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あれです。なんて言えば良いのでしょう。ねえ?
ちら、とカーテンの裾を手に持ちながらリビングのソファに視線をやれば、ウンウンと熱を出して寝込んでいる『変な悪魔』さん。
今晩もいつも通りの時間に現れたまでは良いのですが、突然ぱたんと倒れて驚きました!
時代錯誤な黒のフロックコートを脱がせ、一生懸命、そりゃもう一生懸命隣の窓際のティーテーブルからリビングのソファーまで引きずりましたよ!
頭一つ分以上の身長差がありますが、細身だしベッドまで運べるかと思った私が間違いでした!
『変な悪魔』さんは着痩せするタイプだったのですね。引き締まった体は私と違って硬い筋肉だらけのようです。
なので重かったです。重かったですよ!
悪魔って寝込むものなのですか・・・?
お医者さんにはさすがに見せたらまずいですよね?
いつもは偉そうに輝く深紅の瞳は閉じられたままで、声高に「願い事を教えろ」と話す唇は苦しそうに歪められています。
ソファー隣のカーペットにぺたんと座って、『変な悪魔』さんの顔を覗き込みます。
起こさないようにそうっと、恐る恐る『変な悪魔』さんの真っ黒でツンツンした髪を撫でてみました。カチンカチンかと思ったその髪はふわっと柔らかい手触りでびっくりです。
額に置いた濡れタオルを取って手をやれば、汗ばんだ額は変わらず熱いまま。ワタシの手は冷たい方なので、『変な悪魔』さんの額の熱がじわじわと移ってきます。
熱くなったタオルを握る手に力がこもります。
誰かが元気がないのはイヤです。とても嫌です。それが例え『変な悪魔』さんだとしても嫌なんです。
早く治って。そしていつもの様に偉そうにふんぞり返ってて下さいっ・・・!
ズキンと走った胸の痛みはなんでしょう。
なんなんでしょうねこのモヤモヤ。
ズキズキモヤモヤと私の胸を締め付けます。
胸の奥が、痛いです。
「・・・泣くな」
低く熱を含んだ絞り出した声がすぐ側で聞こえました。
うっすら瞼を持ちあげた『変な自称悪魔』さんの深紅の瞳が私を見つめています。
「泣いてなんて・・・」
慌てて頬に手をやれば湿っていて、ああ、ワタシ、泣いていたのですね。
気が付いてしまえば、涙腺から一気にぶわっと涙が溢れ出してしまいました。泣きたくないのです。でも止まらない。目が痛い、息も苦しい。
こんなワタシは嫌です!
「っう・・・ごめん、なさいっ! 止まらなっ・・・」
ボロボロと涙と鼻水が止まりません。
「早く元気に・・・居なくならないでっ・・・!!」
たぶんワタシは今ヒドイ顔をしてると思います。
余分な一言も言ってしまった気がします。
『変な悪魔』さんは気怠そうに大きく息を吐き、ゆっくりと額に置いたままのワタシの手に自分の左手を重ねます。私とは違う長い指に大きな手のひらです。ああ、今日はワタシとの違いを無性に感じている気がします。
『変な悪魔』さんの熱い手と額の熱がワタシの冷たかった手を温めていきます。
暫くシクシクウジウジと泣いてしまいました。
「泣くな。お前に泣かれると調子が狂う」
いつも通りの強めの口調。
少し体を私のほうに傾けた『変な悪魔』さんの右手が動き、くしゃっとワタシの頭を撫でてくれました。髪が絡まないように、優しい手つきで何度も何度も撫でてくれました。どちらが病人なのか立場が逆転している気がします。
それがなんだかとても気持ちよくて、そして泣き疲れてしまったからなのか、妙にけだるい身体をソファに寄りかからせて、そこでワタシの意識はストンと途切れたのでした。
意識が落ちる前にかすかに聞こえた『変な悪魔』さんの呟きは、残念ながら良く聞こえませんでした。
「・・・お前はもっと危機感を持て」
前回助けて貰ったことから、主人公の中での悪魔さんの呼び名が『変な悪魔』さんにランクアップしました(笑)




