009話 梃入れ
永禄十三年(1570年)四月 【越後国 春日山城 三の丸】にて
上杉景虎を名乗り、清姫を娶った俺は春日山城内の三の丸にある屋敷を与えられ、そこで暮らしている。
領地は与えられていない。
一定の俸禄を与えられている。俺の直臣の分も含めて。
江戸時代の下級武士の「蔵米取り」みたいなものだ。領地は無しで俸禄を与えられている。
ちなみに上級武士は「知行取り」と言って領地を与えられそこから年貢を徴収し、それが収入となる。
まぁ養子だからね。仕方が無い。
現代まで現存している文書に天正三年(1575年)の「上杉家軍役帳」というのがあって上杉家の動員兵力がある程度わかる。ただし春日山城から遠く離れた地域に領地を持つ者は載っていない。
この軍役帳には景虎の名前も載っていない。
その軍役帳を元に景虎が謙信の後継者だから軍役を免除されていたという説もあるが、それは考えすぎじゃないかな。
ただ単に北条から来た養子で領地が与えられていなかったから軍役も無かっただけだよ。
少なくともこの歴史ではそうだ。
故に俺独自の兵力は北条家から一緒に来た付家老の遠山康光と御家人の若侍が三人。それに上杉家から付けられた御家人の若侍が四人の8人しかいない。
上杉家から付けられたのは監視役も兼ねているんだろうなぁきっと。
若い者が多いから喧嘩なんかしないで仲良くやってくれればいいけど。
まぁその辺は付家老にお任せだ。
しっかし、領地が無い、城も無い、直卒の軍勢も無い、金も無いというのは困ったものだ。
親から小遣い貰ってる子供と変わらんねこりゃ。
軍神様の養子という立場だけでは後に起こるかもしれない「御館の乱」において史実の二の舞になる可能性が高い。
俺は史実を知っているから、だいじょうぶー、上手く立ち回るよー、何て油断していたら史実よりもっと悪くなったりして。えてしてそういうものだよ人生は。大抵の場合、望まない方向に転がるものさ。
実際にそうなっちゃったら「景虎終了」だね。
また親子三人墓もない、大して有名でもないマイナー武将として終わっちゃう人生だよ。
いやぁそれは避けたい。
そんな悲惨な人生なんざ一度だけで充分だろう。
そうならない為にはやらなきゃならない事がある。
それは、それは、テコ入れだぁーーーー
テレビ番組で視聴率が落ちたり、スタートで失敗した番組の人気を盛り返すために、色々テコ入れをするように、景虎の人生にもテコ入れをするのだぁ!
よしっ! まずは名前からだね。
景虎Xとか景虎ZZとか景虎Wとかにして、合体変形できるようにするとか、いや、いや、いや、何を言っているんだ俺は。それじゃどっかのロボット・アニメだろう。
銀◯の第50話じゃないんだから。
真面目にいこう。真面目に。
ちょっと新婚気分で浮かれすぎてる。頭がお花畑になっている。
クールだ。クールになるんだ俺、景虎!
拳は熱く心は冷静に、だ。
ともかく上杉家での立場をもっと強化する事だ。
よしっ! その為には、まず、腹ごしらえだ!!
腹が減っては戦は出来ぬってね。
まずは狩りに行こう!!
【つづく】