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勇者ナオト

 魔王は聖にずいぶんと気さくだった。やはり戦場で助けたのが良かったのかと思ったが、それは関係なくこうして和解に来てくれた事が嬉しかったらしい。

 立場上弱気な発言をできなかったが、やはり人間と手を組むしかないと思っていたそうだ。

 部下が聖を殺した事には深々と頭を下げ、提案してくれて本当にありがとうとまで言われてしまった。


 

 そして彼は勇者ナオトについて語り始める。

 魔王が語るその能力はずば抜けていて、ひじりとは比べるのも馬鹿らしいものだった。

 

 武器は魔法剣で、怪力と飛ぶ斬撃でゴーレムすら簡単に切り裂いた。

 莫大な魔力を持ち、遠くの魔族にはバンバン魔法を飛ばしてきた。

 謎の運搬能力で巨大な大砲を一度にたくさん運んできて、砦を一日で落とされた。

 毒殺しようとしたが効かなかった。麻痺攻撃や睡眠魔法も効かなかった。

 知能の低い魔族は、仕掛けさせると逆に勇者に操られてしまった。

 傷は重症でも自然回復して、疲れることがなく、何時間でも戦い続けた。


 聖は聞いていて憤りを感じていた。

 勇者ナオト、名前からして自分と同じ日本人だろう。その能力はおそらくケバンケタルンが与えたものだろうが、しかし聖に与えられた能力はどれも彼の足元にも及ばないではないか。

 ケバンケタルンは神力をケチったのか、あるいはナオトに神力を使いすぎたのか。

 いずれにしろ、既に2回死んだ聖には妬ましくてやるせない。


 きわめつけに、彼は不死身だった。

 勝てる気のしない勇者ナオトだったが、それでも魔王軍1万人の犠牲と引き換えに追い詰め、魔王は遂にトドメを刺す事に成功した。


 しかし勇者ナオトはその場であっさりと復活したという。

 それは聖の復活の仕方と全く同じだったそうだ。

 そこだけはヒジリとも同じだなと魔王は笑ったが、おそらく彼に3回という回数制限はなかっただろう。


 

 半年前、勇者ナオトは遂に魔王城に迫った。

 魔族達もあとがないため必死に抵抗した。普通に戦っても勝てない事はわかっていたので、城に大量のトラップや伏兵を設置して待ち構えた。


  魔王の部屋の一歩手前まで前進されたが、それでも罠にはめて瀕死にまで追い込む事に成功した。しかしトドメを刺せば完全復活してしまうし、牢屋に放り込んでもいずれは回復してしまうだろう。

 両手両足切り落として拘束することも考えたが、魔法剣で拘束具を壊されそうな気がする。


 困った魔族達が考え、用意したのがスライムで埋め尽くした地下室だった。


 スライムは餌があれば無限に増殖できる。勇者ナオトほどの餌ならば、ひと齧りすれば爆発的に増えるだろう。

 そして魔王がスライムに下したのは「自然回復した分だけ食べろ」という命令である。


 スライムは初めは魔王の命令を忠実に守り、食べては増えを繰り返していた。

 当然勇者ナオトも苦しみながらも魔法剣を召喚して周りのスライムを切り裂いたが、瀕死ゆえに身を守りきる事も殲滅する事もできず、数が多くて操りきる事もできなかったらしい。そして体を囓られた時に増殖するスライムの方が多かったために抜け出せなかった。

 最初の1週間位は抵抗していたが、やがて観念したのか発狂したのか動かなくなり、スライムの増殖も止まった。


 魔族は自分達の勝利に喜んだが、しかし浮かれていたせいで気づくべき事に気づかなかった。

 スライムの増殖が止まるのはおかしいという事に。



 3ヶ月後、突如爆発的に増えたスライムによって城は埋め尽くされた。

 スライム達は魔王の命令も聞かずに魔族を襲い続け、遂に魔族達は城を追い出されてしまった。



 その時、生き残った一匹の魔族がそれを見ていた。


 『スライム』と化した勇者ナオトが、笑いながら大量のスライムを生み出し、指示を出して操っていた。


 それの情報は魔王が意図的に人間側にも流した。人間に討伐させようと考えてだったが、女王によって勇者ナオトである事は隠蔽され、『オリジンスライム』と呼ばれるようになった。


 *   *   *


 その2日後、魔王城、今はスライム城と呼ぶべき城の門の前に、聖は立っていた。

 聖は恐怖と恥ずかしさ、そして空腹のせいでめまいがしていたが、とにかくそこにたどり着いていた。


 魔王と女王の会合は、時間がないという事で秘密裏に行われた。

 共闘してスライムを倒して、無条件で戦争は終結。本来ならば色々と条件を決めたり、勝敗を決めて責任追及をしたりするのだろう。しかしそんなやり取りをしている間に共倒れになるのが目に見えていた為、単純にそれだけを決めて会合は終了した。

 むろん、シーアル将軍をはじめ、納得いかないものは多かったが。


 オリジンスライムこと勇者ナオトが城から出ていない事は魔族の監視により確認できていた。その為人間と魔族の精鋭でオリジンスライムの討伐に乗り出したが、城の周囲は魔族の死体に取り憑いた強力なスライム達が守っていて、通常の方法では近づく事が出来ない。


 それを何とかしたのが魔王の魔族を操る力と、聖の自分の部屋を召喚する能力だ。


 聖は現在、全裸でスライムまみれになって、城の前に到着していた。

 偽装の為、魔王が森にいた普通のスライムを連れてきて、聖にへばりつけと命令したのだ。

 聖はそんな事でうまくいくはずがないと思っていたが、ここまで素通りで来る事ができてしまった。


 もっとも魔王は自信があったようだ。スライムの知能は非常に低いのだから、気づくはずがないと。

 また、彼はオリジンスライムの命令がなければ、スライム達は死体を利用する事などせずに食べつくしてしまうハズだとも言っていた。


 ただし、一人だけならばともかく、大勢の兵士が裸にスライムで歩いていればさすがにばれてしまうし、しかも武器を持ち運ぶことができない。

 

 その為、まずは聖が自室に魔王やシーアル将軍をはじめとした人間と魔族の精鋭を詰め、偽装して一人ここまで歩いてきたのだ。

 全裸スライムは嫌だった。自分の部屋に男や魔族を詰め込むのも嫌だったし、シーアル将軍を魔王と一緒にしておくのも心配だったが、他に方法が思いうかばなかった。


 *   *   *


 城の門は閉ざされている。聖は進めるのはここまでらしい。


 聖は部屋を召喚する。まだ、城門のわきに扉が一つ出現しただけなので、周囲のスライム達は気づいていない。



 聖が部屋の扉を開けると、中にいた魔王や将軍たちが一斉に飛び出し、一気にそこは戦場になる。



 聖は彼らと入れ違うように部屋に入り、そしてまず服を着て、それから果物を食べた。


 

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「賢者フィロフィーと気苦労の絶えない悪魔之書」

ひっそりゆっくり連載中(※ジャンルはハイファンタジーです)

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