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文京区国際テロ組織襲撃事件 その2

 企業警察の元になったのは何処か?

 そのルーツは日本においては鉄道をはじめとした交通機関が元になっている。

 国鉄時代、国鉄職員が司法警察権を持っていた時期があり、国鉄分割民営化にともない自治体警察に吸収されたという歴史がある。

 その異物が進化して企業警察になった原因は、大量の移民・難民に追われて警察組織が疲弊していたというのがあげられる。

 施設内とはいえ、広範囲をカバーする日本の鉄道網は日本経済の血液であり、同じく民営化された高速道路網の治安悪化に専属の組織を置かないと追いつかなかったのである。

 かくして、大量の移民・難民を抱えて高度な交通網を維持する為に、鉄道路線と駅、高速道路とICという境界を作りやすかった交通機関は自前の警備組織を強化し、破綻寸前だった警察機構はそれ嫌々ながら追認し司法警察権を付与する事になり、最初の住み分けである自治体警察と企業警察の共存が始まる。

 自治体警察と企業警察というある意味共存がしやすかったこの二者が対立するようになったのは、要塞都市の急増にある。

 移民・難民の排除を目的としたこの要塞都市内では、自治体警察そのものが入れないというケースが発生。

 この要塞都市の住民が上流階級の裕福層だった事がこの流れに拍車をかけた。

 基本的に警察は事件が起こらないと動けないという性質を持ち、犯罪の抑止や予防において後手に回る側面があった。

 移民・難民の犯罪に晒される側になる事が多かった日本人裕福層、特にジャパニーズエルフ達はこれに危機感を覚え、犯罪防止と予防を求め、営利企業が運営している企業警察に目をつけた。

 同じ流れで賞金稼ぎもこの時期発生している。

 彼らに求められるのは、外国から流れてくる凶悪な重武装犯罪組織に対抗する盾であり、彼らに報復する剣であったのだ。

 こうして、上流階級層の金銭的・政治的支援のもとで企業警察と賞金稼ぎは肥大化し、自治体警察との摩擦が頻発。

 企業警察と賞金稼ぎをまとめる目的の為に作られ、形の上では方舟都市の自治体警察である湾岸警察ができたのはそんな背景がある。

 だが、ここは都内で警視庁のお膝元。

 上総君茂が名乗っている賞金稼ぎも、三木原有実や柏原教授が期待している企業警察である天衛警備保障も、動くには掣肘があったのだ。


「一応大学内は学内自治の原則があって、全ての警察組織が自重するという紳士協定が結ばれていますが、それを国際テロ組織が守るとは思えないんですよね」


 三木原有実が実にわざとらしい声で現状への不満を漏らすが、もちろん現役時代彼女がそれで散々煮え湯を飲まされていたのを上総君茂が知っているので苦笑するしか無い。

 なお、三木原有実が飲んだ煮え湯を上総君茂もたっぷり飲んでいたのは言うまでもない。


「だから、今回の依頼は研究成果を湾警本部がある方舟都市に移送する事が任務になります。

 お受けして頂けないでしょうか?」


 柏原教授が三木原有実の言葉を引き継ぐ。

 一応ここまでならば断っても問題がない。

 とはいえ、上総君茂は木更津の事件で後輩である三木原有実に貸しがあった。

 ため息をついて、LEDライトの天井を眺めて一言。


「断る選択肢が無いんだよ」




 一度上総君茂は席を外し、火をつけない煙草を口に咥えて湾岸警察警備部警護課広域警護隊隊長の生田省吾上級警部のプライベート回線を呼び出す。

 コール三回でこの間聞いた声が携帯端末から聞こえてくる。


「最近縁がありますね。先輩」

「三木原の仕事に巻き込まれてな。

 第一級警護案件だ」


 その一言で生田省吾の声が仕事口調に変わる。

 その変化が上総君茂は嬉くも寂しくも思う。

 警護については基準があり、湾警が指揮を執る一級警護、企業警察が指揮を執る二級警護がある。

 今回は天衛警備保障が指揮を執る二級警護でも良かったのだが、その天衛警備保障が信頼できないからまだ信頼ができる湾警に出張ってもらおうというのが上総君茂の狙いだった。


「場所は?」

「文京区の大学構内にある柏原研究所。

 その研究成果をそっちに運ぶのが仕事だが、『方舟』が狙っているという情報あり」

「五分待ってください。

 こっちでも裏を取ります」


 研究所内のゲストエリアをウロウロする上総君茂。

 煙草が吸いたいのだが大深度地下で空気を汚すという行為は好ましくなく、全エリア禁煙になっているので地味にいらいらしていた。


「ちっ。

 ここも禁煙かよ。

 浪漫がねぇな。浪漫が」


「煙草ごときで浪漫を語らないでくださいよ。先輩。

 裏取れました。

 『方舟』のテロリストが都内に潜伏しているという未確認情報が警視庁から送られてきています。

 第一級警護案件という事は、複数の企業警察をまたぐ事になりますが、何処が出張ってきます?」


 男子トイレの個室にこもる。

 ドアに鍵をかけて、ドアに都心の地図を浮かべる。

 文京区から東京湾に出るならば、車か鉄道かの二択になる。 


「賞金稼ぎとして俺と三木原、天衛警備保障に交通系の企業警察までは確定かな。

 まだここからそっちに向かうルートを決めきれていないんだ」


「待機中の第一・第二中隊をそっちに回します。

 クライアントと連絡をしたいので、そちらの雇い主の回線を教えてもらっていいですか?」


 湾岸警察警備部警護課広域警護隊。

 警察組織の機動隊を参考に作られ500人の連隊規模で構成されているが、その補佐として一人につき一体から数体のドロイドがつけられている。

 その為、実戦力としては警視庁の機動隊と同じかそれ以上の戦力を保持している。

 二個中隊というのは、生田省吾上級警部が即座に動かせて指揮できる最大戦力である事を上総君茂は知っていた。


「今、アドレスを送る。

 警視庁側の折衝はそっちに任せた。

 賞金稼ぎの戯言よりも、憎まれているとは言え湾警の上級警部の方が信憑性はあるはずだ。

 あと、これは独り言だが、どうも天井の水漏れがひどいらしい。

 濡れないように気をつけろ」


 合同警護相手である天衛警備保障から情報漏えいがある事を匂わせておく。

 少なくとも上総君茂が新人時代からこき使った生田省吾はそれが理解できない無能ではない。

 コンコン。

 ドアが叩かれるので叩き返そうとしたら三木原有実の声が先に届く。


「先輩。

 先に一人で片付けようとする悪い癖まだなおっていないんですか?

 もう少し私達を信用してくださいよ!」


 上総君茂は火のついていない煙草を咥えたまましぶしぶトイレのドアを開けると、三木原有実の怒った顔を前に一言。



「ここ男子トイレ」 

「あ……」

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