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短編

先生との会話

作者: 佐々木尽左

「埋葬の方法が火葬に変わってしばらくは、薪を使っていたそうだ。火の加減がうまくいかないと生焼けになり大変だったらしい」

 直前の話題が一区切りついたところで、先生が新たな話を振ってくる。

「当時の記録は全てここの資料室にあるから見てみるといい。ご丁寧に詳細な絵図もあるからわかりやすいよ」

 内容は私の論文に対する助言だ。指導教員である先生はこうしてよく世話を焼いてくれるので助かる。

「生々しい様子を簡単に想像できてしまうのは困りものだが」

「だったらせめて食事中にしないでくださいよ」

 今は昼時で校内の食堂で先生と向かい合っている。先生も私も秋刀魚定食だ。脂が乗っている上にしっかりと焼かれていておいしい。

 のだが、自分の論文に関する話をされたせいで食欲がいささか減退してしまった。

「なぜかね? 君の論文の話と食事に関連性はないだろう?」

「いや確かにそうなんですけどね。食欲には少し関係するじゃないですか」

「私は平気だが」

「私はまだその境地に至っていませんから」

 面倒見の良い先生ではあるのだが、いかんせん周りの空気をなかなか読んでくれない。そのせいで教授会でも浮いた存在だと別の先生から聞いたことがある。

「ふむ、そうか。携わる分野にもよるが、学者になるのならば感情的にも仕事と食欲は切り離せるようになっておいた方がいい」

 学者に限った話ではないのだろうけど、今の私にはまだ難しいことだ。

「それで遺体の破損状況に関する点なのだが」

「だから先生、せめて食事が終わってからにしてくださいってば」

「ああ、そうだったな。では、研究室に戻ってからにしよう」

 途中で話を遮られても、特に気にした様子のない先生はあっさりと私の提案を受け入れてくれた。空気を読めない先生ではあるものの、人の提案をおとなしく受け入れてくれるところは良い。

「ところで、君は酒が飲めるかね?」

「まぁ、多少は」

 話題が再び変わった。今度は食事時にふさわしそうなので内心安堵する。

「この時季だと秋刀魚がうまいが、私なら日本酒がほしくなる。君はどうかね?」

「私の場合ですとビールですね」

「ビール、ビールかぁ。悪くないんだが、私だとこの場合なら熱燗だね。冷えた体も温まるからこの時季だと最適だよ」

 なるほど、聞いていると確かにそう思えてくる。最近になってビールを温めて飲むことがあると聞いたことがあるが、私はまだ試したことがない。

「熱燗ですか。飲んだことないですね」

「なんと、それはいけない。一度は試してみるべきだよ。君は日本酒だと辛口と甘口、どちらの方が好きかね?」

 突然日本酒の好みを聞かれて少し考える。私はビール派なので日本酒はほとんど飲まないのだが、さてどちらの方が口に合っていただろうか。

「強いて言えば、甘口でしょうか」

「甘口か。そうか。なら近いうちに家から持ってくるとしよう」

「研究室で何をするつもりなんですか?」

「君に飲み比べをしてもらうのだが?」

 さも当然のように問い返されて二の句が継げない。

 そういえば、研究室におちょこと徳利があったのを見たことがある。もしかしたら、本当に使っていたのかもしれない。

「そんなことをしてもいいんですか?」

「最近は次第に堅苦しくなってきたのだったな。確か」

「研究室が閉鎖になるようなことは避けてくださいよ」

 せめて私が卒業するまでは、という言葉はさすがに口にしない。

「まぁ、気をつけるよ。ところで、君は牛肉は好きかね?」

 話題が再び変わった。

 こうして先生といつものやりとりが続く。この先生は小さな引き出しが多いので話題が尽きない。

 今日も食事中ずっと話が続いた。

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