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002話 北条家はもう俺のいたい場所じゃないんだ……

永禄十三年(1570年)四月 【とある街道にて】その二


いつまでも、きついわ、やってられんわと、やさぐれて愚痴っていても始まらない。

気を取り直してと。


馬の背に揺られながらつらつら考える。


北条三郎、後の上杉景虎か……


基本的には現代日本ではマイナーな武将だよね。知らない人の方が多いんじゃないかな。

一応、NH◯の大河ドラマで直江兼続が主人公だった作品では脇役でかなり出番が多かったけど。


ただし、かなり昔から、ある特定の嗜好を持つ女性には有名っちゃ有名なんだよね。

600万部以上売れた某文庫のベストセラーBL小説に出てくる主人公が景虎の転生でね。いや、正確には転生じゃないけど似たようなもんだ。


まぁそんな話はともかく、上杉家に人質として送られた北条三郎は上杉謙信の養子となって上杉景虎と名乗り、更には謙信の姪を娶るんだよね。


だが、しかし、厄介な事に数年後には北条と上杉の同盟は脆くも崩れ去る事になる。

ここで景虎はどうなったかというと、同盟は消滅したが北条家には戻らずそのまま上杉家に残った。


北条家に戻らなかった事については諸説あるけど、まぁ帰ったって、またろくでもない扱いを受ける事も充分に考えられるから、帰らなくても不思議じゃないよ。

それに、それまでの扱いから景虎が北条家を恨んでいたって驚かないしね。


まぁそれはともかく、それから更に数年後、上杉謙信が病死する。

ここで謙信のもう一人の養子、景勝と景虎との間で家督を争う戦い「御館の乱」が起こり上杉家は内乱となるなんだよね。


「御館の乱」か……

この乱では驚いた事に景虎に味方する上杉家の武将が続出したんだよ。


北条と上杉は七年間同盟していたとはいえ満足できるどころか不満が高じるような関係だったから手切れとなったわけで。それ以前は17年も戦っていたわけで……

いくら謙信の姪を娶り養子だとはいえ、北条氏康の実子に味方するとはこれ如何に。


しかも、景虎に味方した者の中には上杉憲政もいたんだから更に驚きだ。

上杉憲政と言えば北条氏康に戦い敗れ越後に落ち延び謙信を養子にして関東管領職を譲った人だよ。

越後にいる人間で一番、北条を憎んでいると言ってもいいかもしれない人だよ。

そんな人が自分を関東から追い出した憎き敵、北条氏康の実子である景虎に味方するんだから驚くよ。


景勝によっぽど人望が無かったのか、それとも景虎に人望があったのか……


景虎の境遇から考えれば、景虎は北条家には面従腹背で実家に隔意がある事を上杉家の者は知ったのかもしれない。

そして上杉家での生き様から、信用に足る男として認められ、また、武将としてそこそこできる男との評価を得ていたのかもしれない。


逆に景勝は後世に伝わる通り、気難しくて近寄りがたく、性格に難有りで一部の者にしか受け入れられないような男だったのかもしれない。

陰湿だったのかも。


何せ景虎とその嫁さんと子供達の墓は越後にも、その後に上杉家が転封となった米沢にも無い。どこにもない。

景虎はまぁ敵対したからわからなくもないが、景虎の嫁さんは景勝の実妹だぞ。子供達だって甥じやないか。


景虎の供養碑は現代では新潟県新井市の勝福寺にあるけど、それは2002年に建てられた物だしね。


ちなみに同じく御館の乱で景勝に敵対し亡くなった上杉憲政の墓は現代では米沢にある。

流石に上杉の家名を譲ってもらった上杉憲政の墓は作らざるをえなかったというところだろうか。

しかし、実妹や甥達の墓も作らないとは性格悪すぎだろう。陰湿過ぎないか。


徳川も豊臣家を滅ぼした直後には秀吉を祀る豊国神社を廃絶するわ、豊国大明神の神号を剥奪するわで、墓も無い状態においやったが、半年後には豊臣家に縁の深い方広寺内に墓を許したぞ。


それに比べ景勝は、墓も作らない作らせないとは……


そういえば御館の乱が終わった後の論功行賞でも景勝の差配に問題があって配下の武将達が揉めていた話もあったな。


御館の乱以前も景勝はその難有りな性格を上杉家の者に見せていたからこそ景虎を支持する者が多かったのかも……


さて、そんな景虎になる三郎になったわけだけど、どうするかなぁー

これまでは、三郎が赤ん坊の頃から背後霊のような存在で何もできず見守るだけだった。

それが、上杉家に養子に行くように言われる三日前に突如、俺の意識が景虎の意識を吸収する形で統合されたんだよね。


だから、俺はこれまでの歴史に影響を与える事は何もしていない。

ともかく史実の景虎と同じように「御館の乱」で死ぬのだけは御免蒙る。

だからと言って実家の北条家は、もう俺のいたい場所ではないよ。

どうするかなぁ……


おっ城が見えて来た。あれが上野国での上杉家の拠点、沼田城か。

あの城で上杉謙信が待っているそうだが……


【つづく】

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