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よくある異世界転生もの

長い話にはならない予定です。

おそらく全編で5~6話くらいに収まります。

 

 その日、自宅でテレビゲームに興じていた高校生3年生の 田中 ひじり は、突然鳴り響いたサイレンのような音にものすごく慌てていた。

 

 はじめはうっかりテレビの音量を最大にしてしまったのかと思った。丁度やっていたゲームもサイレンの音の鳴るゲームだったのだ。しかし音は明らかに部屋の外から聞こえていて、慌ててテレビの音量をミュートにしてたものの、やはりけたたましく鳴り響いている。

 それでは津波か何かの災害かと思って窓に手をかけたが、開かない。それどころが反対側の部屋のドアも開かない。

 パニックになった聖は窓にへばりつき外を凝視する。すると外の景色が歪んでいくのが見え、聖はさらに恐慌して布団に潜り込むと、そのまますぐに気を失ってしまった。


 *   *   *


「・・・・・・さん、・・・ジリさん、ヒジリさん」

「は、はい!」


 聖が聞き覚えのない男の声に飛び起きると、部屋に見知らぬ男が立っていた。

 女子高生の部屋に見知らぬ男がいるのだから、本来ならば貞操の危機であり、聖が再び恐慌してもおかしくはない状況のハズである。しかしどういうわけだがひどく気持ちは落ち着いていて、さらに目の前の男が自分に危害を加えるつもりがないことが何故か聖には理解できていた。


「初めましてヒジリさん。私は地球とは別の世界を司る神、ケバンケタルンと言います。」

「あ、初めまして、田中聖です」


 そして普通に挨拶した。自分の部屋にいる、神と名乗る男に、何も違和感を感じないまま。

 聖は窓の外を眺めたが外は真っ暗で何も見えなかった。


「今この部屋は地球でも私の世界でもない、世界と世界の中間に存在しています。私達神には色々と見えますが、人間の目では外を見ても何も見えませんよ」


 聖にはケバンケタルンが自分の頭の中が読めるのか、それとも単に外を見る聖をみて察して声をかけただけなのかはわからなかった。


「ああ、別に私は聖さんの頭の中を覗いたりはしていませんよ。やろうと思えばできますが、力を消費しますし、お願いする立場でそれは失礼ですからね」


 頭の中は読んでいなかったが、察しはいいらしい。

 しかしそれ以上に、聖には聞き逃せない単語があった。


「お願い、ですか?」

「そうです。聖さんを私の世界に勇者として召喚させていただきたいのです。お引き受けいただけないでしょうか?」


 『勇者』。それがどういう職業なのか、RPGはあまりやらない聖でも知っている。と言うより現代日本で知らない高校生はいないだろう。モンスターや魔王を倒し、世界を救う存在である。

 突然召喚されて、異世界の勇者になる。そんな妄想と漫画の中だけで行われるハズの出来事が、聖の身に起きていた。

 そう思って少し浮かれてしまったが、流石に二つ返事で引き受けるわけにはいかない。

 聖は改めて目の前の神を見据える。そこには聖好みの、高身長で優しそうなイケメンが立っていた。自分がこの状況にも落ち着いていられるのは、きっと目の前の神の力なのだろう。そして問答無用で異世界に放り込んだりせず、こうして交渉してくるあたり、そんなに悪い神でもないだろうと思った。


 思ってしまった。


「あの、でも私、普通の高校生なんですけど」

「もちろん、このまま私の世界に行ってもらうわけではありません。私の神力をつかって、生きていける能力と戦える武器ちからを授けます。召喚先にも聖さんを迎え入れてくれる大勢の人間が待っていますよ」


 中々の好条件な気がするが、あと2つ聞かなければならない。


「向こうに行った後、地球に戻ることはできますか?」


 ケバンケタルンは少し考えて、もとい考えるふりをして、そして答える。


「地球と自由に行き来する、と言う意味でしたら無理ですね。地球との往来には私の神力を大量に消費します。現在、私の世界は混沌としていて、世界から神力を補充できないのです。 ですが私の世界が平和になり、再び神力を貯めることができれば、地球に送り返して差し上げることも可能です。」


 つまり、勇者としての仕事をやり遂げないと帰れない。

 魔王退治に何年もかかれば、戻ってきても生きづらいかもしれない。


「その時には、私の世界の金や宝石などをこの部屋に一杯に詰め込みましょう。もしも聖さんが私の世界で結婚などされたなら、その相手や子供も一緒に送り、身元も保証できるように努力いたします」

 

 聖は庶民であり、彼女の部屋は当然広くはなく、4畳程度の部屋だ。しかしそれでもこの部屋いっぱいに金や宝石を運び入れたならば、末代まで遊んで暮らせるような金額になるだろう。報酬は破格である。


