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二十一世紀末電脳世界妖奇譚  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)


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文京区国際テロ組織襲撃事件 その7

「誰と言われても、私は私ですよ。先輩」


 案の定、三木原有実は揺らがない。

 とはいえ、探偵が犯人を指さした以上、ここから先は2つしかない。

 告白するか、抵抗するかだ。


「先輩。逆に聞きますが、記憶と体を全て持っている人形の何処を本人と定義するのですか?」

「魂だと言いたい所だが……」


 あまりにも軽い質問に上総君茂は軽い疑問で返す。

 その質問に本質が問われていたのは後になって気づくが、三木原有実は告白を続ける。


「先輩はこういう所、本当に鈍いですね。

 先輩を思っていた、男だった私の一番邪魔なものって何だと思います?」

「……三木原?」

「ええ、だから女の子になったのは偶然じゃないんですよ?

 でも、先輩は私を見向きもしなかったんですけどね」


 その言葉と共に、彼女はゆっくりと顔を近づける。

 唇が触れそうになる距離で止まると、静かに言った。


「先輩……好きです。大好きだったんです。彼女は」


 その言葉に、自分は何と答えただろうか。

 いや、答えなど初めから決まっているし、それを言う資格もない。

 そして、頭は探偵らしく事件の事を考え続ける。


(私は最高の人形を作りたかっただけなんだがね。

 こんな大事になってしまった)


 柏原教授の言葉が三木原の告白と重なって違和感を産む。

 その違和感から答えを導くと、上総公茂は口をゆっくりと開けた。


「お前、付喪神か?」

「正解です。先輩。

 気づくの遅いですよ」


 そう言いながら笑う三木原の顔は、とても人間らしかった。




 付喪神は、日本に伝わる長い年月を経た道具などに神が宿ったものである。

 それゆえに、発生条件が明確で利用しやすく、神話資源を利用するようになったこの国で真っ先に使われた神様と言っていいだろう。

 そうなると、そもそもの話から違ってくる。


「何処で付喪神が人形神に入れ替わったんだ?」

「先輩自身が言ったじゃないですか。高天原ホールディングス内部の天津派と国津派の派閥争いの激化からですよ。

 情報が抜かれたのに気づいて、こちらも欺瞞情報を流したんです。

 テロリストや警察が絡んでも、あの場で私が『付喪神』であると見抜ける人はいませんでしたよ」


 そう言いつつ三木原は人差し指を軽く振るう。

 悪戯っぽく艶やかな指に見とれそうになる自分に気がついて慌てて気を引き締めると、彼女に質問をつづける。


「なんで俺を巻き込んだ?」

「警視庁、湾警、天衛警備保障に、内閣府情報局国内部神霊室とコネがある先輩をどうして巻き込まないと?

 先輩が動けば、この連中が本物を保障してくれるんですよ」

「じゃあ、箱舟に連れて行った彼女は?」

「察してくださいよ。先輩。私が偽物ならば、本物は何処に行ったかを」

「……」


 なるほど、確かにこれは完璧な計画だな、と上総公茂は自嘲気味に笑う。

 高天原ホールディングス内部の天津派と国津派の派閥争いに巻き込まれたのではなく、彼女が高天原ホールディングス内部の天津派と国津派の派閥争いを利用した。

 少なくとも、今目の前にいる人形は三木原有実ではないからこそ、彼女が巻き込まれた事に意味がある。

 後でだまされたとしても、誰もそんな事をしないししたくない。

 組織が神様とはいえ騙されたなんて漏れて喜ぶのは敵対者ぐらいで、組織は大体そういう敵対者を抱えているからだ。

 つまり、この事件は最初から仕組まれていた——

 だからこれ以上調べる必要が無い事を意味し、上総公茂以外は全てが三木原有実の掌の上だったと認める事になるのだから。

 それに気づいた瞬間、自分も負けを認めるしかなかった。

 大きく息を吐くと、彼にしては非常に珍しく肩をすぼめる。


「俺が負けた事はよくわかったさ。

 しかし、そこまで俺の事を好きだったのか?

