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齢18で城を手に入れたら  作者: ロカク
一回生編 ~春~
1/13

同級生でご近所さん

 春、それは終わりの季節であり始まりの季節でもある。かくいう俺、久我鳴海もその真っ只中に居るわけで……


「ここに来るのも久々だなぁ」


 ここは俺が生まれた頃に親父が買った別荘であり、これから俺の城となる家だ。三階建てに部屋が10以上と一人で暮らすには十分すぎるが、これから通う大学に近く家賃も必要ないので申し分ない。


「一部屋あれば事足りるだろ」


 このだだっ広い建物には何にもない。もともとあった家具を残してもらうこともできたが、大学進学を機に普通の常識人になろうと決めた。別荘こそ借りることにしたものの、俺の望む0からのスタートに両親共々快く受け入れてくれた。手持ち金は家具代として通帳に50万に月15万仕送りしてくれるという。以前通っていた高校の友人で同じような立場のやつらに聞いてみると「普通だろ」って言ってはいたが、そいつらも基本裕福な家庭育ちなのであてにならない。とにかく俺は凡人になると決めた。


「家具揃えに行くか」


 服は持ってきたし、水道代・光熱費は必要ない。50万はやっぱり多すぎると薄々思い始めている今日この頃。さすがに静寂はきついということでテレビは欲しいところ。あとは冷蔵庫と掃除機、扇風機があればとりあえず冬まではなんとかなるだろう。


        ~数時間後~


 というわけで大方家具は揃った。途中でソファーとベッドを追加しても20万で収まった。スーパーによって米と食材……ではなく、カップ麺を大量買いした。麺が主食ってどこの国だよと思いつつ夕御飯分の麺をすする。


「まだ一週間もあんのか……暇だな」


 遠出する足もなければ必要もないのでケータイの地図アプリで周辺の地理を調べたり、ひたすらテレビを見て一週間過ごした。そして……


「ゴミたまってきたな、捨てていくか」


 先日下ろしておいた教材費と適当なリュック、ゴミ袋を持って家を出た。ほとんど散ってしまった桜を横目にゴミ捨て場に着いた。


「あー、いい仕事した」


「おはようございます」


 誰だこの美女は? この近所に住んでる人なんだろうか、ゴミ袋を一つ持っている。


「あーおはようございます。では」


 特に話すこともないけど名前ぐらい聞けばよかったか? いやいや、訴えられるかもしれない。何の罪かは分からないが……


「あのー」


「なんでしょうか?」


「なんで付いてくるんっすか?」


「同じ方向なので」


「そっすか」


 とっても気まずいので出来れば付いてきてほしくはないんですが、同じ方向なら仕方ない。早くあなたの目的地にたどり着いてください。


「んじゃ、俺ここなんで」


「私もここですよ」


 まさかの目的地同じパティーンですか!? 逃れられなかったパティーンなんですか!? 世間狭くないっすか!? まぁ、同じ大学とはいえ学年やら学科やらが違えば会うこともないだろう。さようなら、ふんわり美女よ。


「新入生案内取って行ってくださーい!」


 恐らく在校生と思われる人々が声をかけている。受け取ってみてみると俺の学科はステージから見てホールの左後方に座るみたいだ。


「まだ時間あるな、他のとこも目を通しとくか」


「あら?」


「ん? なっ!」


「また会いましたね」


 横に座ったのは朝から付きまとわれていたふんわり美女、ここにいるということはこの人も新入生なのか?


「知り合いがいて話し込んじゃいました」


「へー」


「そうだ! 私は染谷穂波! あなたは?」


「久我鳴海っす」


 名乗らずに名前を聞いてきたら「相手に名前を聞くときはまず自分からってね」って感じでクールに返そうと思っていたのだが、染谷さんの常識力によって空振りに終わった。


「久我君朝ゴミ出ししてたけど一人暮らしなの?」


「まぁ、そうっすね」


「へぇー、多分近所だよね! 今度遊びに行っていいかな?」


「男の家に一人で来るのは危険っすよ」


 うちが一軒家だと知れたら凡人ライフがあっというまにパーだ。阻止しなければ……


「それもそうだね……じゃあ……」


(よし、諦めろ!)


「友達連れていくよ! これでいいよね?」


「えっ!? あ……はぁ……」


 しまった! この返事だと受け入れる感じになってしまう!訂正しなければ!


「あの……」


「あ、入学式始まるよ!」


 式の開始によって俺の出鼻は挫かれた。終わってから話そうと思っていたのだが、式が終わるまで寝込んでしまい、目を覚ました頃にはもう染谷さんの姿はなかった。今日の予定は入学式だけだったので帰りながら探してはみたもののやはり見つからなかった。


「同じ学科なわけだし、明日行けばわかるわな」


 というわけで家に帰ってスーツを脱ぎ、ラフな格好でテレビを見ながらカップ麺をすする俺の一日は幕を閉じた。


 一夜明け、あいかわらずこのだだっ広い家には静寂しかない。朝からカップ麺はさすがにどうかということで一応買っておいた野菜ジュースで朝食を済ませる。大学まで徒歩10分ほどだが、家から目的地が近いほど到着時間がギリギリになるのはあるあるだ。今日は捨てるほどゴミはない。大学に着くまで誰とも会わなかった。


(あの人を探して来ないよう説得すべきか、あるいはわざわざ会わずに忘れていることを願うか……)


 この二択ならとりあえず後者を実行して、見つかったら前者で片を付けるっていうのが得策だろう。まずは普通に……


「久我くーん!」


「あぁ、おはようございます」


「おはよう!」


 シット! 早速後者終了のお知らせだ。いや、まだうちの話題に触れない可能性も……


「今度久我君家に行く話なんだけどさ……」


 もう確定してるんですね? 抗えないんですね? この人は全然忘れていなかった。なんたって俺の顔を見るなりだもの!


