依存と執着 2 (悪魔視点)
今回は短めです。
眼前で蠢く黒い茨の山を眺め、眉間に皺が寄る。
「・・・・・・面倒な。誰だ持ち込んだのは」
「それを調べるのはこれを始末してからですかねえ」
背後から返ってくる呑気な声高い部下の声が癪に障る。
「お前が地道にやれば良かっただろう」
「私がこういった広範囲系に向いていないのは知っているじゃないですか」
ムリムリ増えるだけですーと軽い拒否に更に苛つく。
一度成長が始まると、恐ろしいほどの繁殖力で全てを飲み込むようにして成長し、一帯を廃土と化す厄介な植物。異常な繁殖力の強さの為、一瞬で始末は出来ない。大人数で一気に片を付けるか、この植物の生長範囲を予測してこの植物のみを滅する陣を施すか。
だからこそ俺が呼ばれたのだろう。人数を集めているうちにこれはどんどんと広がっていくであろうから。偶には仕事をしろと言う事か。
蠢く茨は思考中にも倍に増え、ヒュンと何本もの茨の蔦が襲いかかってくる。それは己に接触する前に燃え尽き、また新たな茨が燃え尽きた先から生えてくる。
《術式展開》
茨に囲まれ出した周辺は無視し、空を見上げ、ツゥと指先を動かし空中に光の陣を描く。それはこの周辺、見渡す限り全てを覆い尽くす巨大な陣となり広がっていく。久々の力の解放。
「相変わらずな規格外っぷりですね・・・」
やはり軽い感じの声高い部下の声はもう無視するに限る。
早く終わらせて帰る。帰ったらあれの出す紅茶が飲みたい。声を聴きたい。頭を撫でてやりたい。抱きしめてやりたい。それと相反するようにまた違う思いも浮かぶ。
---あれの悲しみも怒りも全てほしい。
この感情は今まで知らなかったものだ。見守るだけでよかった筈が、最近ではそれでは満足できなくなり欲が際限なく増えていく。人間の伴侶でも見つけて幸せになるべきだと考えた時期もあった。けれど、娘の隣に俺以外の男がいる事など許せそうになかった。
これは愛と呼ぶのだろうか、長年見守ってきた執着と呼ぶべきなのだろうか。ああでもどちらにしても手放せそうにはない。ゆっくりと気が付かれないように、逃げられないように、全て手に入れてみせる。
嬉しそうに俺を迎える娘の姿を思い出し、少しだけ俺は笑った。
空中の明滅し出した陣が周囲を揺るがし、すぐに光の本流に包まれ視界を覆い尽くす。
茨を全て焼き尽くす瞬間、かすかに覚えのある力を感じ取ったが、それはあまりにも一瞬で特定は出来なかった。
部下の容姿に全く興味のない悪魔さん。というかほぼ空気扱い。
主人公ちゃんは本編9〜10話時点で悪魔さんに完璧ロックオンされています。