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フリー  作者: 空暉
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死の思い

フリー


私の家は貧しかった。


私が友達の家にいくと必ずあるもの全て私の家にはない。


テレビも洗濯機もエアコンもゲーム機も全て友達の家にしかないもの。


私の家にあるのはボロい机と古びた布団だけ。


だから、高校生になったらたくさんバイトして、こんな家すぐに出て行ってやろうと思った。


しかし、私の考えは甘かった。


私が稼いだ金は全て親に取られた。


どれだけ働いても、金は手に入らない。


どれだけ苦労しても、私は貧しいまま。


もう、死のう。


そう覚悟を決めた。


私は五年前に廃墟になった建物に入った。本当は入ってはいけないんだけど、そんなの今は関係ない。


どうせ私は死ぬんだから。


そう思いながら、家から持ってきたロープを吊るせる場所を30分ほど探した。


それでもいい場所が見つからない。


これも甘かったのだろうか。


私は死ぬ事すらできないのか。


そんな事を考え始めた時、さっきまで開かなかった入り口の正面右のドアが開いた。


恐る恐る近づいて見てみると、そこには地下へ続く階段があった。


どうせ死ぬのなら、と自分に言い聞かせて階段をおりてみる。


無限に続いているのかと思えた階段も、ようやく終わりを迎えた。


そして私を迎えたのは、豪華な受付所だった。


違う、豪華なのは受付所だけではない。何処もかしこも私が見た事のないような、まるで写真で見た高級ホテルの受付所みたいなところだった。


前には誰もいない。だが、前にあるカウンターには【受付所】と書いてある。


私は興味本意でその受付所に近づいた。


右を見ると、そこには無数の紙がどっさりと置いてあった。


すると、後ろから急に声をかけられた。


竜「おっ、可愛い子いるじゃん!」


彩葉「え?」


可愛い子って私?そんな事初めて言われた。


竜「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は井上竜いのうえりゅう22歳だ。君はここは初めてか?」


この竜という人は、一体誰だろう。でも、この状況がさっぱりわからないため、この人の話を聞かない事には始まらなかった。


彩葉「えっと…私は中谷彩葉なかたにいろはって言います。16歳です。高校は行ってなくて、その、自殺しようと思ったらこんな所に来てしまって…」


竜「ああ、そんなのいいから。別にここに来る人はみんなそんな感じだし、無理に話さなくていいよ。」


見た目は怖そうだけど、中身はいい人ぽかった。


竜「でもここは、自殺する場所じゃないよ。」


彩葉「そうですよね…ごめんなさい。」


竜「いや、そうじゃなくてさ、ここは自殺をするような人を救ってくれる場所だって言ってんの。」


彩葉「へ?」


自殺を救う?なんだそれ。


竜「まぁ、詳しい事はそれを見てみな。」


竜が指を指す方向に顔を向けた。そこにはまた無数の紙が。


私はその紙を手に取り、そこに書いている文字を読む事にした。


そこにはこう書いてあった。


フリーにようこそ。


貴方がここに居るという事は、貴方にもフリーが必要になったということでしょう。


では、フリーの説明に入らせてもらいます。


フリーとは、2人が個室の中でゲームをし、勝った方が負けた方になんでも一つだけ命令できるというものです。


どんな命令でも可能です。たとえ相手が1円もお金を持っていなくても、大金を要求する事が可能です。その場合はフリーが責任を持って用意させます。


そして、フリーのゲームでは、ホスト側と参加者側が存在します。


ホスト側はゲームの内容を決めることが出来ます。但し、そのゲームにかかる費用、例えばトランプならトランプ代といったものは全てホストの負担となります。場所代は、一畳千円で3日間貸し出しとなります。なお、トイレやお風呂、洗面所等の貸し出しはセットで五万円とさせていただきます。食事などはメニュー制となっております。それと、一回のゲームにつき、百万円の支払いが必要となりますので、ご了承ください。これら全ての代金は全てホストの負担となります。


参加者側はフリー会場の受付の左手前にある端末を開き、それでホストを選択することが出来ます。なお、参加者側はゲームをするだけならば一切のお金を必要としません。


注意事項


暴力を振るった場合、フリーの判断で即負けとします。


ゲームのルールを破った場合、フリーの判断で即負けとします。


物を破損させた場合、破損させた本人が全額負担となります。


これ以外にも、フリーが不適切と判断した者は即敗北とみなします。


まだルールは開発段階なので、付け足しがある可能性がありますが、説明は以上とさせていただきます。




竜「読み終わったか?」


私はふと我に帰った。


竜「まぁあれだ。信じられないとは思うが、本当の話だ。」


違う。信じられないとかそんな話じゃない。嬉しいのだ。今まで散々な日々を暮らしてきた私に、やっと救いが来たのだと思えたのだ。


これは、どんな命令でも一つ、なんかじゃない。


どんな願いでも一つ、だ。


なら私が欲しいものは一つ。


お金が欲しい‼︎


そうと決まれば早速私は受付の左手前にある端末をとり、ホストの状態を見た。


今日は月曜日だってのに、たくさんの数のホストがいた。


だが、どれを選べばよいか分からない。


1番上に乗っているのはSAERIという名前の人。どうやら、顔写真付きだそうだ。44歳。ゲーム内容は計算勝負。なるほど、あれだけお金を払ってホストをやるだけの事あって、ホストの得意な勝負ができるようになっているらしい。


