008話 悪代官になりました
永禄十三年(1570年)五月 【越後国 春日山城】にて
「お、おやめください。殿。……景虎様」
娘が怯えた表情をしていた。
「くっくっくっ。よいではないか、よいではないか」
その娘の両手をとって、その綺麗な手の甲をナデナデと撫で回す。
「そ、そんなご無体な」
娘は怯えと羞恥の混じった顔を下に向けた。
「愛いやつじゃ。よいではないか、よいではないか」
そんな娘の態度に構わず、手を肩へと置き更にその背に回って素早く帯を解き、そして一気に帯を引っ張っる!
「お、お止め下さい殿、あーーれーー」
帯を引っ張ると娘は声を上げ、両手を上に上げながらクルクルと回り始めた。
娘の表情はいつの間にか楽し気なものに変わっている。
声も怯えの色が消え楽しさが含まれているものに変わっていた。
「よいぞ、よいぞぉーーーーこれはいいものだ!」
「あぁーーれぇーーーーー」
帯をどんどん引っ張り、娘は更にクルクル回る。
そして帯が全部解けたところで娘は布団の上に転がった。
これぞ遥かな未来に伝わる伝説の秘技「帯回し」!!
時代劇テレビドラマで悪のお代官様や悪の殿様が無辜の娘にふるう理不尽な大技!
あぁこの時代に生まれて来て良かった。
もう何も思い残す事は無い……
……いや、いや、いや、そんなわけあるかぁ!
と、まぁ、そんなわけで娶った嫁さん相手に「帯回し」をして夫婦の絆を強めていました。
そんなわけあるかぁ! とお思いのあなた。
百聞は一見に如かず、というか、うちの嫁さんはノリのいいできた嫁さんなもので、お馬鹿な旦那の要求にもにこやかに応えてくれるのですよ。
いやぁいい嫁さんもらえて良かった。
そういうわけで、既に軍神様との養子縁組の儀と、軍神様の姪御さんとの祝言はすませました。
どちらの儀式も、もう俺の記憶にはありませんがね。
肩の凝るめんどい儀式なんて記憶から削除ですよ。削除。
ちなみに嫁さんの名前は清姫と言います。
現代には嫁さんの名前は伝わっていません。ただ、法名から来た名が華渓院、または清円院と何故か二つ伝わっています。
NH◯の直江兼続を主人公とした大河ドラマでは華渓院からとって華姫となっていたけど、この歴史で見ると清円院の方が正しかったようですな。
まぁ何はともあれ祝言以来、夫婦仲良く暮らしています。めでたし。めでたし。
【「流れゆく昏き虎」 完
短い間でしたが、ご拝読有り難うございました
作者の次回作にご期待しないで下さい】
そんなわけあるかぁ!
誰だ勝手に終わらせてるのは!
そんなわけで、終わらないからね。
まだまだ続くからね。
景虎の戦いはこれからだ! だからね。
【つづく】