表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪談集  作者: 武内 修司
17/23

踏切

住宅街の中の小さな駅に、中年のサラリーマンが降り立ちました。ほろ酔い加減で家路を辿り始めました。すると、駅すぐ横の踏切が、作動し始めました。上り下りとも、既に終わっている筈なのですが。驚いて振り返ると、踏切の中に、人影がありました…

 踏切

 住宅街の中の、小さな駅でした。改札口は一つ、反対側へ渡るには、改札を出、駅すぐ横の踏切を利用するのが普通でした。

 中年のサラリーマンが、心地よく酔いながら駅に降り立ちました。改札を出、遮断棒の上がっている踏切を渡りました。彼が乗って来たのが終電で、始発到着まで踏切が閉じる事はない筈です。時刻が時刻ですから、左右に立ち並ぶ家々には窓明かりも殆ど無く、通りかかる車も殆どありません。千鳥足という程ではありませんが、ゆらゆらとサラリーマンは家路を歩いていました。

 数十メートルと歩いてはいなかった筈です。突然、背後でけたたましい音が鳴り出したのです。驚いて、サラリーマンは振り返りました。踏切の遮断棒が下りています。ありえない筈の光景でした。まだまだ始発は先なのですから。

 遮断棒の向こう、誰か立っているのが見えました。女性です。まだ若い様に見えました。電車の音が近付いて来ます。女性が動きました。遮断棒を潜ります。思考停止していたサラリーマンは、ただ見守るばかりでした。そのまま渡るかと思われた女性は、線路の上で立ち止まりました。電車の先頭が住宅の向こうから姿を現しました。速度を落とす気配はありません。駅は目の前なのに、です。大体、線路の上に人が立っているというのに。女性は微動だにせず、立ち尽くしています。

 いよいよ接触する、その直前、男はとっさに顔を伏せました。人身事故の瞬間なぞ見たら、生涯悪夢にうなされる事になりかねません。

 音が消えました。一瞬のうちに、静まり返った夜の住宅街に戻っています。恐る恐る、顔を踏切の方へ向けました。遮断棒は上がっています。緊急停車している筈の、電車の姿はありません。慌しくしている筈の駅員の姿も、大体、人身事故の痕跡がありません。躊躇した後、サラリーマンは踏切に近付いて行きました。線路の周辺には、人体はおろか血痕一つ見当たりません。プラットフォームの明かりも消えています。やはり電車が来る様な状態ではありません。首を捻りながら、踵を返すしかないサラリーマンでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