だが、参加者には選ぶ権利がある。そう考えるとめちゃくちゃなルールには出来なさそうだ。


このホストの数を見る限り、他にもこのフリーの会場は沢山あるようだ。


そんなことを思っていると、後ろから竜が話しかけてきた。


竜「なんだやる気満々じゃん。もうフリーのこと理解しちゃったの?凄いね。じゃあ手始めに俺と勝負しない?」


なるほど、この人初めから私をカモにするつもりだったのか。


でもこの人は私の事をまるでよく分かってない。


私が高校に行っていないのは頭が悪いからではない。バイトする時間がなくなるからだ。中学の時の私はとても勉強が出来た。運動もできた。だから、こんな人に負けるはずがない。


負ける気がしない。


彩葉「良いですよ。その代わり、竜さんがホストやってくださいね。」


竜「ほんと?ラッキー!じゃあ俺ホストの申し込みしてくるからここで待っててね〜!」


竜は少しテンション高めの声でそう笑った。


どうやら、ホストの受付はこことは違う場所にあるみたいだ。


彩葉「はい。」


こうして、竜との勝負が始まろうとしていた。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


待つこと30分、ようやく準備が整ったようだ。


私は早速竜が作ったゲームのルールを見てみることにした。


端末にはこう書いてあった。


ホスト 井上竜22歳


ゲーム内容


双方にグーとチョキとパーのカードを一枚ずつ持ち、テーブルの上に自分で決めたカードを裏向けで一枚出す。


お互いに出し終わったらカードを表に向ける。


表に向けた時、グーを出した場合はチョキを、チョキを出した場合はパーを、パーを出した場合はグーを出された場合、勝利とする。


また、逆の場合は敗北とする。


自分と相手が同じカードを出した場合は再戦とする。


一回勝った方の勝利とする。


以上




と。


とても難しく書いてあるが、これはただのジャンケンではないか?というのが私がこれを見て初めて思った感想だった。


まぁ今は何を考えたところで意味はない。


私は先を急ぐことにした。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


トントンッ


と、竜が待つ部屋のドアをノックする。


竜「空いてるよ〜」


と、竜からの返事が来たので、早速部屋に入った。


彩葉「失礼します。」


部屋に入るとフリーの会場とは別世界のようで、六畳の畳とテーブルが置いてあるだけだった。


でもそんなことはあまり関係ない。私は入ってすぐに軽くお辞儀をし、竜と対面する形でテーブルの前に座った。


竜「じゃあ始めよっか。はいこれ。」


そう言って竜は私に3枚のカードを渡した。


竜「ルールは分かってるよな?」


彩葉「はい。大丈夫です。」


竜「そっか。」


竜はそう言って自分のカードをじっと見つめていた。


私も何を出すか考えないと。でもまずはカードの点検から始めることにした。


すると…


彩葉「これは…!」


竜「ん?どうした?」


彩葉「いえ、何でもないです。」


なんてことだ…


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



ちっ気づかれたか。


俺、竜は少し驚いた。


まさかこんなに早く気付かれるとは…


実は、彩葉のパーのカードには超小型の発信器を付けておいたのだ。


この発信器は、机の上にパーのカードが来ることによって、足に付けたバイブが震える仕組みになっている。


フリーのルールでは、ゲーム説明にイカサマをしてはいけないと書かない限り、イカサマをしても良いのだ。


彩葉は少し戸惑いを見せていたが、何も言ってこずにカードを机の上に出した。


すると…


ブーブー


足のバイブが反応した。


こいつ馬鹿なのか?さっきから机の上に出したカードをずっとカードを手で覆い隠している。


多分、センサーのことは気づいたが、それを印か何かと勘違いしたのだろう。それで印を見せなければ勝てると思ったのだろう。


彩葉「ふふっ」


彩葉が必死に笑いをこらえている。


ばーか!笑いたいのはこっちだよ!


俺はチョキのカードを机の上に出した。


竜「それで良いんだな?」


彩葉「はい。これでいいっ…です。」


まだ笑みをこぼしている。


馬鹿だなぁ。これでお前は負けるのに……


竜「じやあいくぞ。せーの!」


一斉にカードを表に向ける。


彩葉が出したのは…



グーだった。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



勝った!やっぱりそうだったんだ!


