3
あれです。なんて言えば良いのでしょう。ねえ?
黒のフロックコートを着こなした、『変な自称悪魔』さんが椅子に踏ん反り返って、テーブル越しのワタシを睨み付けています。
すらりと長い足が椅子の高さにあっていないのか、窮屈そうに組まれているのが目に留まります。女性サイズの脚が低めの椅子ですからね。
「おい、願い事を早く言え」
毎日毎日、姿を現すかと思えば開口一番これです。いい加減飽きないのですかね。ワタシなら飽きます。ええ飽きますとも。
『変な自称悪魔』さんは毎夜、夕食後のひと時を楽しむティータイムに現れます。最初がこの時間帯だったからでしょうか?
気が付けばその場所にいて、気が付くと姿が消えています。
「ええと、いつも言っていますが、特に何もないのでお引き取り下さい?」
毎日同じ台詞をワタシも『変な自称悪魔』さんに繰り返します。
気の強そうな真紅の瞳が、眉間に皺を寄せてぎっと細められますが、今日はいつものように怒鳴るわけでもなく、テーブルをひっくり返すわけでもなく黙っています。おや珍しい。
はあっと大きなため息を吐いた『変な自称悪魔』さんはこめかみに手をやりながら「紅茶飲ませろ」とだけ呟きました。
「ちょっと待ってくださいね」
『変な自称悪魔』さんにふふっと思わず笑いかけ、思い切り睨まれましたが気にしない!
すでに紅茶の準備は万端です。毎日のやり取りやタイミングにも慣れてきましたので、沸騰したお湯をキッチンから持ってきてティーポットに注ぐだけ。一度ポットにお湯を入れて温めて、さっとお湯は別容器に捨てる。リーフを適量ティーポットに入れてお湯を注ぎいれ、おいしくなーれ、おいしくなーれと念じるのはいつものクセです。
砂時計をひっくり返し、砂が落ちるのを静かに待ちます。
この間、私もそして『変な自称悪魔』さんも黙ります。
何故か、この砂時計の砂がサラサラと落ちている間は沈黙が落ちるのです。そして私はその時間が意外と気に入っています。
そっと『変な自称悪魔』さんに目を向ければ、踏ん反り返ったまま静かに砂時計を見つめていました。心なしかいつもの偉そうな空気が和らいでいる気がします。
あ、耳の先が尖ってるんだなあと今更気が付きました。髪の毛はワックスで固めているかのようにツンツンと逆立ってます。
「おい」
「え?」
突然掛けられた声に一瞬思考に囚われていたワタシはビクっとしました。いつの間にか『変な自称悪魔』さんは砂時計から顔を上げていたようです。
私に視線をよこし、なぜか眉間にまた皺を寄せるとふいっと窓の外、夜の闇を見つめます。
「砂時計、落ち切ったぞ」
「ああ本当ですね」
心なしか彼の尖った白い耳が、赤くなっていたのは気のせいでしょうか。不思議に一瞬思うも、すぐにワタシは紅茶を入れることに意識を向けました。
うん、今夜もまた美味しそうです。




