魔王会議
墨汁を零した様な艶のある闇の中、ロウソクの炎だけが揺らめいている。しかし、その光はまるで吸い込まれるかの様に闇に溶け、周囲を明るく照らすことはなかった。
円型の議場には長時間の会議に疲れた魔界の統治者たる魔王達が、さもウンザリと言う表情で終了の時を待ちわびていた。
「それでは、これにて予定していた議題は全て終了となります。」
今回の議長を務める魔王ブラフの発言に、その場にいた魔王達は気を緩める。
「他にこの場で話し合う議題はございませんか?」
議場が静まり返る。誰もが一刻も早く会議の終了を望み、領地への帰還を思い描く。
100年に一度、魔界の統治方針を決定する重要な会議。その日程は苛烈を極め、約1年間の日程で休みなしにおこなわれる。肉体的にも精神的にも頑強な魔王達であったが 、流石に疲労の色を隠せないのである。魔界の統治とは言うものの、ほとんどの魔王は全体の統治などどうでもよく、会議に参加しないと与えられるペナルティーを考え、仕方なく参加していると言うのが現状である。
「特にございませんようなので・・・」
と魔王ブラフが言いかけた所に、1人の魔王が立ち上がる。現大魔王長ベラルである。全魔王の頂点に君臨する10人の大魔王。さらにその代表を務める者こそ大魔王長ベラルなのである。
突然の大魔王長の動きに、緩み切っていた議場に緊張が走る。
「ベラル様、どうぞ。」
ブラフの促しに立ち上がり周囲を見渡し
「人間界への資源獲得並びに領地の治安維持の為、魔王派遣を提案する。」
大魔王長ベラルは重々しく言い放つ。
虚を突かれは魔王たちが何も言えず押し黙っていると、大魔王サエルが口を挟む。
「人間界への侵攻は400年前よりの禁忌。なぜ今再開を提案なさるのか?」
「一つは闇の問題である。現在魔界全土を覆うように闇が広がっておる。闇を抑え込む方法を探る為にも、人間界にある光を持ち帰る事は必要である。」
大魔王長ベラルは、そこまで言うと辺りを見回して皆に異論がない事を確認する。
「今一つは、過去に人間界に現れた勇者なる存在の事である。如何に人間が長命であろうとも400年もすればその力も薄れよう。過去に何度も手痛い思いをしてきたが、今度こそ失敗を過去のものにしようではないか。それに今回の作戦は武力侵攻による制圧ではない。その為の人選もすでに考えてある。」
その発言を聴き、議場にざわつきがはしる。
「武力侵攻ではないと申されますが、人間など力でねじ伏せれば良いのではないですか?」
「人間界の制圧ごときに何を弱気な!」
魔王たちは口々に大魔王長の言葉に異をとなえる。そんな中大魔王サエルが再び口を挟む。
「人選も済んでいると申されますが、その大役一体誰にやらせるおつもりですかな?」
その質問に場が静まり返る。過去の人間界侵攻を任された魔王達は、未だ誰もこの魔界に戻ってきてはいないのだ。人間界侵攻の任を任されると言うことは言わば死刑宣告にも近い意味合いがあった。
「その者の名は・・・」
大魔王長の言葉に全ての魔王達は息を飲んだ。