「今日でいいかな?」


「え!? なんで急に!?」


「私の友達が今日しか空いてなくってさぁ」


 別にやましいことがあるわけではないが、突然となると状況を整理する他にない。断ることもできるが、この環境下で唯一話す人物を果たして無下に扱って良いものだろうか? まてよ、二人で来るってことは二倍速で広まるってことじゃないか? 金持ちだと知られた俺は距離を置かれ、孤立するんではないだろうか?むしろ人気になるか? 金の力を行使する気は更々ないが、もしかしたらもしかするかもしれない。


「どうかな?」


「いいっすけど……」


「よし! じゃあ今日の帰り付いていくからね、よろしくー!」


 そんなこんなで今日の予定である履修登録が終わり、放課となった。今日は金曜で、土日に集計して月曜から授業開始だ。


「それじゃあ行こうか!」


「結局一人なんっすね」


「なんか皆予定入っちゃったみたいでさー」


 皆ってことは何人で来るつもりだったんだろうか、こっちとしては好都合なので解散の流れに持っていこう。


「今日来る必要ありますかね?」


「ヒマだからね! 他に理由がいるかい?」


 まぁそうだろうけど! それにしたって偶々家が近いだけの同級生の家に一人で行こうと思うかね? 見た目のふんわり感とは裏腹に中身はふんわりしてないぞこの人。


「じゃあ、行きますか」


「うん! あ、同級生なんだから未完成な敬語みたいなの使わなくていいからね」


 若干ディスられた? いやいや、そんなはずないだろう。それは置いといて、家までの道中染谷さんは終始ワクワクしていた。「どんな家なの?」とか「どんな生活してるの?」とかいくつか質問されたが、「行けば分かる」の一点張りで跳ね返しておいた。



「着いた……ぞ」


「え、どれ?」


「目の前のこれ……だけど?」


「へぇー……え!?」


 そりゃあ驚くだろう、大学生の一人暮らしなんて大多数がアパートやマンション、寮になる。仕送りで生活するにもギリギリというのが一般的だが、無駄にでかい一軒家に住んでいるというのだから。


「じゃあ、また来週」


「ちょっと待った!」


「何?」


「ここで帰るわけないでしょ?」


 流れで帰らせる作戦までも失敗した。もう折れるしかないか……結局家に上がり込まれてしまった。


「いやー久し……いや、広い家だねー」


「あぁ、おかしいと思わないのか?」


「思わないよー、お金持ちなんでしょ? それだけのことだって!」


 それだけのこと? そうか! そうだよな! たったそれだけのことに何を怯えていたんだ、何もおかしいことはないよな!ははははは!


「ところでさぁ……なんの面白味もないね!」


「はい?」


「昔は……いやいや、趣味とかないの?」


「うーん」


 余計なお世話だ。まだ必要最低限の物しか置いていないだけで、これから……増えていく……予定だ、うん。


「あるよ!? あるんだけど、まだ引っ越してきたばっかりだから置いてないっていうか、置くようなもんじゃないっていうか……」


「そっかそっか、次来たらなんか変わってるかもしれないってことね!」


 また来る気なの!? 下手すりゃ居座ろうとしてるんじゃないのこの人!? 何とかしてここの評価を下げとかないとリピーターになられてしまう……そうだ!


「ここ訳あり物件なんで何回も来ると取り付かれるかもしれないなぁ、そのおかげで安く住めてるんだけど……」


「それで一人でもこんな大きな家を買え……借りれたんだね! 納得だよ! でも、私オカルトとかホラーとか得意だから大丈夫!」


 こっちは大丈夫じゃないんだけどなぁ、ってか絶対また来る気だよね!? なんなのこの人のしぶとさ! 尊敬の域に達しそうなんですけど! だが、これでこの規模の家に住んでいても金持ちじゃないアピールはできただろう。


「それに、この前ゴミ捨て場で会ったときから思ってたんだけど、だいぶ食生活片寄ってない?」


「なぜそれを!?」


「なぜって、ゴミ袋の中カップ麺のゴミしか入ってなかったし」


 なかなか観察力に優れているが、片寄ってない!醤油に塩、豚骨に味噌とバラエティ豊かだ!


「定期的に私が作りに来てあげよう!」


「いや、結構です」


「いいよってことだね!」


 押し売りの手口じゃないか! 言い回しによっては無理やり買わされるというあの手口! 不覚にも詐欺にあってしまったようなもんだ! お巡りさんこっちです。


「今日は食材持ってないし、今日はカップ麺でしのいでね! 食べたいものがあったら学校言ってよ!極力応えるからさ!」


「はぁ……」


「じゃ、お邪魔しましたー」


 なんか奇妙なことになったぞ、誰にも知られることなく4年間暮らそうと思っていた俺の城が早速知られてしまった。さらにはどうやらリピーターになってしまったらしい。唯一の救いはその人が普通に可愛いというところか……そんな感じで俺の城主生活初めの11日間が終わった。

どうも初めまして!ロカクです!

小説を書き始めて1年ぐらいになりまして、こちらに投稿させていただくことにしました!

読みづらいところもあるかもしれませんがそこはご意見いただけると幸いです!連載作品なので週1以上では投稿しようと思ってます!何卒よろしくお願いします!

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