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 あれです。なんて言えば良いのでしょう。ねえ?

 黒のフロックコートを着こなした、紅い瞳の『変な自称悪魔』さんが、肝っ玉母さんのようにガミガミと怒っています。怒られているのはもちろん、ええワタシです。


「お前は俺の話を聞いているのかっ!」

 ああ、雷がまた落ちました。

 少し遠い目になりながら、先ほどの出来事を思い出します。




 今夜も恒例のティータイム。「願い事はなんだ」「特に何もないです」とお決まりの言葉を交わし、苦々しそうに眉間の皺を深くする『変な自称悪魔』さん。

 最初は短気な熱血親父風かと思っていたのですが、意外にも忍耐強いというか、まあぶっちゃけしぶとい(失礼!)方だったようです。

 何しろ何度断っても諦めずに毎晩やってきますからね。

 しかもこれといって『変な自称悪魔』さんとワタシは実のある会話もしないのです。


 最初こそ苛立った様子で威圧的に話しかけてきていた『変な自称悪魔』さんですが、何回かティータイムを一緒に過ごすようになってから、最初の頃のように苛立ちを言葉や態度には出さなくなったような気がします。眉間の皺だけは分かり易いですけれども。


 紅茶を入れて、お菓子をつまんで、お菓子や紅茶の感想を私が言って、『変な自称悪魔』さんが紅茶のお変わりを催促してきて、そして「願い事はなんだ」「特に何もないです」を繰り返し、不思議と居心地の悪くない沈黙。


なんと言いますか、気まぐれな猫と一緒にいるようです。

目つきの悪い大きな黒猫・・・想像して思わず笑ってしまいました。

 なんだと言うようにギロっと真紅の瞳がワタシに視線を寄越してきますが、それがまた笑いを引き寄せてしまいます。

 猫、ほんと、目つきの悪い黒猫ですっ!!

 これ以上笑っていると追及されてしまいそうな気がして、喉の奥で笑いを押えながら椅子から立ち上がります。


「お代わりいかがですか。お湯を沸かしてきます」

「ああ」

 上品な仕草でカップを手にした『変な自称悪魔』さんが頷きます。

 その動作はしなやかな猫のようです。


 キッチンへ入り、ポットに入れた水をコンロで沸かしつつ、お菓子も追加で持って行こうかなとコンロの反対側の棚を見やるも目ぼしい物はないようです。うーん、他に何かあったですかね?

 ピコーン!と頭の中にローストアーモンドの缶が浮かびました。

 確かこの上の棚にまだ未開封で入れておいたような・・・。


「と、届かないっ」

 踏み台がないとキッチンの上の棚には届かないワタシ。ああ、もう少し、せめて155センチは身長が欲しかったです。恨めしい気持ちで諦めてキッチンの隅に置いてある踏み台を持ってきました。まあこれを使っても一番上の段には指がギリギリ届くといった所です。


 ありました、ローストアーモンドの缶発見です!

 少し奥に入っていますが、少しずつ指で手前に引き出します。もう少しでと、取れそうです!

「と、取れたっっ!!」


 ピュイイイイイィィィ!!!!


 その瞬間、鳴り響くお湯が沸騰した合図。

「ぇ・・・」

 気を取られて手から滑り落ちるアーモンド缶。

 そこからはもうスローモーションのよう。バランスを崩したワタシはそのまま後ろへ倒れ、キッチン台へと背中を強かに打ち付け、痛みに一瞬息を詰め、顔を上げた先には倒れ来るポット。

 あ、これはマズイ。そう脳裏に過ぎり思わず瞳を閉じたのですが、次に襲ってくるであろう熱さや痛みは来ません。


「・・・あれ?」


「あれではない、だろうっ!」

 ビリビリと室内に響き渡る低く唸るような怒声。

 その声はワタシの頭上だったので、驚いてびくぅっと体が跳ねてしまいました。

 恐る恐る顔を上げれば、すぐ側に黒のフロックコートを着こなした、紅い瞳の『変な自称悪魔』さん。

 そして宙に浮かんだまま停止している沸騰したお湯入りのポット。


「す、凄い! ポットが浮いてますっ!!」

 おおー!! 凄い! さすが『変な自称悪魔』さん!

 初めてそれっぽい能力を見ました!!

 これは絶対『変な自称悪魔』さんの能力ですよね!?


「お前は馬鹿なのか阿呆なのか? ああどちらともか」


 そして冒頭に戻るわけです。はい。






 大きく『変な自称悪魔』さんはため息を付くと、いい加減お説教に飽きたのか眉間を揉み解しながら少し声のトーンを下げて話しかけてきました。

「あのな、あれ位は俺に言えば取ってやらんこともない。お前と違ってチビではないしな」

 なんとなく可哀そうな子を見るような視線です。失礼な。

 偉そうな『変な自称悪魔』さんには頼みずらいですよ。というか、「取ってやらんこともない」という言葉自体にびっくりですよ!


「それは願い事にカウントされちゃうんでしょうかね」

 まさかそれが狙いですかっ・・・!?

 ズザザっと『変な自称悪魔』さんの傍から一歩下がる。


「それくらい紅茶の為にやってやる。今は一人ではないのだから、頼ればいい」

 心外なという雰囲気で大きく目を開いた『変な自称悪魔』さんはふんと鼻を鳴らしました。

「当初と目的ずれてません?」


 ・・・一人じゃない。

 それが無性に心に響いて、でもそんな気持ちを悟られたくなくて、違う事を口走ってしまったのはここだけの秘密です。秘密ですよ?



「五月蠅い。俺は俺のやりたいようにやる」

「ありがとう、ございます」

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