 それとも、そんなに俺をこき使う事が楽しいか?」


「『彼女』は、ですよ。

 そういう所に気づかないというかきづこうとしないから、向井局長と別れたんですよ。先輩」


「自覚はあるが、俺はロートルでね。

 ハードボイルドにあこがれ続けた結果がこの様だ」


「もう。素直じゃないんですからー!」


 茶化すように笑う三木原有実の目に涙が光る。

 アンドロイドでも泣けるような特注品はなかなかお目にかかれないし、ましてや軍用アンドロイドにそれをつける物好きはいない。

 この涙は三木原有実の情報を受け取った付喪神の涙。


「彼女は今頃は取引材料として箱舟から送られて衛星軌道の高天原でしょうね。

 傷心旅行にしてはなかなか面白い趣向でしょう?」

「……ああ。あいつらしいな」


 衛星軌道36000Kmの旅先は会いに行くのも難しいだろう。

 彼女が何を思って付喪神に体を情報を渡したのかはもはや推測するしかないが、それがこの場において無駄な事も上総公茂は分かっていた。


「帰るよ」

「ええ。また来てくださいね。先輩。

 いつものように」


 彼の耳に届いた声は、彼が聞き馴染んだ三木原有実にしか聞こえなかった。




「おじさま。暇ですか?

 良ければお茶でもしませんか?」


「あいにく、さっき頂いたばかりでね。

 内閣府情報局国内部神霊室の神奈世羅さん」


 人形町の人形専門店『亜梨須』を出てから五分としないうちに胡散臭いナンパをしかけてきた神奈世羅に上総公茂は胡散臭そうな目で応えるが、追い払う訳にはいかなかった。

 何しろ、この国の神話資源を管理しているのがこの内閣府情報局国内部神霊室なのだから。


「で、あんたが出向いてきたって事は、あれ、本物?」


「それが、素粒子測定センサーを用いても箱舟の少女と同一だったんで、向こうも頭を抱えているみたい。

 見事なまでのシュレディンガー改竄で、先に会った乾さんも頭を抱えているそうよ」


「なんとまぁ……」


 それは、柏原教授の、いや、三木原有実の勝利なのだろう。

 箱の中の猫が生きていようが死んでいようが、『猫が二匹』という情報が顕在化した。

 どちらが本物か確かめようとも、片方は衛星軌道36000Kmだから箱を開けるしかなく、箱を開けられる上総公茂は箱を開ける理由も勇気もなかった。

 つまりこれはそういう話。


「これからあの店とあの店の店主は、内閣府情報局国内部神霊室の監視がつく事になりますが、私の仕事が増えるだけで、あの娘は気にしないでしょうね」

「だろうな」


 彼女の願い通りに生きる事を思うなら、もはや上総公茂には何もする必要はない。

 いつものように助けを求め、彼女の言葉を軽くいなしながら先輩と後輩の関係を終わるまで続ければいい。

 この関係は、不老化処置をしていない上総公茂の寿命が尽きる頃には終わるのだから。


「きっと、あなたがエルフ化すれば、あの娘と幸せな結末が待っていると思うのだけど?」

「内閣府情報局国内部神霊室ってのはなかなかお節介だな」

「そりゃあ、人の恋路を聞かされるのも神様のお仕事ですので」


 茶化すのはここまでとばかりに上総公茂は真顔になる。

 それは、彼の譲れない一線。


「やり残したことがあってな。

 そのまま立ち止まったまま。こんな姿に落ちぶれたって訳だ」


 上総公茂はそれだけ言って立ち去り、神奈世羅は追ってこなかった。

 神奈世羅が見えなくなったあたりで、上総公茂は空を見上げる。

 澄んだ青空でも、上空36000キロメートルの後輩が見える訳がないが、それでも呟かずにはいられなかったのだ。


「馬鹿野郎が……」


 その呟きも上空36000キロメートルの後輩に聞こえる訳もなく、上総公茂は歩き出すのだった。

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