竜「うそ…だろ?」


彩葉「本当ですよ。」


竜「どうしてだ!確かに足のバイブが…」


そう言って竜は足のバイブを確認した。


彩葉「でしょうね。私、始めにちょっと驚いたのを覚えてますか?」


竜「ああ、もちろんだ。」


彩葉「それは、パーに発信器が付いていたからなんです。昔、発信器についてちょっと興味があって本屋さんとかに行って調べたりしてたんですけど…」


我ながらどんな女子だよ、とも思うが…


彩葉「この発信器はセンサーに反応する系のやつですよね?」


竜「ああ、そうだ。」


彩葉「あの天井にある小さいセンサーが多分それだと思うんですけど、これは机の上にパーのカードを出した時に通知が行く系のものだと思ったんです。そこで、ゲームのルールを思い出しました。ルールには、イカサマをしてはいけないと書いていなかったので、このゲームでイカサマをしても良いというのがわかったんです。そこで、私もイカサマをする事にしました。」


竜「な、なんのイカサマなんだ…一体何を…⁉︎」


彩葉「まあまあ落ち着いてください。これですよ。」


そう言って、私は腕の裾をめくった。


彩葉「私はパーのカードをこうして腕に乗せて服で隠していたんです。こうする事によって、上にあるセンサーが反応するのです。だから竜さんの足に付いているバイブが震えたんでしょう。そして、そんなことも知らずに貴方はまんまと騙されてチョキを出した。だから負けた。」


竜「そんな…」


みんなにもわかりやすく説明しましょう。もう理解していただいている人は次の会話文からお進みください。


私はパーに付いた発信器の事を知りました。この発信器は机の上にパーが来たらセンサーが反応して竜に通知が行くので、私は袖にパーのカードを隠してグーのカードを机の上に置いたのです。そうする事によって、竜に私がパーを出したと錯覚させたというわけです。


彩葉「分かりましたか?それでは命令ですが…」


竜「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


彩葉「なんでしょう?」


竜「そこまで分かってるんなら分かるだろ?どうしてパーにしか発信器をつけられなかったかぐらい…」


それはもちろん分かっている。


竜「俺は今、金が全くないんだよ。頼む!金以外にしてくれねぇか?」


彩葉「うーん、どうしましょうか。」


私は少し考えたふりをする。そして…


彩葉「じゃあ1000万円で勘弁してあげましょう。」


竜「お前…調子乗んなよ…何が勘弁してあげますだ‼︎あぁ‼︎」


そう言って、竜は私の胸ぐらを掴む。


竜「今すぐ訂正しろ‼︎まだ間に合う‼︎」


彩葉「嫌ですね。今日中に1000万円用意して私にください。」


竜「てめぇ…ぶっ殺す‼︎」


その時、この部屋のドアが開いた。その後ぞろぞろと黒い服を着てサングラスをかけた強そうなお兄さんが入って来て、竜を取り押さえた。


竜「やめろ!はなせ!はなせぇ!」


竜が必死に抵抗するも、全く歯が立っていない。


すると、今度は黒服の男が私に話しかけてきた。


黒服「貴方が勝利した方ですね?では、こちらに。」


そう言って、私は別の部屋に連れて行かれるのであった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


そして、また1人、今度は20畳はありそうな豪華な部屋で待機させられる。


待つこと20分程度。部屋のドアが開いた。


そこにいたのは黒服の男3人と、竜だった。


黒服「ほら、早く言え!」


黒服の男が竜に向かってそう言った。


竜「さっきはすいませんでした。」


彩葉「いえ、こちらこそ。調子に乗ってました…」


竜の姿はさっきとはまるで別人だった。


一体何があったんだろう…


黒服「こいつがまた何かしましたらこれを使ってください。せめてもの配慮です。」


そう言って携帯ストラップ型のスイッチを渡される。


黒服「それとこれを。」


そう言って、黒いカードを渡される。


黒服「現金だと大変だと思ったので、カードにしておきました。このカードはどこでも使えるので、ご自由にお使いください。」


彩葉「ど、どうも…」


なんというか、すごい親切だ。私が思っていたフリーとはまるで違う。


黒服「それでは、失礼します。ほらっ行くぞ‼︎」


黒服の男は私に深くお辞儀をした後、竜を連れて何処かへ行った。きっと竜はフリーに借金をしたのだろう。


私は早速家に帰った。


もう死ぬ必要はない。これから新しい人生を生きるんだ‼︎


家に帰った理由は一つ。ただお別れを言いに来たのだ。


彩葉「ただいま。」


母「おかえり。どこ行ってたの?」


どうやら父は出かけているようだ。


彩葉「そんな事どうでもいいでしょ?それより私、家出て行くから。」


母「何よ急に。どうせ行くあてなんてないくせに。」


彩葉「あるよ。だから出て行く。もう帰ってこないから。」


母「何偉そうなこと言ってるの⁉︎いままで育ててきたのは一体誰だと思っているの⁉︎」


彩葉「ろくに家事もしないくせに今さら母親面しないでよ‼︎もういい。じゃあね。」


母「待ちなさい彩葉‼︎」


私は母の言葉を無視して家から出て行った。


もう家の事なんてどうでもいい。どうせ家にいたって何も無いのだから。


必要なものは持った。実はこんな日の為に自分の物は全てバッグに詰めておいたのだ。


まぁ、あんまり入ってないのだが…


とにかく今日は近くのホテルに泊まる事にした。


明日からが楽しみだ。

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