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初恋の珈琲味  作者: LOVELESS
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第1話

初めまして。


lovelessと申します。


この作品は、このサイトで初めて投稿する作品で御座います。


至らない点や改善した方がいいと思う、と言った事を思った方は遠慮なさらずにご指摘ください。


それでは、第1章、御覧下さいまし


「ごめ~ん! 待った~?」


その言葉に私は読んでいた本から目線を外し、声の主を目線で追った。


そう言ったのは私の待ち人ではなく、私の隣で待ち合わせをしていた金髪にピアスといったいかにもチャラそうな男の待ち人だった。


「全然待ってねぇよ」


「本当!? 嬉しい~!」


チャラ男の言葉に女はジャンプして喜んでいた。


その後二人は腕を組んで街の方向に歩いて行った。


鬱陶しい、と私は心の中でそう呟いた。


傍から見てもあの二人の知能の低さが手に取るように分かった。


二人の背中が見えなくなるのを確認した私は、再び読んでいる本に目線を落とした。


私が今いるのは、都内で有名な待ち合わせ場所となっている忠犬ハチ公の前。


その像が立っている土台に背を預け、私は本を読みながら名の通り待ち合わせをしている。


ペラ、とページを捲る。


静かに本を読む私の周りでは、先程のチャラ男同様に恋人と待ち合わせをしている男女が何人もいる。


私は完全な場違いだ。


何故なら私が待っているのは恋人ではないからだ。


それ以前に、私にはそう言った感情が欠落しているのだ。


私はこの年(現在21歳)まで異性を好きになった事はない。


そう言った事は誰にでもあるのでは?


と言われることも多々あった。


しかし、私の場合は恋愛そのものが理解できないのである。


恋愛に興味がないのではなく、“理解できないのだ”。


私の両親が言うには、幼い頃は子供らしく好きな人が出来たなどと言っていたらしいが、“ある一件”から私はそう言った事に興味を示さなくなったらしい。


それ以来私の心には言いようのない消失感が支配していた。


その消失感を埋めようと様々な事をしたが、消失感が満たされることはなかった。


様々な事を試みた結果、博識になった事が唯一の利点だ。


そんな事を考えながら本を呼んでいると、私の前で立ち止まるヒールを履いた足が視界に入ってきた。


私は目線を上げると、私の目の前に黒のスーツを着て黒のスカートを履いた眼鏡をかけた女性が立っていた。


その姿は何処かの会社の社長秘書のようだった。


「貴女が辰巳さん?」


女性は私に訊ねてきた。


私はその女性が待ち人だと理解し、読んでいた本に栞を挟み肩から下げていたバックの中に本を仕舞いながら、首を縦に振った。


私が辰巳である事を確認した女性は、少し辺りを見渡してから小声で私に訊ねて来た。


「本当に、恋を成就させてくれるの?」


そう言うと女性は頬をほんのりと紅潮させ、私から目線を逸らした。


「私は恋の手助けをするだけです。恋が成就するかどうかは、貴女の努力次第です」


私がそう言うと女性は何を想像したのか、先程より顔を紅潮させ滑舌が乱れ出していた。


そんな女性の状態を無視して私は女性の用件を聞く場所を探し辺りを見渡した。


そこで私の目に留まったのは、ハチ公の斜め向かいにポツンと建っている喫茶店だった。


「貴女の話を詳しく聞きますので、とりあえずあの喫茶店にでも入りましょう」


そう言って私は目に留まった喫茶店を指差しながら女性に言った。


女性は私の指さす方向に顔を向け、喫茶店を視認してから「分かったわ」と首を縦に振った。





喫茶店に入った私達は、店内の一番奥の窓際の席に座った。


喫茶店の中はレトロな感じが漂い、今時には珍しいレコードが奏でる古めかしい外国の曲が店内に流れていた。


店の中には私達以外には客が居らず、居るのはカウンターの向こうでカップを綺麗に磨いている初老の男性が1人静かに立っていて、店内に入る際に私達に目線を向け、微笑みながら「いらっしゃいませ」と呟くように言った。


