007話 精霊飛蝗になりました
【筆者からの一言】
このファンタジー全盛の世の中。
時代劇とは言え精霊を無視はできませぬ。
これは、そんなお話……嘘です。ごめんなさい(´ー`)エヘヘ
永禄十三年(1570年)四月 【越後国 春日山城】にて
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
うがぁーーーーーーーーーーーーーっ!
どこかの人気アニメのエンドレス何とかですか!
8週連続殆どおんなじ内容放送しちゃった問題作ですか!
と、言いたくなるような日々を過ごしている今日この頃。
いやね、春日山城に来てから挨拶漬けの日々なのですよ。
正式な養子縁組の儀式はこれからなんだけど。
その前に家臣達への顔見せというか、まぁご挨拶をしています。
身分の低い家臣達は纏めて挨拶して終わりなので楽だけど、流石に上杉一門の方々や重臣や有力国人領主達にはそうもいきません。
一応皆さんが集まってご対面の儀式とやらをして挨拶はしたのだけれど、後で改めて一人一人丁寧に挨拶に回っています。
特に上杉家の方々には一族に加えていただくわけですしね。
一応、軍神様の養子にはなるけれど、とっても微妙な立場だから礼儀はつくしておかないと。
こういう世界の仁義、所謂、他の人に対して欠く事のできない礼儀上の務めってやつは、あだや疎かにはできんのですよ。
仁義なんて言葉を使うとまるでヤクザだけど、まぁ戦国武将もヤクザもそれほど変わらないしね。
親分(大名)がいて、舎弟(家臣)がいて、シマ(領地)があって、民からミカジメ料(年貢)をとって、仁義と面子を大事にする。そして周辺の組(他国)と勢力争い(戦争)している。
ほらっそっくり。
戦国大名て言ったって所詮は荘園の横領から始まり勝てば官軍、力が正義で朝廷に認めさせたってだけだしね。
まぁそんな話はともかく、もう頭を下げまくって気分は米つきバッタ(精霊飛蝗)ですがな。
壊れたレコードですがな。レコードわかるよね?
ともかく、ひたすらペコペコして挨拶して頭を下げまくってますがな。
あぁもううんざり。
越後の海に磯釣りに行かせろーーーーーーー!!
この季節の越後ならクロダイ、メジナ、コノシロ、モクガレイが狙い目ってとこだろう。
好物なお魚ばかりだぜ。
だから今行かせろ!
冬の釣りは厳しいから今行かせろ!
と思っても行けるわけもなく、今日も挨拶挨拶で過ぎていく。
挨拶と言えば、当然あの方にもしましたよ。
前関東管領にして軍神様の義父、上杉憲政様にも。今は光徹と名乗っているらしい。
軍神様が養子になっているわけだから、そうすると一応、俺の義理の祖父にもなるのかな。
まぁ俺の実父、北条氏康に関東から追い出された人だから厳しい言葉の十や二十も覚悟していたのだけど、全くそんな事はなかった。
それどころか、なんか全く覇気が無い。
47歳らしいけど、もっと齢を重ねているように見える。
負け戦の連続で苦労したからだろうね。嫡男も幼くして北条に殺されてるし。
もう世俗の事には関わらずのんびりと暮らしています。そっちはそっちで勝手におやりなさいみたいな雰囲気がありありとでていたよ。
隠居しているというしね。
できればこのまま静かに暮らさせてあげたいものだよ。
挨拶と言えば、もう一人。
こちらの方が問題だ。史実において俺を殺す事になる義理の兄、景勝殿。
今はまだ、長尾顕景という名だ。
この景勝殿への挨拶には参った。
何も喋ってくれない。
「北条三郎にございます。今後、宜しく御引き回しのほどお願い申し上げます」
「……」
「顕景様は口下手にてよしなにと仰っておられます」
口を挿んで来たのは顕景お付きの小姓、与六なる者。恐らく後の直江兼続だろう。
「越後の事は何も知らぬ未熟者ゆえ、ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、その時は何とぞ平にご容赦を」
「……」
「顕景様は口下手にてよしなにと仰っておられます」
「義兄とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「……」
「顕景様は口下手にてよしなにと仰っておられます」
「義兄には武略や越後の事について教わりたいと思っております」
「……」
「顕景様は口下手にてよしなにと仰っておられます」
「今日は良い天気でございますな」
「……」
「顕景様は口下手にてよし……良い天気だと仰っておられます」
ぷっ。引っかかった。まだまだだね。兼続くん。
しかし、後世に伝わっている話は本当だった。
景勝君無口過ぎ。
針小棒大とか大袈裟に話しが伝わっているのかと思いきや本当に喋らない。
こりゃ難物だ。
できれば今回の歴史では「御館の乱」何ぞ起こさずに平和裡に事をおさめたいのだけど、どうなるかなぁ。
【つづく】