 この時点で聖はやる気満々だったのだが、もう一つの質問はしないわけにはいかなかった。


「そちらの世界で死んでしまったら、私はどうなりますか?」

「そうですね・・・3回くらいまでなら、私の残りの神力で生き返してあげることができると思います。ヒジリさんに渡す力を弱くすればもっと回数を増やせますが、それよりはできるだけ強力な力をお渡しした方が生き残れるでしょうから」


 死んだらそれまでですと言われると思っていたので、3回も生き返れることに驚いた。聖の中で完全に答えが決まった。


「わかりました。私でよければ勇者を引き受けます」

「おお、ありがとうございます!」


 ケバンケタルンはとても感謝して、したふりをして、そして彼女の頭に右手を当てる。


「それでは早速、勇者ヒジリに能力を与えましょう。まず、世界の言語を理解する能力を」


 そう言うと神の右手がぼんやりと白く光り、聖は体がすこし火照るのを感じた。

 以降、それをしばらく繰り返す。


「病におかされない体を」

「優秀な身体能力を」

「銃の発動に十分な魔力を」

「幸せを呼ぶ幸運を」

「そして、この部屋とのつながりを」


 そこで一息ついて、聖は今与えられた力の説明を受ける。


「前半の4つはヒジリさんの予想できる通りでしょうが、説明するとすれば言語ですね。私の世界に存在する言語はすべて理解でき、もちろん書くこともできます。 次に幸運ですが、これは絶対ではありません。多少の助けにはなるでしょうが」


 例えばいくら幸運があっても、自分のお腹に包丁を刺せばまず死ぬだろう。可能性はゼロではないが、偶然包丁の刃が折れたりはまずしないのだそうだ。


「そしてこの部屋とのつながりですが、ヒジリさんはこの部屋を自由に召喚し、持ち運び、出入りできるようになったと思ってください。手荷物はこの部屋に入れておけば安全ですし、休む時はこの部屋に入り外界から切り離せば安全に休めます。さすがにこの部屋に入ったまま移動はできませんが」


 アイテムボックス兼セーフティゾーンと言ったところだろう。

 4畳程度の部屋なので、できればもっと広い部屋が欲しかったが、それを求めると欲張りな気がして言えなかった。

 

「では最後に、戦える武器ちからをお渡しましょう」


 ケバンケタルンの右手と左手がそれぞれ赤色に光り出す。右手の光はそのまま手の平くらいの大きさの物体を形作り、左手の光は1mを超える棒状になる。


 そうして生み出されたのは回転式らしい拳銃と、手動装填式に見える狙撃銃だった。


「見た目は地球の古い銃に見えるでしょうが、もちろん中身は違います。これらの銃に弾を込める必要はありません。自動的に周囲の魔力を固め、弾と火薬として補充してくれます。また砲身が熱くなることはありません。反動や発射時の音は少しでてしまいますが、肩を痛めたり難聴になるようなレベルではないので安心してください」


 ケバンケタルンはまず、右手の拳銃を聖に渡す。


「こちらは射程と威力は狙撃銃には劣りますが、弾の装填速度が速いです。それと威力を調節する事ができますが、強い威力の弾にする場合はその分装填速度は落ちてしまいますね」


 続いて左手の狙撃銃を聖に渡そうとする。聖が受け取り方に迷うと、手に持っていた拳銃は聖の右手にするりと吸収された。自由に召喚可能なようである。


「狙撃銃は威力と射程は拳銃よりすぐれていますが、1回撃つと次の弾の充填までに、20秒ほどかかってしまいます。連射は出来ないので注意してください」


 聖はうなづき、試しに手に持っていた狙撃銃の手を離してみる。

 銃は落ちることなく聖の左手に吸収されていった。


「これで力の受け渡しは終わりですね。それではいよいよ私の世界に召喚しますが、心の準備はよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 聖はだいぶ自信を持っていた。彼女はゲーマーだったが、RPGよりも銃を扱うFPSやTPSのようなゲームを好んでいた為、渡された武器ちからが剣や魔法ではなく銃だったことがうれしかった。

 

 ケバンケタルンが何かつぶやくと、再びサイレンのような音が聞こえてきた。


「それではヒジリさん、どうか・・・」 


 どうか私の世界を救ってください。

 サイレンの音がうるさくて聞き取りづらいが、きっとそういわれるのだろうと聖は思った。


 

 次の瞬間、それまでにこやかだったケバンケタルンが、苦虫をすりつぶしたような顔で言い放った。


「どうかあの忌々しいスライムどもを殲滅してください」



「わかりま・・・・・・・・・え?」 



 聖は再び気を失った。

 

 


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「賢者フィロフィーと気苦労の絶えない悪魔之書」

ひっそりゆっくり連載中(※ジャンルはハイファンタジーです)

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