そしてもう一人、店内に入ってきた私達にお冷を持ってきたバイトの高校生らしい女の子が一人。


お冷を私と女性の前に静かに置くと、働き出して間もないのか「こちらメニューです」と不慣れな手つきで私達にメニューを差し出した。


「ご注文はお決まりですか?」


「とりあえず、コーヒーをください。貴方は?」


「私もコーヒーで」


「畏まりました」


注文を聞き終えると店員の女の子はカウンターの所に向かい、初老の男性にオーダーを伝えこれまた不慣れな手つきでコーヒーをカップに注いでいた。


そしてその子はすぐに二つのコーヒーをトレイに乗せ私達のいるテーブルまで運んできた。


「お待たせしました」と言って目の前に置かれたコーヒーから漂う独特の香りが私達の鼻腔に広がっていった。


匂いだけでこのコーヒーが美味しい事が分かった。


どうやらこの店は隠れた名店の様だ。


今度からここに通おう。


そう私は心の中で思った。


だが、この時、私はまだ知らなかった。


この店を見かけた事が、後の私の人生をガラッと変える序章であった事を・・・・・。


「それで、貴女の用件は?」


運ばれてきたコーヒーにミルクとシロップを注ぎ、ストローを回して渦を作るようにかき混ぜながら私は彼女に訊ねた。


訊ねられた彼女は少し緊張した感じでコーヒーを1口啜り、一息ついてから言葉を発した。


「私は、谷口秋子たにぐち あきこといいます。職業は社長秘書をやっています」


目の前の女性、谷口さんは私の予想と同じ職業をしていた事に少し驚いた。


「私は、今好きな人が居ます。ですが、私は今まで人を本気で好きになった事がなくて、どうすればいいのか分からなくて、貴女に相談することにしたんです」


谷口さんは顔を紅潮させ俯きながら言った。


私は見ての通り恋愛相談を受け付けている。


話を聞くだけではなくその恋が成就するようにデートのプランを考えたり相手の好みに合ったプレゼントのアドバイスなどを行っている。


今まで恋の成就確率100%。


失敗した事は一度も無い。


でも、告白する前に恋を諦めさせたことは多々ある。


人には向き不向きがあるように、相性というものがある。


どうしても相性が悪い恋は、成就させる努力をしても成就の成功率は100%に満たない。


精々五分五分と言ったところだろう。


その程度にしか満たないのなら努力しても骨折り損のくたびれ儲け、つまり時間の無駄だ。


それならば最初から諦めさせた方が新たな恋の発見に時間を費やせて実に理に適っている。


「お相手の男性は?」


私は顔を紅潮させ俯いている谷口さんに訊ねた。


「・・・私が勤めている会社の、社長です・・・・」


谷口さんの言葉に私の左の眉がピクッと動いた。


言った谷口さんは顔を真っ赤にして俯いていた。


そんな谷口さんを見て私は鼻で溜息を吐き、コーヒーを口に運んだ。


コーヒー独特の苦みと、ミルクとシロップの微かな甘みが口の中に広がって行った。


やっぱり美味しい。


コーヒーを受け皿の上に置き、今度は口から溜息を吐いた。


まさか社長がお相手とは、思いもよらなかった。


私は谷口さんの言葉に少しばかり驚いた。


「その社長の事を詳しく教えてください」


「は、はい!」


カミングアウトした事で一気に緊張感が増したのか、谷口さんの声のボリュームが少し大きくなった。





「ハァ、」


谷口さんの話を聞き終え、私はコーヒーを飲み切り溜息を吐いた。


谷口さんは仕事があるからと言って、先程店を出て行った。


今はこの店に店員二人と私の三人しかいない。


彼女の話を一通り聞き終え、私は頭の中で状況を整理していた。


彼女から聞いた社長の性格はまさに絵に描いたような男性だった。


人柄が良く、社員からも信頼され、少し子供っぽい趣味を持っているが、向き不向きがハッキリした人物の様だ。


谷口さんの性格も聞いたが、相性は悪くない。


