004話 さぁ見せてもらおうか、軍神と呼ばれる男の御尊顔とやらを!!
永禄十三年(1570年)四月 【上野国 沼田城】にて
今の俺こと北条三郎は沼田城内を案内されてテクテク歩いている。
上杉謙信とその配下の武将達のいる大広間に向かっているのだ。
そして大広間近くにやって来た。
もうすぐ上杉謙信に会える。
と、そこで感じた。な、なんだこのプレッシャーは!
こんなプレッシャーを放つ者がこの世にいるのか!!
……なんて事はない。複数人の気配があるだけだ。
さて、いよいよご対面だ。
伊勢式の武家作法に則り一礼して大広間に入ると少々身を屈め顔を下げつつ中央下座まで進む。
そこで袴の裾を払って正座し、両手をついて平伏した。
後北条家は伊勢家の血筋。故に伊勢式の作法が伝わっている。
あぁめんどくさい。肩凝るわぁ。
北条家から俺の付家老として一緒に上杉家に来た遠山康光も右斜め後ろで同じように平伏している。
さて挨拶だ。
「北条三郎にございます」
と神妙に聞こえるだろ声音で名乗りをあげる。
一拍の間をおいて応えがあった。
「上杉輝虎である。面を上げられよ」
「はっ」
と応えて、ほんの心持ち顔をあげる。それが伊勢式とやらの作法らしい。
さぁ見せてもおうか!! 軍神と呼ばれし男の御尊顔とやらを!!
ホウジョウサブロウハミタ
に、煮てねえぇーーーーーーーーー
あっ違った。似てねぇーーーーーーーー
何が似てないって現代に伝わっている肖像画ですがな。
幾つか見た事があるけど、どれとも似とらんですな。
まぁ無理もないか。現代に伝わっている上杉謙信の肖像画は後世に描かれたものらしいしね。
それにしても、丸顔のムサイおっさん。
それが上杉謙信だったよ。
女性でもなかったよ。
いや、ほら上杉謙信には女性だっていう説があるからね。ちょっぴり期待していたのだけど。
ガックリ来た。
それに上杉謙信から特別なものは何も感じない。
小説やコミックなんかで上杉謙信は纏う空気が違うとか、凄い気を放っているとかってよくあるけど、そんな事は全然なかった。
まぁ当然かな。
そんなに普通の人と違うというのなら史実で部下があんなに裏切るわけがない。
本庄繁長、黒田秀忠、大熊朝秀、北条高広といった有力武将が反旗を翻しているんだ。
まぁ裏切った武将達の気持ちもわかる。
人には欲望があるからね。
金が欲しい。
女が欲しい。
領地が欲しい。
それが普通の男だよ。
命を賭けるからにはその代償は欲しいってものさ。
それが戦う男というものだよ。
ところが上杉謙信は義のために戦っていたからね。
自己の欲望や野心で戦ってはいない。
だから手伝い戦がやたらと多い。
当然領土は増えやしない。
義の為に戦うというのは、それはそれで尊敬できる部分はあるけれど、毎回そんな戦いばかりではたまらない。
俺なら御免蒙るね。
まぁ上杉謙信も晩年は領土も拡大していたようだけどね。遅すぎだよ。
部下としては、いくら命懸けで戦っても戦っても加増がないんじゃやってられんよ。
有力武将が裏切るのも当たり前だね。
ちょっと目の前にいるこの人の欲望というものを理解していない軍神様の上杉謙信を小一時間ほど説教してやりたくなってきた。
【つづく】