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文集 H28

可能性

作者: 珈琲髭

 美術部の部室で、その二人は隣り合って座っていた。


 腺病質ではあるものの、背が高く、優しげな瞳の男子生徒──角山は、美術部員ではなく文芸部員であるのだが、ともかく美術部の活動にお邪魔させてもらっていた。

 美術部員も何も言わない。彼が此処にいる理由を熟知しているからであった。筆者には分からないが、それは恐らく息抜きの為だろう。

 と言うのも、彼が普段、文芸部副部長として動画編集に追われる日々を過ごしているからだ。小説班が原稿を上げない為にこうして自由時間が伸びていくのだが、しかし角山にとっては好都合だった。青春を謳歌してみたいと漏らす程には、彼も悩める少年なのだ。


 では、角山が息抜きの為とは言え、図書室ではなく美術部室にいるのは何故だろうか。


 それは先程述べた隣席の生徒が理由だ。

 角山の隣で安らかな寝息を立てている女子生徒──こちらは彼女の人権を尊重して名前を伏せている──は、彼の恋人と呼んでも差し支えない、特別に仲の良い間柄であった。

 と言うのは筆者の妄想なのだが、強ち、いやきっとそういった仲である筈だ。そうに違いない。その根拠として、経緯はどうあれ角山は彼女の髪に長時間触れていた。

 これを「撫でる」と呼称した場合、男性が女性の髪を撫でるという行為は二つの意味を以て筆者の妄想を正しいものだと証明する。まず第一に、女性が男性に気を許さなければ髪でなくとも触れる事は出来ないのだし、男性もその女性に好意を抱いていなければ進んで触れようとしないからだ。つまりは両者が気のおけない仲であるという事が前提となり、であれば、筆者の妄想は事実であるという事の確たる証拠になる。

 第二に、蛇のようにお互いの身体を絡み合わせている爛れたカップル達が本校に溢れている状態を上記の論と合わせて鑑みれば、彼らが如何に純粋な、そして清い付き合いをしているかが分かると思われる。

 角山達に限り、カップルに対して多くの男が抱いている嫉妬も幾ばくか薄れるのではないだろうか。少なくとも、筆者はそう感じた。




 美術部員が各々作業をする中、角山と彼女だけは変わらず二人だけの世界にいる。何処かに遊びに行けばいいものを、奥ゆかしい性格の為か学校で会い、同じ時間を共有するだけで満足しているのだ。そんな二人を見て、もどかしいと感じない者はいまい。筆者は砂糖を吐く思いだったが、しかしそれと同時に、こうも思うのだ。


 願わくば、彼らの小さな幸せが永く続く事を、と。

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