次に彼女と会った時は、彼女の望む報告が出来るだろう。


この瞬間、私はいつも思う。


恋とはどういった感情なのだろうと。


人は自分にないものを持つ者に憧れを抱く。


それは私も同じ。


恋愛が出来ない私は、恋する彼女達が羨ましい。


そんな事を考えていると今が何時か気になり、時間を確認しようと左腕に着けている腕時計に視線を落とした。


時刻は2時を回ったところだった。


そろそろ私も戻ろう。


そう思って席を立った時だった。


カランコロンと扉についている鈴が鳴った。


客だろうかと思って視線を向けると、そこには一人の男性が立っていた。


男性にしては長い髪をしていて、その髪を後ろで結っていた。


先程のバイトの子と同じ前掛けを腰に巻いていて、白いカッターシャツを着ていた。


その男性を見た時、私の心が大きく鼓動した。


その男性を見たカウンターの男性が「お帰り」と呟いた。


その言葉に長髪の男性は「ただいま」と言った。


私の心臓が通常よりも早く鼓動している。


不意に長髪の男性が私の存在に気付いた。


「いらっしゃいませ」


そう言って彼は私に軽く会釈した。


それにつられ、私は彼に向かって深く会釈した。


頭を上げた時、私は何故会釈したのか分からなかった。


私の行動に男性二人はポカンとした表情を浮かべた後に失笑した。


その失笑に私は羞恥心を覚え、顔を紅潮させた。


早くこの場を去りたい衝動に駆られた私は、カウンターの男性に速足で駆け寄り会計を頼んだ。


「お会計、お願いします」


「畏まりました。おい、奨君」


「分かりました」


未だにニヤついている初老の男性は、私の後ろに居る長髪の男性を呼んだ。


名前は奨と言うらしい。


心の中で復唱する私は我に返った。


何故、私は彼の名前を覚えようとしているんだ。


その事で私の顔はさらに紅潮していった。


早くこの場を去りたい。


その想いを胸にバックから財布を取り出し、支払いをする準備を整えた。


奨と呼ばれた男性は、カウンターの中に入り先程のバイトの子とは違い慣れた動きをしていた。


軽やかな指捌きでレジのボタンを押していく。


「420円です」


私は即座に財布から420円を取り出しカウンターに叩き付けるように置き、逃げるように喫茶店を後にしようとした。


カウンターに背を向けた瞬間、彼が私に言ってきた。


「また、来てくださいね」


「ッ!」


その言葉に、私の中で何かが動き出した。


それが何なのかは分からない。


返答を返さず私は駆け足で店を出て行った。


そのままの足で私は駅に向かい、自宅に帰って行った。


揺れる電車の中で、ずっと私の頭を過る彼の姿。


その姿を思い浮かべる度に私の顔が熱を帯びて行った。


電車を降り、到着した駅を出て自宅に向かって私は全速力で走った。


自宅につくと、夕暮れの日差しに照らされたマンションの自宅が私の視界に広がった。


部屋についた私は、急にドッと疲れが体に圧し掛かった。


顔は未だ紅潮したままだ。


ここまで来る時でさえ、彼の顔が頭を何回も何回も過った。


その度に言いようのない恥ずかしさに包まれた。


私は鉛のような身体を引きずり、部屋の中心にあるソファーにダイブした。


走った所為で呼吸が乱れている。


こんな時でさえ、私の頭に浮かぶのは喫茶店で出会った彼だった。


「私、一体どうしちゃったんだろう?」


誰に言うでもなく、私は一人呟いた。


本当に、私はどうしたんだろう?


彼の姿を思い浮かべたまま、私は夢の中に旅立っていった。


To be continued


いかがでしたでしょうか?


お気に召されましたでしょうか?


お読みになられた皆様の感想やご意見をお聞きしたいので、宜しければご感想の方、宜しくお願い致します。

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