表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪談集  作者: 武内 修司
5/23

夢幻の人

ある持病のある中学生が、発作を起こし昏倒しました。気が付くと一面の野原で、見知らぬ女の子が近付いて来ました…

 夢幻の人

 その中学生には、生まれながらの持病がありました。感情が昂ぶると、時折発作が起きて倒れてしまうのです。

 ある時、彼女は母と口論をしました。母子家庭であり、決して裕福とはいえません。その事はよく判っている筈ではあっても、時折我侭を言ってしまうもので、それも決して大それたものではなかったのですが。口論が昂じて、彼女は発作を起こしてしまったのでした。急速に意識が遠のいてゆきます。自分はこのまま死ぬのか、そんな考えが頭を過ります。

 一面の野原でした。光に溢れ、しかし現実味の無い光景でした。周囲を暫く見回していると、遠く、誰か、自分の名を呼ぶ者があります。そちらへ目をやれば、自分の方へと向かってくる人影があります。それも物凄い速度であるのか、見る間にその姿が大きくなってゆきます。やがて目の前で立ち止まったその姿は、小学校入学前くらいの少女のそれでした。にっこりと笑っていますが、見覚えがありません。少女は名を呼びながら、手招きしてきます。その声が耳に心地よく、ふらふらとそちらへと歩き出そうとした時です。また別の声が、名前を呼ばわりました。どうやら、母の声です。二つの声が、綱引きでもする様に彼女の名を呼ばわり続けます。やがて、母の声が強くなり、それに合わせて視界がぼやけてきました。少女は少し寂しげに微笑んでいました。暗転します。目を開いたとき、最初に見えたのは、母の涙顔でした。彼女を抱きしめる母に、その時は少女の事を話す事は出来ませんでした。

 数日後、担ぎ込まれた病院を退院し、家でゆっくりしているとき、彼女は発作が起きた時に見た夢について語り、自分の見た少女に心当たりが無いか尋ねてみました。その特徴を詳しく聞いていた母は、やがて泣き崩れてしまいました。一心地つくと、ポツリポツリ語り出しました。

 離婚した夫の前に、結婚を前提におつきあいしていた男性が居たそうです。懐妊し、結婚を目前にしていたある日、男性は失踪してしまいました。多額の借金を抱えていたそうです。それでも母は子供を産み、働きながら育てました。しかし、ある日交通事故で亡くなってしまったそうです。母がほんの僅か目を離した隙の出来事でした。恐らく、その子でしょう、という事でした。再婚し、彼女を出産するかなり前の事で、もちろん会った事などありません。なぜ夢に出てきたのか、全く判りません。あるいは自分を迎えに来たのかと、彼女は思いました。確かにその時、彼女は心肺停止状態だったのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