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Vermillion Kings~紅き猛虎と黒き孤狼の英雄譚~  作者: 土田耕一
第1章 紅雌虎
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第1章 第8.5話「陣中」

途中で入れられなかった話です。短編だと思ってお付き合いください。

 ユベルノ騎士団団長キアンはミアに用件を伝え忘れたことを思い出した。レオンの配置である。軍議に出ていなかったので失念していたが、彼はかなりの腕利きだという。なれば、軍団の中にあって決定的な仕事をしてもらいたかった。キアンは自分でも不思議なことに、まだ見たこともない彼の力をミアの言葉だけで鵜呑みにしていた。キアンもひとかどの武人である。レオンを見ればある程度「使う」ことはわかるが、まさかここまで信頼してしまうとは思わなかった。そう思わせてしまうだけの不思議な魅力を、キアンはレオンに感じていた。


 キアンはミアの天幕の前まで来ると、見張りの騎士に告げた。


「殿下を呼んでくれ。相談したいことがある」


 見張りの騎士は「かしこまりました」というと、天幕の入り口近くでミアに呼びかけた。しかし、どうやら反応がなかったようで、殿下は既に就寝中の様子であると騎士はキアンに伝えてきた。キアンはいぶかしんだ。ミアが戦場で呼ばれても寝たままでいるなど、ついぞ覚えがないことであったからだ。キアンは見張りの騎士に全責任を自分が受けると言い渡し、ミアの天幕を覗き見ることにした。婦女の寝所を覗き見るなど、普段のキアンであるならば絶対にありえないことだが、今は有事である。天幕の中に人が起きている気配を感じないことを確認すると、キアンはそっと中を覗き見た。すると驚いたことに寝所には誰もいないではないか。キアンは動揺をおくびにも出さず、騎士に「貴殿の言う通り殿下はよく御眠りのようであった。さすがに起こすのは忍びない」と告げ、そっとその場を立ち去り、ロン爺の下へ向かった。


 ロン爺はキアンの報告を聞くと、スッと目を細めた。


「ほう。なるほど・・・実はシャルロットもどこにもおらんのじゃ・・・」


 ロン爺から告白されるとキアンは焦燥感を募らせた。


「まさか、シャルロット嬢まで・・・何事もなければよいのですが・・・」


 ロン爺はしばらく考え込んだ後、笑い始めた。

「いやいや、キアン殿。殿下に何かできるものなど、この世に数人とおるまい。それよりもじゃ、もしかしたら夜駆けの用意をした方がいいかもしれんぞ?」


 キアンは驚いてロン爺を見た。


「まさか、殿下は敵陣に? シャルロット嬢を連れて? 無茶な!? 早くお助けしなければ!!? 」


 今にも飛び出そうとするキアンの腕をロン爺はしかと掴み、にやりと笑った。


「まあ落ち着きなされ。王国の『不屈の盾』と呼ばれしそなたがこの程度のことで動揺するでない。それよりも敵陣に異変があればすぐに夜襲をしかける準備をしておく方が殿下の意に沿えるだろう。家臣として今我々が出来ることはその程度じゃよ」


 先王の御代より幾多の死線をくぐりぬけてきた、武将の言葉には重みがあった。キアンははっと気づかされ、己の浅慮を侘びて、夜襲の準備に取り掛かった。


 かくして数刻後、見張りの兵より敵陣の最奥にて騒ぎがあったことが告げられ、キアンとロン爺は先陣を切って己が主の下に馳せ参じるのであった。

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