プロローグ
むかーし むかし
まおうが せめてきました
しかし ひとりのゆうしゃが
まおうとたたかい
まおうをたおしました
そのご ゆうしゃはおひめさまとけっこんし
5にんのこどもにかこまれ
しあわせにくらしましたとさ
おしまい
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「ブレア、そろそろご飯よ。絵本はそこまでにして用意をしてね。」
母親の優しい問いかけに
「うん」
と、笑顔で答えた少年は、絵本を閉じてテーブルに向かうのであった。
テーブルにはすでに父親と母親が座っていた。
食事を口に運びながら少年は母親に「僕も大きくなったら、勇者様みたいに魔王をやっつけに行くんだ!」と先ほど読んだ絵本の話をしている。
母親も、微笑みながらこたえる。
「貴方ならきっとなれるわ。貴方には勇者様の血が流れているんですもの。」
「しかし、いつになったら次の魔王は現れるんだろうな。」と父親は少し不満そうにしている。
こうしてこの世界の日常は穏やかに過ぎ去っていく。
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所変わって魔王議事堂第三会議室前大扉。長身の男が長く黒い髪をなびかせて颯爽と現れる。その双眸は右が黒、左は鮮やかな赤と言うオッドアイである。細身ではあるがある種の威圧感を持ち合わせたその男は、短く息を吐き大扉をノックする。
「大魔王長直属主席魔導秘書官アールベルト、召喚に応じてただ今は参りました。」
中に入り恭しく一礼して顔を上げる。室内には七人の大魔王が鎮座していた事に若干の驚きを覚える。
「大魔王長直属主席魔導秘書官アールベルト。いや、魔王アベルよ。」
そう呼ばれたアールベルトは、背中に嫌な汗をかいていた。
「本日より大魔王長直属主席魔導秘書官の任を解き魔王として人間界への出向を命ずる。目的は人間界への資源調査並びにその獲得と領地の治安維持。出発は今から二ヶ月後。引き継ぎを速やかにおこない、準備に取りかかれ。以上だ。」
突然の命令に驚きを隠せず、元上司となった大魔王を見つめるが、何も説明がない事を悟る。
「魔王アベル。人間界への出向を承りました。」
一礼して退出する。
これが魔王アベルの受難の日々の始まりであった。