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怪談集  作者: 武内 修司
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鏡・Ⅰ

あるオフィスビルの女子トイレ。そこには出る、という噂がありました。その階にある会社で、OLが徹夜作業中に用を足したくなりました…

 鏡 Ⅰ

 あるオフィスビルのその階にある女子トイレは、よく出る、という噂がありました。夜中、誰もいない筈なのに中から物音が聞こえたり、といった経験をした警備員が何人もいました。念のため中を確認してみても、誰もいないのです。

 その日、その階に入っていた会社では、夜遅くまで何人かの社員が残っていました。そのうちの、唯一の女性社員が用足しに行きたくなりました。夜遅くの女子トイレはまずい、というのは知っていたので、いつもならば他の階のを使用するのですが、その日はその階以外にはもう人がおらず、警報システムの関係上、移動する事も出来ません。そう警備員が知らせてくれました。一階の警備員室のを貸してもらう事も考えましたが、大の大人がお化けが怖くて、などと理由を言うのも恥ずかしく、第一もちそうにありません。

 急ぎ足で個室に入り、下着を下ろすのももどかしく洋式便器に腰掛け、人心地つきました。と、女子トイレのドアが開かれる音がしました。足音が、入ってきます。会社に残っている女子は彼女だけなので、最初は警備員の巡回かと思いました。足音は、一番ドアに近い彼女の入っている個室の前を通り過ぎ、奥へとゆっくり歩いて行きます。おや、と思いました。警備員は、ドアが閉まっていれば一声掛けてゆきます。大体、足音はハイヒールか何かの様です。警備員が履いている筈はありません。

 窓が開けられる音がします。何をしているのでしょうか?身なりを整え、個室を出、トイレ内を一望します…誰もいません。個室のドアは全て開かれており、一通り確認しても、やはり、誰もいません。まさか、と、開放された窓から下を見ます。常夜灯に照らされた駐車場には、特に異変はありません。白線で仕切られた乾いたアスファルトが、ぼんやりと闇に浮かんでいます。外壁には手掛かりになる様な物は何も無く、どこかにぶら下がっているとも考えられません。

 わけが判らぬまま、ひとまず窓を閉じ、洗面台へと向かいました。急いで手を洗っていると、またトイレのドアが開きました。そちらへ視線をやりますが、開いたドアの向こうには誰もいません。とにかく、これは非常にまずいと、洗面台に向き直った時です。

 鏡に、女性が映っていました。彼女の背後、見知らぬ、血まみれの女性が、鏡越しに彼女を睨み付けています。振り向いてはいけない、と思いながらも、彼女はゆっくりと振り向きました。誰もいません。

 トイレを飛び出したOLは、オフィスに戻っても半狂乱状態で、上司の判断でタクシーで帰宅させました。

 そのまま彼女は退職しました。

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