長直属主席魔導秘書官アールベルト。いや、魔王アベルよ。」


そう呼ばれたアールベルトは、背中に嫌な汗をかいていた。


(魔王アベル?今私の事をそう呼んだのか?)


魔界では三文字の名に特別な意味がある。それは魔王以上の階級を表すからである。驚きの表情を見せるアールベルトを見ながら満足そうな笑みを見せるベラル。


「本日より大魔王長直属主席魔導秘書官の任を解き魔王として人間界への出向を命ずる。目的は人間界への資源調査並びにその獲得と領地の治安維持。出発は今から二ヶ月後。引き継ぎを速やかにおこない、準備に取りかかれ。以上だ。」


ベラルからの話が終わり、他の大魔王達は席を立ち退室して行く。最後に残ったのはベラルとアールベルト改めアベルのみとなる。絵に描いたようなうんざりとした表情でアベルは問う。


「説明して頂けるのでしょうね、ベラル様。」


アベルの視線を真正面から受け止めつつ表情一つ変えずに沈黙しているベラル。しばらく見つめあった後、ふぅっとため息をついたアベル。


「魔王アベル。人間界への出向を承りました。」


一礼して退出する。

会議室を出ると一人の人物がアベルが出てくるのを待っていた。魔王ライズである。大魔王ダガル配下の魔王で、アベルとは旧交があっる人物である。


「アールベルト。いや魔王アベル。この度の魔王への昇格おめでとう。」


硬い表情のままライズは続ける。


「しかし、人間界への侵攻とは、ベラル様もとんでもない事を言い出したものだ。」


「何かお考えがあるようだが、全ては語られませんでした。それに侵攻と言うよりは、闇対策の物資獲得が中心で、武力行使の機会もあまり無い作戦ですから。」


アベルの言葉に頷くライズ。


「とは言え人間界に赴くのだ、何があるかは分からんからな。必要なものがあれば言ってくれ、可能な限り用意させる。」


ライズの言葉に頷くとアベルは足早に自分の執務室へと向かった。



********************


人間界への出向を任じられてから約一ヶ月半は引き継ぎや情報収集、出発準備に追われる中、魔王としての叙勲式典など公式の行事への参加、有力な魔王への挨拶回りなど様々な雑事に追われた。

魔王の中には、その実力を見てやると突然襲いかかってくる者もいて対処に苦労させられた。幸いアベルは並みの魔王よりは能力が高かったため、難なく退けることはできたのだが。


「お疲れが溜まっているようですね。アベル様」


アベルの秘書官を務めているヒルデガルダがそう尋ねる。


「あぁ。流石に少し疲れたな。だが人間界に行けばもっと忙しくなるだろう。お前には留守を任せる事になるから、こちらの方はよろしく頼む。」


二人がそんな些細な会話を楽しむ事が出来るのもあと少しである。

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