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怪談集  作者: 武内 修司
14/23

森の中・ⅡーⅠ

ある女性の失踪後、警察の訪問を受けた男性が、その数ヶ月後失踪しました。男性は失踪した女性を殺害し、森の中に埋めた筈なのですが、その女性につきまとわれていたのです。男性は埋葬した事を確認する為に、森の中へと足を踏み込みました…。

語り部のない怪談です。森の中・ⅡーⅡと対になっています。

 森の中 Ⅱ-Ⅰ

 森閑とした森の中、地面を掘る音がしていました。まだ若い男が、一心不乱にスコップを振るっています。その横には、何重にもゴミ袋で覆われた何かが、横たわっています。大きさは、そう、小柄の成人男性ほどでしょうか。

 一時間以上を掛けて、結構な深さ、大きさの穴を掘り終えた男は、大儀そうにゴミ袋に包まれた物を持ち上げ、穴の中に投げ落としました。穴に収まるよう少し位置を直すと、今度は土を掛け直します。

 掛け終えた土の上を何度もスコップで叩き、適当に周辺の木の枝や落ち葉などを掛けてゆきます。これで一通り、作業は終わりです。車のところまで戻り、車中で一息つきます。止め処も無く流れる汗を拭い、心臓の鼓動が収まるのを待ちます。自分がしでかした事の重大さに潰されそうになる心を奮い立たせ、男はその場を後にしました。

 何日かのち、男は警察官の訪問を受けました。失踪人の捜索だそうです。彼も顔見知りの女性が、数日前から行方不明だそうです。男は、仕事上のみの付き合いでよく判らない、と答えました。あっさりと警察官は引き上げました。

 更に何日かのち、男は久々に少し足を伸ばし、デートを兼ねて恋人と買い物に出掛けました。買い物を済ませ食事をする店を探していると、雑踏の中に見知った顔を見掛けました。彼にとってはありえない顔が。女性が、彼の方を睨んで立っています。行方不明になったという女性です。彼の血相が変わりました。女性は人込みに紛れる様にして消えてゆきます。それを追う様に、男は恋人を置いて走り出しました。しかし、間もなく見失ってしまいました。きっと見間違いだ、そう男は思い込む様に努め、恋人に適当に言い訳しそそくさと帰路に着きました。

 その翌日から、彼の前に女性は何度も現れました。出退勤の道すがら、買い物の途中、その他彼の出歩くところ必ずといってよいほど先々に現れます。男はノイローゼ一歩手前といった状態になりました。恋人との連絡も絶ち、欠勤がちになりました。遂に彼はある決意を固め、車に乗り込みました。車中は森から帰ってきた時のままです。スコップも積んであります。

 森に着き、スコップを片手に頼りない記憶を辿りつつ目的地へと着きました。穴を掘った場所は、掘り返された様子もありません。しかし、念のためと、男はスコップを構え、掘り返し始めました。やがて、ゴミ袋が見えてきます。完全に土を払い除けてしまうと、埋めた時のまま、横たわっています。狂った様に、男はゴミ袋を破り始めました。耐え難い腐敗臭がします。大きく裂けた部分から、腐敗した肉塊が覗きました。黒い髪も覗いています。思わず、男は仰け反りました。と、背後に人の気配がしました。誰も居ない筈の、森の中です。腕が伸び、背後から彼を抱きすくめました。細い腕でした。指には、見覚えのある指輪が光っています。彼が贈った、安物の指輪です。回収した筈なのですが…もはや男は一歩も動けませんでした。指一本、動かせません。ただ、声だけは出せるのが、せめてもの救いだったでしょうか。

 森に、小さく男の悲鳴がこだましました。後日、森の中を通る道の傍らに停められた彼の車が発見されましたが彼の姿は無く、以後彼の消息を知る者はありません。森も捜索され、女性の他殺体と彼の指紋付きのスコップが発見されたため、彼はひとまず死体遺棄容疑で指名手配される事となりました。

 失踪した女性は男性運が悪かったらしく、貢いでは捨てられる、という事の繰り返しだったそうです。森で発見された遺体の歯の治療歴から失踪人と同定されたとき、知人達はとうとう最悪の男に引っ掛かったのか、と泣いたそうです。

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